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番外編
アレストの魔力2
しおりを挟むアレストの魔力がどこから来たのか気になりすぎてカナトは夜も眠れなかった。
あちこち動き回って気がつけば床で寝てしまい、部屋に入ってきた誰かに抱き起こされた。
「うぅ」
カナトから小さいうめき声がもれる。
「………」
カナトを抱き上げたまま、アレストはそっとベッドに運んであげた。ついでに着替えもすませてカナトに布団まで被せた。
そのまま出ていくことはせず、アレストはベッドの前に立ったままカナトを見下ろしている。やがて手を伸ばしてその額へおいた。
「………また増えている」
カナトの体に本来増えることはない魔力が蓄えられていた。
結界で外部と遮断されたこの場所では自然の力など受けられない。そのため、ユシルが言うにはカナトは魔女としての魔力を増やせないはずである。
だが、アレストが送り込んだ魔力もろとも増幅されている。その魔力でさえカナトから吸い取ったものである。なのに、また増えていた。
アレストは手を離してあごに持っていった。
考える素振りをしたあと、音を立てずに部屋を出ていく。
その3日後、ユシルが屋敷へ来た。
アレストはユシルの対面に座り、対外的な笑顔すら浮かべていない。
「確認したいことがある」
さっそくの本題にユシルが背筋を正す。
「な、何?」
「カナトの魔力が増えている。なぜだ」
「え?ふ、増えている?」
「ああ。カナトが触れてきたものを確認してきたが、特に魔力となるようなものはない」
「おかしいな……。魔力は自然と触れ合うこと、特に植物と深く関係しているのに。結界が張られたこの場所でそれはあり得ない。結界の欠陥は……でも私も魔力の増幅を感じ取れないし、外界と遮断されーー」
「待て」
何やら独り言のように呟き始めたユシルに、アレストが冷たく言い放った。
「きみの言い訳を聞きたいわけじゃない。僕が知りたいのはカナトの魔力の源はなんだということだけだ」
ハッとしたユシルはすぐにうつむいて肩を落とした。
「ごめん…なさい。私にもわからない。すでに昔の魔女狩りで記録がほとんど焼き払われてしまっているから。もう少し調べてみる」
「わかった」
それだけを言うとアレストは立ち上がろうとした。
「ま、待って!」
「なんだ?」
「その、もしかしてなんだけど、カナトは少しイグナスや魔法の適性がある人の体質と似ている気がして……」
アレストがどこか不機嫌そうに眉を寄せた。
「似ている?」
「そ、そう!これは個人の体質だから私も最初は気にしなかったことなんだ。前にカナトに魔力を分けたことがあるんだけど、ほとんどの人は使えば使うほど魔力は減少していく。だけどカナト場合は少しそれが遅い。むしろどんどん意識体に慣れ親しんでいる気がする。意識体に変わる速さも慣れも。魔力は減少するどころか、ほぼ減少してないか増えている気がするんだ。おかしいことにそれはカツラギにも見られた」
「カツラギ……ああ、あのカナトと同じ世界の人間か」
「うん。イグナスやカナトの話だとカツラギは魔女ではないのに魔法を使って自分の世界へ戻れた。キトウも私の体を使っていたけど、半年ほどで人々の記憶を変えるほどの高度な魔法を使えるようになった。もしかしたらカナトの世界にいる人たちは何かしら魔力と深い関係にあるのかもしれない。だからカナトが魔女として目覚めた今、その魔力の源もこの世界と違うのかもしれない」
「……それじゃあ、どうやってその魔力の源を探すべきだ?」
「そ、それもわからない。でも少しこのまま様子見をしてみようと思う。今のカナトは兄さんのおかげで意識体になれると思っているはずだから」
「なるほど。役に立たないな」
「………っ」
「ともかく、今日はわざわざ来てくれたことを感謝しよう。もう帰っていいよ」
「あ……、兄さん!」
立ち上がってドアに向かったアレストの動きがピタッと止まる。振り返ってニコッと笑った。ここに来て初めての笑顔である。
「ユシル、僕のことはもう兄さんと呼ばないでくれ。僕たちは血の繋がりも何もない。今までしたことを謝るつもりもなければ、今後も酷いことをする機会があるならまた繰り返す。こんな僕と兄弟などをしていたらお前の評価が下がるだろ?」
「そんなことない!!わ、私は本当にうれしたかった!母さんが死んでからずっとイグナスと暮らしていたから、自分にも家族がいると知ってすごくうれしかった。例え血の繋がりがなくとも兄がいると聞いて私はーー」
「仲良くなりたかった?」
「え?あ、うん……。実際に会ってから兄さんの優秀さも努力も全てわかった。すごく輝いているように見えて、私が思い描いていたような立派な人で、憧れるようになったんだ」
ユシルはどこか懐かしい思い出を語るような口調で話した。
だが笑って聞いているはずのアレストの目は底まで冷え切っている。
「僕が初めてきみにあった時、第一に感じたのが拒否感だった」
「あ……」
「なぜこんな時期に帰ってきた?何が目的だ?なぜ僕から全てを奪っていく?なあ、ユシル、知っていたか?貴族の世界は血筋を重んじる。お前が帰ってきたとなれば養子の僕が用済みになり、弾かれることは容易に想像できただろ?お前は聡明だ。想像できなかったと言えるのか?」
「違う!だって、だって……」
「だってまさか自分の父親がそんな人間だとは思わなかった?僕もそうだよ。まさかあれほど人生の目標にしていた人物に見放されるとは」
アレストがどこか仕方なさそうに肩をすくめてみせた。
「そこからはまるで一本糸みたいに周りが引っ張られて、どんどん築き上げてきたものが崩れ、離れ、消えていった」
「兄さん……」
「最後に残ったのがカナトだった」
アレストの表情が本当の意味で少し柔らかくなった。かと思えば忌々しげに歪められ、ユシルを睨めつけた。
「それなのに、それでさえお前は奪っていこうとする。周りがお前を中心に動き、お前の行動一つで僕の周りから大切なものが離れていく。それなのにお前は何一つ気づかない!」
「……わ、私は」
「その顔だ。お前はいつも被害者だ。僕がどれだけカナトをそばに留めようとしてもあの目も声も頭の中までお前のことばかりで満たされている。なぜだ……?なぜお前なんだ。僕には何も残さないのに、お前は自分を想ってくれるフェルサジア殿や仲間がごまんといる。僕に最後に残った大切なものをなぜいとも簡単に奪おうとするんだ」
「ごめんなさい、ごめん…なさい」
ユシルの頬に涙が流れた。当初、家族と会えると思っていたが、自分の存在がこれほどアレストに苦痛を与えることになるとは想像もしなかった。
憎しみの感情をぶつけられることに慣れず、ユシルは体の震えを抑えられなかった。
自分の不甲斐なさと単純さに酷い後悔を感じていた。
ユシルが来ていることを知ったカナトは廊下でソワソワしながら待っていた。
一緒に行こうとしたが、ダメだとアレスト本人から直々に止められた。
しかも廊下には守衛までつけている。
カナトはその場を行ったり来たりしながらチラチラと視線を送った。
守衛のハインリヒはその綺麗な銀髪を後ろで一つにまとめ、どこかもの言いたげにカナトを見つめている。だが決心できずに視線をそらす。
今がチャンスだ!
カナトはハインリヒの視線がそれた一瞬を狙ってその場を突破しようとした。だが間一髪、肩をつかまれて押し返される。
「ああ!クソッ!」
幾度目の失敗にカナトはヤケを起こして、背中を向けながらその場に座り込んだ。
腕を組んでジロッとハインリヒをにらむ。
「……ダメだ」
「なんでだよ!」
「アレスト殿からもダメだと言われなかったか?」
カナトが、うっ、と言葉につまった。
「い、言われた…けど」
「じゃあ言うことを聞いたほうがほめられるんじゃないか?」
カナトがどこか真剣に考え始めた。
「それもそうか」
しばらく無言が流れると、またもソワソワし始めたカナトはチラチラとハインリヒのすきを探すようになった。
ハインリヒもどこかもの言いたげな様子を続けるが、なかなか口に出さない。
やがてため息をついてからカナトを見据えた。
「カナト」
「……なんだよ」
「今の生活はどう感じている?」
「今の生活?好きだけど?」
ハインリヒはその顔から嘘の痕跡を探した。だが純粋で真っ直ぐな感情以外に何も見当たらない。
「……本当なのか?」
カナトがなぜここにいるのかハインリヒはよくわかっている。
それに合意したひとりでもある。だからなのか、カナトに対して酷い罪悪感があった。本来なら他人の犠牲に立つ平等などもっとも嫌いなはずなのに、今はそのために自分の信念を捨ててしまった。
もしカナトが苦しい生活を送っているならハインリヒは自責の念から一生抜け出せない気がした。
だが、実際はそんなことなく、カナトは割と今の状況を楽しんでいるように見える。
「本当だけど?アレストも昔みたいに笑うようになったし、これ以上いいことはないだろ!」
カナトが明るく笑うとハインリヒもつられて笑いそうになった。そこへ、
「カナト、床に座って何をしているんだ?」
アレストの声にハインリヒとカナトがパッと振り返る。
カナトは慌てて立ち上がると服をはらって近づいた。
「アレストおかえり!話し合いはどうだった?」
「ああ、うまくいったよ」
「そっか!それでユシルは?」
「泣いて部屋から出られない」
アレストの目がハインリヒを見た。ハインリヒはハッとすると慌てて部屋に向かった。
「泣いて……え?」
カナトが目をしばたたかせて固まった。
「ははは!冗談だよ。テーブルにひざをぶつけたから歩けなくなったらしい」
「本当か……?」
「もちろん!」
ぱちんとアレストがウィンクをする。
「そ……そっか!じゃあハインリヒひとりで大丈夫だな!」
「僕たちも戻ろうか。おやつにチョコレート用意したよ」
「マジで!?」
カナトはアレストと並びながら嬉々と部屋に向かった。
すでにアレストの魔力のことをすっかり忘れてしまっている。
そしてアレストもカナトが魔女だということを教えるつもりがなかった。カナトが逃げれる手段を一つも本人に気づかせたくない。全ての可能性を握りつぶしておきたかった。
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