転生と未来の悪役

那原涼

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第五章

間違っていないはずだ

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デオンが持ってきたチョコレートを食べてから、カナトの食べたい欲は収まるところが、さらに強くなっていった。

首都でしか手に入らないため買いに行くしかないのだが、カナトがなんとかお願いをして店員たちに頼んでもみんな一様に忙しいと行けなかった。

どうするべきか悩んでいると、レリィが近づいて言う。

「店長が直接首都へ行ってみればいいじゃないですか」

「………」

「首都にならご同行できますよ!」

「お前らやっぱりアレストと結託してるだろ!」

結託も何も、レリィたちはもとよりアレストの命令で動いている。

「俺がバカだからってナメすぎだ!」

「じゃあ仕方ないですね」

「え?」

「ここにいては永遠にもうチョコレートなんて食べられないと思います」

「………ぐぅ」

「買いに行くだけなら会いませんよ」

「……お前ら告げ口しないよな?」

「しません!」

「信じたぞ!」

かくして、カナトの首都行きが決まった。












首都行き当日、カナトは店員たちに隠れながらこちらを見てくるフランとニワノエに手を振った。

「じゃあ行ってくる」

「首都に行くだけだというのに、なんて騒々しい……」

「首都なんて魔の巣窟だ!さっさと行って帰って来い!」

……別れを惜しまれている?そんなわけないか。

隣を見るとキシューがレリィと言葉を少し交わしてからうなずいていた。

「あのゴミ虫は駆除しておく」

なんだ?店に虫でも湧いてきたのか?この寒い季節に?

カナトが不思議そうにしていると、気づいたレリィがにっこりと笑った。

「さあ、行きましょう!」

うながされるまま馬車に乗ってガタゴトと揺られた。

道中、カナトは何度か窓から外を見たが、危険だからと引っ込まされた。

「ここから首都まで、およそ半日程度ですので、お疲れでしたらどうぞおっしゃってください。どこかで休みましょ」

「いや、できれば早く行って帰りたい……」

むしろアレストに出会わない保証がないため、カナトは終始不安にしていた。

そばに帰って欲しいならそう思わせろと言ったため、なかなか合わせる顔がない。

不安なまま馬車の中で眠り、そして目が覚めた頃についたようである。

「店長、おきてください。つきましたよ」

ゆすられてカナトが薄っすらと目を開ける。

レリィがニコニコしながら見下ろしてくるのに気づいて、カナトは慌てて両頬を叩いて目を覚ました。

「ごめん!ありがと。寝てしまったな」

「いいえ。もし疲れたならこのまま首都に一晩泊まりますか?」

「泊まらない!!」

「ふふ、わかりました」

レリィに続いて馬車を降りると、カナトは警戒するように左右を見渡した。

いないな……。

いないと確認していても店に入るまで警戒は消えなかった。

とはいえ、店内に入る前から漂う甘い香りにカナトのよだれが垂れそうになる。

そして店内に入ると「いらっしゃい……」という、やや言い慣れない、低くかすれ気味の声が響いてきた。

その声にどこか聞き覚えがあり、店内を見ていたカナトが視線を向けた。

「………」

見た人物に思わず口を開けて呆けた。

陰湿なイメージを受ける目は相変わらずだが、前髪を上げ、手を後ろにして背を伸ばして立つその姿があまりにも印象が違って見えた。

ふと店でお嬢さんたちがこの店の店長がかっこいい、声がしゃがれていると言っていたのを思い出した。

「……シ…ド…」

「……久しぶりだな」

「本物、だよな……」

ゆっくりとうなずかれ、カナトがそっと近づいてその腕に触れた。

「触れる……」

「………」

「本当だったのか……てっきりアレストが俺をよろこばせるための嘘かと思った」

「あいつがそんなバレやすい嘘をつくか」

「よかった……本当に……うっ」

「泣くな」

「でもぉ……」

「はあ。それより、お前がアレストのところに戻るための条件を出したそうだな」

「え?ああ……していた」

「戻りたいのか?」

「……わからない」

「そうか」

迷っているということは戻りたい気がある。それを察したシドはちらっとカナトの背後に立つレリィへ視線を向けた。

笑顔だが、その目だけは冷たい光をはらんでいる。警告を含ませた視線にシドは鼻で笑い返した。

「シド?」

「いや、なんでもない。お前が決めればいい」

そもそも、カナトみたいな脳みその持ち主がアレストと恋人になる時点ですでに主導権を明け渡しているようなものである。

条件を出したと言うが、アレストは何がなんでもカナトを連れ戻すはずだ。カナト相手なら必ずそうできる。

拷問をされ、殺意を向けられ、それでなおここまで迷うなら、カナトはむしろアレストのそばにいたほうがいい。今のアレストの権力を思えば、無理に離れるほうが危険である。

それがシドの考えだった。

だからレリィの視線にも嘲笑じみたわらいで返した。例えそんな目をしなくても、自分ではカナトを守れないことはよくわかる。

さすがに『コドク』という組織を敵に回すほど感情的ではない。

だが、それもカナトの最終決定による。もし本当に離れるつもりなら、シドはそのために身を捨てる覚悟を持っていた。

ただ、現状を見るにその可能性は低そうである。

カナトが店内を見回しながら笑顔で言った。

「俺とおそろいだな!俺も今店長しているんだよ!」

「……そうだな。今日は特別だから、好きなだけ商品を選べ。俺がおごる」

「いいのか……?」

「今日は特別だと言っただろ?今日だけだ」

そう言われてカナトが慌て始めた。その手にポンとトレーが渡される。

「他の客が来る前に早くとって来い」

サッと商品を選び始めたカナトの姿に、シドがまぶしげに目を細めた。

……これでいいはずだ。

今日はカナトのために店はほとんど貸切状態である。これもアレストの命令である。

「それでいいんです」

シドの隣に来たレリィがフッと笑う。

「あなたはご自身の立場を少しわかってきたようだね」

「お前の変わりようには相変わらず驚くな。さすが変幻自在だな」

「褒め言葉として受け取っておきます」

「……あいつが言うにはあと数日でカナトが戻るらしい。準備しておけとさ」

「わかりました。戻る準備をしておきますね」

チョコレートを選び終えたカナトが嬉々と戻ってきた。

いい意味でも、悪い意味でも純真な笑顔に思わず笑いそうになる。

間違っていない……はずだ。









一方で、ゴミ虫を駆除し終わったキシューは、偽装工作のかたわら、手に入れたチョコレートを口の中に放り込んだ。

「なるほど……甘いな」

少々甘すぎるくらいである。

暴漢に襲われた、という設定にした男の死体を眺めながら甘みがさらに増していく気がした。

血みどろな場所で生き延びたキシューにとって血臭は何よりも当たり前で、勝利の芳香といってもいい。

さて、帰るか。

ずっと店を遠くからのぞいて、アレストがカナトを助けた件から人を雇い、店を襲撃させようとした男はアイリの元雇い主である。

この店がそんなに容易く手を出せないとわかって、店自体に恨みを持つ人、そしていまだに魔女狩りの禁止令に納得のいかない人を集め、店を襲撃する計画を企てていた。

一人では決行する勇気がなくとも、群れればなんでもできる。

そういう人に限ってキシューの嫌いなタイプだった。

かつて生存戦で共に生きて出ようと誓った“仲間たち”は手を取り合って自分を犠牲にすることを選んだ。一人だけでは決して判断できなかったことである。

生きるために仕方のないことだと自分たちを説得し、ややそのお気楽な考えを持つ輪に入れなかったキシューを選んだ。

その仲間たちも結局生存戦の過酷さを見誤り、お互い殺し合わないといけなかった。

「強い者の監視下で何ができる。失敗すると言ったのにな」

誰に向けて言ったのか、その目は黒々とした雲に隠れた月を見上げていた。





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