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第五章
その決断1
しおりを挟むフランがなぜ逃亡の身になったのかと理解してすぐ、今度はニワノエがなぜ同じ状況になったのかも噂で知った。
大まか原作通り、家の破産で路頭に迷うこととなった。家族ともどもバラバラで逃げているらしい。
カナトは、ニワノエに確か美しい妹シュナがいたはずだと覚えている。
彼女も逃げているのだろうか。もし店のことを知ってニワノエやフランみたいに来てくれないだろうかと考えた。
その考えをニワノエにそれとなく打ち明けたが、どうやらシュナだけは嫁いでいたので、この難から逃れることができたらしい。
一安心したところへ、そもそもアレストにやめさせればすべて解決するのではないだろうか、という考えにいたるも、今のアレストにどうこう言える立場ではない。
しかし、とある日の閉店後、ちょうどアレストが来店した。
「店長!」
レリィがうれしそうにカナトのもとへ駆け寄った。
「今日来られるそうですよ!」
「ん?誰が?」
キシューと一緒にほうきで片付けをしていたカナトが顔を上げた。
「アレスト様です!」
「……ん?誰だって!?ア、アレストが?」
「はい!」
「い、いつ……」
「現在外にいますよ」
「はあ!?」
ドアベルが鳴り、たった今逃げようとしたカナトがハッと顔を向く。
「レリィがなかなか戻って来ないから、心配して勝手に店の中に入ってしまった。驚かせたか?」
「………っ」
カナトがパッと視線を落とす。
「レリィ……お前っ」
「申し訳ありません」
そう思っているようには絶対に聞こえない口調である。
カナトは心の中でレリィに愚痴りながらなんとかこの場を切り抜ける方法を考えた。
「俺……お腹が痛いから部屋にーー」
「フラン殿下とニワノエは元気か?」
「………っ!!?」
「たまたまここにいると知ってな。あんなやつらでも助けるきみは本当に優しいな」
「………」
ダラダラ冷や汗を流しながらカナトが両手を握りしめた。
アレストならあの2人がここにいるって知っていてもおかしくないけど、なんで今2人の名前を出すんだ?
「実はきみを害する者を全て排除しようとしたが、まさかそのうち、あの2人がここに来るなんて思わなかった。しかもきみと仲良くやっているようで?」
「ち、違う!」
まさかまた裏切りと思われたんじゃ!?いや、でも待て。俺のために排除した?ん?
「緊張しなくていい。責めるつもりはないんだ。ただ、少し意外で。もう二度と迷惑はかけないから、今回は許してほしい。もっと徹底的に後片付けをするから」
「待って!」
「なんだ?」
「その、俺のために排除って、どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ。きみに無礼を働いた者たちに罰を与えている」
「もしかして……ニワノエやフランは俺のせいで?」
アレストがほんの少し間を開けてから、フッと笑った。
「違う。彼らはただ受けるべき罰を受けただけだ。僕は、きみを蔑ろにするすべての存在が許せない」
その言葉にやや暗く重たいものが混じる。
アレストが恨みを感じてしたんじゃなくて、俺のため!?
「ちょっと待ってくれ……それじゃあ俺は……」
「これに対してカナトは気負わなくていい。言っただろ?きみが安心できるようにすると」
アレストの病み具合がまったく変わっていない。
カナトの素直な感想だった。これじゃあ、あとどれぐらい被害者が出るのかわからない。
「そこまで…しなくていい」
「でもカナトが安心できないとーー」
「こんなことされたほうが安心できないだろ!気負わなくていいと言うけどできるかよ!本当に俺に安心してほしいなら今すぐこんなことやめろ!」
「……うん、わかった」
「え?」
あんまりにもあっさりと了承されて思わず顔を上げた。
アレストの慈愛に満ちたような優しげな笑顔に一瞬見惚れるが、すぐに視線を下げた。
「い、いいのか?」
「もちろん。きみが嫌だと言うなら何もしない」
少し考えてから、カナトがゆっくりと口を開く。
「ニワノエやフランのこともどうにかならないか?あと、あいつら以外にもいるなら……」
「わかった。ニワノエと殿下のことについては早急になんとかしよう。他の人は時間がかかると思うけど、それでも大丈夫か?」
あっさり過ぎてさっきと同じ人物かどうか疑いそうになる。
「……俺の言いたい意味って、伝わっているか?」
「あの人たちを助けたい、そうだろう?」
「いやまあ、そうなんだけど……」
それをこうも簡単に聞いてくれるとなんだか慣れない。
今までアレストが復讐や恨みに関しては、例え自分がいくら言葉をかけても通じ合わなかった。
だが今回は自分のためにやったことらしい。あっさりと聞き入ってくれるのはそのせいかもしれない。
「他には?」
「え?」
「カナトがこうなったらいいとか、僕にしてほしいことはないか?なんでもいい。今はきみのために何かをすることだけが生きがいなんだ」
「……今は、ない」
「そうか……」
少し残念そうな声にカナトの心が揺れ動いた。
ニワノエたちのこともそうだが、ユシルに関してのこともすべて自分のためにしている。恨みや復讐をあきらめることも。
そう考えると今のアレストになら自分の言葉は届くのではないだろうか。
悪役という肩書きはもう拭いきれないだろうが、自分のためにイグナスの管理のもとで生活することもいとわない姿勢に、少しずつとカナトの中で恐怖心が和らいできた。
今の自分の言葉が届く、という状況に元々あったはずの圧倒的な差が薄らいでくる。
「今日は時間があったから見に来たんだ。会えて良かった。また来るよ」
「……もう行くのか?」
「長居してきみを怖がらせたくないから」
カナトがぴくっと反応した。アレストは本当に言葉通り帰ってしまった。
じっと足の先を見つめながらカナトが口を一文字に引き結んだ。眉間が迷いげに寄せられる。
何やら葛藤している姿にレリィとキシューがわずかに視線を交わした。
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