転生と未来の悪役

那原涼

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第五章

誘惑

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それからしばらく経った。

最近ロンドール領でとあるお菓子の話題で持ちきりである。

カナトでもよく知っている名前であり、少し心残りを感じているお菓子だった。それはチョコレートである。

どうやら首都で固形型のチョコレートが発売されたようである。専門店販売で、この国で唯一固形チョコレートを専門に販売しているらしい。

それを客の口から知ったカナトは思わず、アレストだ!と思った。

そのチョコレートのお店の名前が『シマ・カナト』。

その名前を聞いた瞬間カナトは飲んでいた紅茶を吹き出しそうになった。

アレストで間違いない!!シマエナガと俺名前をかけやがった!!

「そ、それであの店は誰が店長なんだ?」

カナトとチョコレートの話をしていたお嬢さん2人が「聞いちゃうー?」とうれしそうに頬を染めた。

「すっごくイケメンだよね!」

「うん!最初は暗い雰囲気があって怖かったけど、そこがまたいいよね!」

「わかる!でものどが悪いのか、声がしゃがれているみたい」

「そこがまた変わっていて素敵だよね!」

「ねー!」

盛り上がっている2人にカナトが驚いた声を出した。

「え?あの店に行ったことあるのか?」

カナトも最近知ったが、それなりの家庭条件がなければ基本一般民は自分の住んでいる場所から出ないらしい。

「もしかして店長さん嫉妬した?このお店は一番の推しだよ!なんだって宰相様さえ自ら頻繁に通う有名店だよ?」

「ここのお菓子は太りにくいし、大好きだよ!たくさん食べたい時にはお祝い気分で食べているの!『シマ・カナト』に行けるのはただ仕えているお嬢様からのお使いなのよ」

「お前ら貴族邸で働いているのか?」

「えー!」

「今さらー?」

2人がくすくすと笑い合った。

カナトはなんとか笑顔を保っていたが、頭の中はチョコレートとアレストがちらついていた。

午後の忙しい時間帯を過ぎると、隙間を見つけたカナトはレリィをカウンターに呼んだ。

「なんですか?店長」

「あ、あのさ……その、うちの店では作らないのか?」

「何をですか?」

「その、チョコレート」

「ああ!最近噂されている固形チョコレートですね!」

「そうそう!」

「作れないですよ!」

「え……?」

「作り方がわかりません」

「そうだよな……」

「もしかして食べたいのですか?」

カナトが恥ずかしそうにうなずいた。

「じゃあ首都まで買いに行きましょうか?『シマ・カナト』は今のところまだ注文受け付けてないので、現地まで買いに行くしかないんです」

「嘘だろ……いや待て」

カナトが目をすがめてレリィをじっと見つめた。

「まさかとは思うが、これアレストの作戦か?」

「なんのことでしょう?」

「本当に知らないのか?お前たちあの長髪と赤毛が店に来た理由も知っているだろ」

わざと2人の名前を伏せた。誰が聞いているのかわからないため、こういうところで慎重にならなければいけない。

「はい!それは知っていますよ」

「やっぱりな!」

「でもアレスト様の作戦かどうかはわかりません」

「……信じれねぇな」

「店長、もしかしてアレスト様のこと気になっていますか?」

「……………。なってねぇよ!」











しかしあれから少し経つと、今度はアーモンド入りチョコレートやチョコレートを使ったスイーツが販売されるようになった。

カナトの店にもそのことが来客とともにもたされる。

「チョコレート…チョコレート…アーモンド…チョコレート…チョコレート…」

カウンターでカナトがうつむきながらぶつぶつと何かをつぶやいていた。

その不気味な姿にフランとニワノエが遠慮気味に遠のいていく。

「ついに壊れたかあいつ……」

少し前からカナトはぼうとするようになった。

「私がいながらあそこまで気を散らせるとは……不敬な!」

「殿下の御前だとまぶしずきて直視できないですよ!」

「ふん。当たり前だ」

フランがさっとその美しい金髪をはらった。そこへレリィが「じゃま」と言いながら2人の間を手で押し開けて通った。

「店長、午後からロンドール領の領主が来るらしいです」

「……デオンが?」

「はい」

「そうか…歓迎したほうがいいか?」

「いいえ、何もしなくても大丈夫だと思います」

「本当かよ……」

「信じてください!」

「わかったって」

レリィの言った通り、午後になるとデオンが店に現れた。

ちなみに今フランとニワノエは身バレしないよう、人目を避けるために奥へ引っ込んで皿洗いをしている。

おそらく今まで皿洗いとはなんぞやのニワノエがなぜかカナトよりうまくやっている。フランは相変わらず指示しか飛ばさない。

「よお、うまくやっているか?」

「黙れ」

「まだ怒っているのか。お前とアレストの仲繋いであげた恩人じゃねぇか」

「うるせぇ!」

「そういや前回の菓子、兄貴がかなり気に入ってな、またもらえないか?」

「はあ、好きに選べば?」

「お、そうだ。これやるよ」

そう言ってデオンはポケットから何かを取り出した。

「なんだそれ」

「ほらよ」

ぽいと投げ出されたそれを慌てて空中キャッチする。

「いきなり投げるなよ……ん?こ、これは!」

包みを開けると現れたのは四角い板状の食べ物である。

濃厚な甘い香りと艶のある表面にごくりとのどを動かす。

「金はここに置いとくぜ」

いつの間にか菓子を選んだデオンは、まるで役目を終えたとばかりに手をひらひらさせて出て行った。

カナトは震える手でチョコレート以外に考えられないそれをつまみ上げた。

はむと慎重に口へ運ぶと、それは苦味がなく、日本人好みの甘いチョコレートだった。

「うまい……」












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