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第五章
その決断2
しおりを挟む昨日アレストが来てからカナトは夜も眠れなかった。それはニワノエとフランも同様なようで、朝から寝不足顔で周りを警戒している。
「お前ら顔洗ってこいよ」
「お前に言われたくないわ」
ニワノエが嫌そうにカナトの寝起き顔を見た。
「アレストは昨日なんて言った?お前に会いに来たんだろ!」
「落ち着けって。まあ、お前が心配するようなことじゃねぇよ」
だがニワノエは何か言いたげに口ごもらせた。
「何か言いたいなら言えよ。お前らしくねぇぞ?」
「俺の妹のことを聞いて来ただろ」
「シュナのことだろ?だからどうしたんだ?」
「頼む……妹は関係ない。手を出さないでくれ。昔のことでお前に恥をかかせたのも突っかかったのも全部俺だ」
「………?」
少ししてからカナトがバッと自分を指差す。
「俺がアレストに何か言ったと思ったのか!?」
「仕方ないだろ!妹を聞いて来たこととアレストが来るタイミングが良すぎている……」
言われてみれば確かにそうである。
「なんもしねぇよ!むしろアレストにお前たちのことをどうにかできないか頼んでいたんだよ!」
「「………っ!!」」
ニワノエとフランがギョッと目をむいた。
「貴様やはり私を騙していたな!!」
………ダメだ。説明がうまくできない。
「お前たちを助けるって意味なんだよ!元の生活に戻れるかもしれないんだから大人しくしてろ!」
元の生活に戻れる、と言えばニワノエたちがよろこぶと思った。だが実際はその言葉をまったく信用されないばかりか、カナトのことをまるで裏切り者のような目で見るようになった。
「貴様は王族を騙すつもりか!いいのか!?」
カナトが近くを通ると必ずフランにそう言われる。
「……なんか、悪いな。怖がらせて」
「怖がってなどいない!!」
「そうか」
カナトは興味なさげに通り過ぎると店内にいるはずのレリィを探した。
どこにいるんだ?
「おや?店長、私をお探しですか?」
「おわっ!?」
背後から響いた声に思わず驚いた。
「なんでお前たちは足音出さないんだよ!」
すると、きょとんとしたレリィが恥ずかしそうに頬をかいた。
「慣れたもので……」
本職を考えるにそれもそうであろう。カナトはぐぬぬと黙った。
「まあ、それはもういいんだけど……その、今少しいいか?」
「いいですよ」
周りを見渡してからレリィを角のほうに連れて行く。
店員たちはまるで察したように接客中の客を連れて何気に距離を取った。
「あ、あのさ、アレストは次いつ来るんだ?というか、いつ来るか知っているか?」
「知っています。でもどうしてそれを聞くのですか?」
「い、いいだろ!別に……」
カナトは少しもじもじした後、こそっと言う。
「会いたい……って、伝えてくれないか?」
そう言ったきり真っ赤な顔で黙ってしまった。ただ眉だけはまだ迷いげに寄せられている。
「はい!もちろんです!絶対よろこばれますよ!」
「そ、そうか……?」
「はい!」
やはりというか、そう言った翌日の閉店時間に、さっそくアレストが現れた。
閉店時間なので、裏で手伝っていたニワノエとフランが表に出て店の清掃をしていた。
だから突然入って来た誰かにパッとそばにいた店員の後ろに隠れた。
だが、来訪者がアレストだとわかると2人ともあんぐりと口を開けて固まってしまった。
カウンターで台拭きをしていたカナトもポカンとしてしまったが、すぐに雑巾を離して軽く身だしなみを整えるとアレストの前に来た。
「あ、あの……お、俺が呼んだ…じゃなくて!その、あ……会いーー!」
突然大きな腕に抱き込まれてカナトの体が硬直する。
「僕に会いたいと言ったのは、本当なのか?」
「………うん」
「うれしいな。きみから言われるなんて。少しは受け入れてくれたかな」
「………そのこと、なんだけど、俺……まだ目を合わせるのも、本当は触れるのも……」
ハッとしたアレストが腕を離した。
「すまない。びっくりしただろ?うれしすぎてつい」
「あのさ……本当なんだよな……?」
「うん?」
「ユシルたちのことも、ニワノエやフランのことも……」
「本当だよ。カナトがそう望んでいるのだろう?ちゃんと約束を守って、フランの身分を戻すことが近々できる。ニワノエに関しては……」
アレストの目が一瞬震えているニワノエをとらえるが、まるでほこりでも見るように何も感じさせない目でまたカナトを見る……と思えば優しさがにじみ出すようにその目が細められた。
「あと少しかかるけど、彼のご両親は現在すでに首都に迎えている」
「なら、よかった……」
その後何もしゃべらずに少し黙っていると、アレストがそっと手のひらを見せた。
「もう少しだけ触れてもいいか?」
「……ッ、うん」
頬にアレスト手が軽く触れ、それが首筋をなぞり、また頬に戻り、そして耳たぶをなでた。なんだか曖昧な手つきにカナトの顔がどんどん赤くなっていく。
「も、もういいだろ……」
恥ずかしさからなのか、カナトの声が震えていた。
そうじゃないとわかっているが、アレストはわざと「怖がらせて悪かった」と口にした。手を引っ込めて、
「それじゃあ、また今度。今日は会えてうれしかったよ」
「え……?ま、待って!」
身をひるがえしたアレストが、うん?と振り返る。
「あ、明日!忙しいか?」
「明日は暇かな」
宰相としてほぼ暇な日はないが、カナトのために忙しくても暇と言えるのがアレストである。
「じゃあさ、来てまたすぐに帰るの大変だろ?い、一泊……していかないか?」
「……いいのか?」
「うん……毎回、気を遣ってくれるし、俺も……」
「ありがとうカナト。本当にうれしいよ」
弾ませた声にカナトもわずかに心臓がうるさくなるのを感じた。
「馬車を近くの宿に泊まらせるから、少し待ってくれないか?」
カナトがこくこくとうなずく。
店を出て、口を覆ったアレストは密かに口元を吊り上げた。
ーーああ、うまくいき過ぎている。
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