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第五章
強か
しおりを挟むカナトが満面の笑みでチョコレートの入った箱を抱えながら馬車のなかで寝転がった。
「シド生きていたのか……」
そう言って、ひひ、と笑う。
「アレスト嘘ついてないんだな」
「はい、そのようですね!」
レリィが手を合わせてにっこりと笑う。だがカナトはサッとにらんだ。
「言っておくが、お前ら信じたわけじゃないからな!」
「ふふ、知っています。店長ったら可愛い」
「おい!可愛いって言うな!」
「はーい」
絶対反省してないな。
カナトがブスッとして顔をそらした。
馬車は進み、ほとんど夜に近い時間帯に店へついた。
この時間帯ならとっくに店は閉じているはずである。なのに、見やるとなぜか光がついている。
あれ?誰か明かり消し忘れたか?
馬車が止まり、カナトがチョコレートの入った箱を抱えながら降りた。店の近くには別の馬車が停められていた。
何も考えずに店のドアを開けると、カナトがぐわっと目を見開いた。
音に気づいて店の中で立っていた長身金髪の男が振り向いた。
「アレスト……」
「カナト……すれ違いだったのか。残念だな」
声にも残念さがにじみ出ていた。
カナトが最初こそ固まっていたが、すぐに下を向いた。
「な、なんで……」
「驚かせて悪かった。カナトがチョコレートを気に入ったとデオンから聞いて、それで今日持って来れたらと思ったんだ」
ちらっと見ると、アレストの腕には精巧な箱が抱えられていた。
「でもすれ違いだったみたいだな。ここに置いておくよ」
箱を近くのテーブルに置くと、アレストは「会えうれしかった。それじゃあ」と出て行った。
チョコレートを届けに来ただけの様子に、カナトが慌ててアレストが去った方向を見た。馬車の音が聞こえ、やがてそれが遠のいていく。
視線をおのずとレリィに向けた。
「……し、知っていたのか?アレストが来ることは」
「いいえ、知りませんでしたよ」
もっともらしく言いながらレリィが笑う。
「そっか……」
精巧な箱を見つめてカナトが目線を伏せた。
箱を二つ抱えたまま部屋へ戻ると、なぜか部屋にニワノエとフランがいた。
片方は椅子を武器にカナトを驚いた表情で見、片方は布団を盾にその後ろに立っている。
「……何やってんだお前ら」
「アレストが来ただろ!」
ニワノエは手が震えているにも関わらず、椅子をぎゅっとつかんでいる。そろそろ落ちそうに見える。
「あー、なるほど。もういないから椅子を降ろせよ」
「本当なんだな!お前がアレストと手を組んで私をだまそうとしてないな!」
フランが布団の向こうに隠れながら叫んだ。
「するかよ……。俺だって避けているし」
「本当なんだな!」
「本当だって!」
この後、カナトはとにかく2人を安心させるために言葉をかけた。これほどまでに他人を気遣うのも久しぶりである。
翌日の昼、話しかけてくる貴族を威嚇して退散させてからチョコレートを楽しんでいたカナトの耳に噂が飛んできた。
どうやらこの国の第二王子は兄である現国王、フレジアドの暗殺に失敗して現在追放の身であるらしい。暗殺の理由は王位であるという。
威嚇されるせいで、カナトに話しかけられない貴族たちが持ち前の噂話で話し合っていた。
「今、元王子殿はすでに国を出ているんでしょうな」
「そうとも限らない。意外とこの国に残っているのかもしれんぞ」
「まさか」
「あの見た目では国を出る前にどこかの娼館に連れこまれているかもしれんぞ?」
「ハハハ!それはあり得るな!」
カナトが眉をしかめながら聞き耳を立てていた。
あの「兄様」とフレジアドを慕う人物が暗殺を?
そしてカナトは、フランがまだ第二王子である時から貴族にはやし立てられていた光景を覚えていた。
それがこんな風に笑い話にできるほど軽い扱いだったのかと、その態度の違いに悪寒すら覚える。
なんだか食べていたチョコレートでさえ不味く感じてくる。今食べているのはちょうどアレストが持って来た分である。
せっかくのチョコレートが台無しだな。
無性に怒りを感じて噂話をしていた貴族たちに顔を向けた時だった。
レリィがずいっと貴族たちの前に立った。
「失礼ですが、そのような話題は外でしてください」
「なんだ、お前は!」
「口の聞き方にーー」
「正直に言いますと店の営業の邪魔です。それは店長も望まれていません」
貴族たちがカナトを見た。カナトはそれに合わせてキッと目を吊り上げる。
するとさっきまで威勢が良かったはずの貴族たちはすごすごと出ていくか、黙って菓子選びを始めた。
店仕舞いの時間が近づいてくると、カナトはドタドタと部屋に駆け込んでいく。
いつの間にか自部屋がニワノエとフランの避難場所になっていた。
「なぜこの店にはこんなにも貴族が来るんだ。まったくもって騒々しい」
「まったくです殿下!こっちにまで話し声が聞こえて来ますよね!」
「……聞こえていたのか?」
ベッドに足組みをして座っていたフランがその言葉にカナトを見た。
「もちろん」
「気にするな」
「不敬な!」
「は……?」
「なぜ私がお前に心配されないといけない!なめられたものだな。こんな噂程度でこの私が傷つくと思ったのか?まさか。あんな取るに足りないやつらなど目に入った砂と大して変わらないな。なんなら砂ですらない。道端のほこりだ。うむ、間違いない」
どうやら心配しなくてもちゃんと強かのようである。
そしてカナトが改めてこの2人を見た時、ふと気づいた。
なんだかこの店に悪いやつら、と言うより悪役寄りのやつらばかりが来る。
ニワノエやフランは悪役と呼ぶほど目立つことはないが、やっていることは特別ほめられたものでもない。
だが、この店にやってくるデオンやアレスト、そしてあの口達者な貴族たちを加味して考えると、割と悪の巣窟に思えてくる。
なんなんだよ、この店。
「あと、一つ訂正するなら私は兄様を暗殺しようとしたことなどない。そもそもこれは全てアレストの仕業だ!」
「まあ……俺もそう思う」
普通にアレストが何かをしたと考えたほうが普通である。
そんな回答が返されると思わなかったのか、フランが驚いた表情で眉を上げた。
「本当か?」
「だってお前、フレジアドのこと尊敬してーー」
「不敬な!!」
「あ?」
「国王の名前を直接呼ぶなど不敬にも程がある!国王陛下と呼ぶんだ!この無礼者!」
……めんどくさ!!
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