転生と未来の悪役

那原涼

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第五章

フランとニワノエ

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「店長……?」

信じられない顔でフランはカナトを指さした。

「そーだよ。俺だよ」

「………」

「黙るなよ!本当だ!あと言っておくけど、アレストがどうしようと俺の意思じゃない!お前を……」

カナトがチラッとレリィを見た。察したレリィは軽いため息をついて「片付けをして来ますね」と出て行った。

だが去り際にカナトの皿洗いを永久的に禁止した。

足音がなくなるのを確認するとカナトがホッとしたため息をついた。

「怒られずに済んだ……」

「………」

「あ、さっきの話だな。例えアレストがお前を殺したいとしても俺は違う!」

「……本当なのか?」

「当たり前だろ!じゃないとわざわざあいつのそばを離れてこんなところに来ない」

察するに、ニワノエも似たような理由で来たと思われる。なのでカナトはニワノエもこの場に呼んで一緒に説明したほうがいいのではと考えた。

そしてその考えをまるで知ったかのように、ニワノエが部屋に入って来た。

「さっきレリィに、あなたに関係する話題かもしれないから行ってこいって言われたけど……」

その目が遠慮気味にフランを見る。

「レリィが?」

「そうだと言ってるだろ」

カナトは顔を覆いたくなった。

たぶんだが、レリィは2人がなんでここにいるのか最初から理由をわかっているはずである。なんなら自分以外、この店の店員は全員知っているのではないか。

時間見つけて聞かないとな。

何事に関しても自分が知るのはいつも最後な気がする。

アレストが何をしたいのかまったくわからない。

原作通りならアレストが周りの者へ攻撃するのはユシルが現れてからの、激変する周りの態度が原因だが、今のアレストは恨みをあきらめたはずである。

もしかしたらあきらめたのはユシルやイグナスへの恨みだけで、周りの者への恨みは消えていないんじゃないか。

その可能性に思い至ると、ニワノエやフランの現在の境遇もなんとなく理解できた。

アレストは最初から自分を見下す者たちを許すつもりがなかったのかもしれない。

「その、一応聞くけどさ、お前もここで働くつもりなのか?」

フランを見るとあちらは、何を言っているんだこのバカは、という目で見返して来た。

「王族である私を働かせるつもりか。いやはや、凡人の考えることはよくわからないね」

仕方なさそうに首を振られた。

「じゃあすぐに出ていけよ」

「何!?私を追い出すつもりか!」

「じゃあ何しに来たんだよ!ここは保護動物園じゃねぇんだぞ!」

「普通は私を敬い、最上級の食べ物と寝床を用意するべきではないか!」

「どこの王族だよ!」

「この国の王族だ!」

「働かないニートめ!」

「に、にぃと?何を言っているのか知らないが、私は今お腹がすいている。何か食べ物を持って来い!」

「偉そうに命令してんじゃねぇよ!助けてもらっている身で。たくっ、とりあえずニワノエと店の掃除でもしていろ」

「そ、掃除?この私が?使用人のような真似を?正気か?」

カナトがげんなりした顔になった。

この尊大な人をどうやって働かせるかな。

そこへニワノエがうやうやしくフランの前に出た。

「殿下、掃除も食べ物もぜひ自分に任せてください」

「きみは確かウェンワイズの……」

「はい。ニワノエとお呼びください」

「なるほど……その態度、気に入った!アレストを排除し、王室に戻った際は貴殿の家名と爵位を取り戻そう」

「本当ですか!ありがとうございます!」

フランがふんっと得意げに笑った。

「どうでもいいけど、お前の寝床はニワノエと共同な」

「何!?この部屋は私のために用意したんじゃ……!」

「そんなわけないだろ。俺の部屋だし」

「代われ!」

「いやだよ!とにかく、ニワノエもお前も倉庫隣の空いている部屋を使え!贅沢は言うなよ!」

「倉庫隣り!!?」

フランが頭痛でもするようにひたいを押さえるとそのままベッドに倒れた。

「殿下!!」

ニワノエの慌てた姿にカナトは膨大なため息をもらした。

大丈夫か、この2人。














その翌日からニワノエとフランは働き出した。

正確にはニワノエ1人である。フランはあちこちほこりがある、汚れが残っているとダメ出しをしてニワノエに掃除させている。

朝の開店準備で、店の真ん中に立っているフランがさっとその美しい金の長髪をはらった。

「私が来たからにはこの店は一番でなければいけない。心して掃除せよ!」

何様だよ。

カウンターを拭いていたカナトは、ニワノエに止まらず、店員たちにも指示を飛ばすが無視されて怒るフランを、子どもでも見るような目で見た。

「店長、もう大丈夫ですよ。残りは私がやっておきますから」

レリィが温かい紅茶とクッキーをカナトに差し出しながらそう言った。

「もういいのか?」

「はい。あとはお店の商品を覚えるだけで大丈夫ですよ」

「そうか……。じゃあ、ありがたく!」

カナトが嬉々と持ってこられたお菓子を食べ始めた。それを見たフランもずいっとレリィの前に立ちはだかった。

「私にも紅茶の用意を。正しい淹れ方は知っているんだな?あとおやつは……そうだな。あのりんごパイでいい」

そう言って窓辺に飾られている商品を指さした。

レリィは指さされた方向に顔を向けたが、冷めた目で、

「あれは商品です」

それだけ言うと去って行った。

あまりにもずさんな対応にフランが固まった。

「なんて教養のない女なんだ……」

「この場で一番教養がないのはお前だよ」

カナトが頬杖をつきながら吐き捨てると、フランがキッとにらみ返して声を荒げた。

「なぜお前だけそのような待遇を受けている!一番何もしてないだろう!」

「否定はしねぇけど、お前が言うかよ!というか俺ここの店長だし!」

カナトがいい待遇を受けている本当の理由を知れば、おそらくフランは今こうして憤慨できないのだろう。だがカナトは言うつもりがなかった。

フランが今いるこの場所は正直に言えばアレストの抱えている暗殺者がうじゃうじゃいるので危険だが、言い換えれば彼らに狙われないうちは安全と言っていい。

世間知らずなフランが外を彷徨えばどんな目に遭うのか想像に難しくない。それならこの店にとどまらせたほうがまだマシというものである。

カナトとフランたちのやり取りを窓拭きしながら聞いていたキシューの隣にレリィが来た。同じように窓を拭きながら口を開く。

「あのゴミ虫まだいたの?」

「うん、ほぼ毎日。飽きないよな」

「まあ、あの方が許さないでしょうね」

「あんな茶番劇仕込むくらいだから、もう用済みで消されると思ったけど、あいつまだ生きてたのか」

「……それをここで言わないの。いい?」

「あの方が……」

キシューはそこでいったん言葉を切り、一瞬だけ視線をカウンターのほうへ向けてから続けた。

「手に入れるために仕込んだことだとわかればどんな反応するかねぇ」

「キシュー」

レリィのいつになく低い声にキシューもヤバいと感じたのかどうか、ちろっと舌を出すと黙った。

「私たちは仕事と命令をこなすだけでいい」

「わかっている。すべてはあの方のためにな。……本当に忠成だな。ミツバチ」

「ここでその名前を出さないで。次口にしたらお前ののどを掻き切る」








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