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番外編
アレストの魔力1
しおりを挟むカナトは朝から仁王立ちで立っていた。
アレストが自室から出てくるのを捕まえるために日が登る前に起きている。
待ちに待って、まぶたが落ちそうになる寸前、ガチャとドアが開いた。
「はっ!……アレスト!」
「あれ?カナト。どうしてここにいるんだ?ずいぶんと早いな」
「ずいぶんと早いな、じゃないだろ!仕事がないはずなのになんでこんなにも忙しいんだよ!何をしていたんだ!」
ここ近くいつもくっついているアレストとカナトだったが、少し前からアレストが忙しい素振りを見せ始めた。
一緒にいる時間は減り、だんだんと会える時間まで減っている。カナトはそれに不満を感じていた。一方でまた何か悪役らしいことを企んでいるんじゃないかという不安も感じていた。
ここでの生活が平穏過ぎて、ほぼカナトが思い描いていたような暮らし方である。
アレストはどんどん昔に戻ってきているし、カナトが受け入れるようになったせいかあの重い執着も落ち着いているように見える。
しかし、最近の様子にカナトは胸騒ぎがした。また何かしようとしているんじゃないかという不安が何度も頭を横切る。
アレストは少し驚いた顔をしたあと、フッと笑った。
「カナトが何を知りたいのかわかったかもしれない」
「………?」
「僕がまた変なことをしているんじゃないかって心配なのだろう?」
「………!あ、いや……その、ちが、俺」
「大丈夫。カナトの心配はもっともだよ。でも安心して欲しい。僕だってこの生活は気に入っている」
嫌いではないが、アレストにとってこの生活は物足りないものがあった。だがそれをカナトの前で口にするわけがない。
アレストは優しい笑みでカナトの頭をなでた。
「それじゃあ、昼には戻ってくるよ」
「ど、どこに行くんだ?」
「事務室。フェルサジア殿と今は協力関係だからな。『コドク』からの報告をまとめてクモに渡さないと」
「クモ!?」
「知らないのか?この屋敷に今クモが使用人として働いているんだ」
知らなかった……!
「なるほど……じゃあ、部屋で…待っている?」
「うん、待っていてくれ。そのあいだにミツバチをつけるから」
「お、おう……」
カナトはミツバチという男性使用人の衣服を着た女性を苦手に思っていた。
あの無愛想な顔といい、零点下を思わせる目といい、何もかも怖い。
同じ暗殺者であるキシューやレリィとは大違いである。
しかしそれを言うわけにはいかず、大人しく部屋に帰った。
部屋の中で猫たちがくつろぎ、カナトが声をかけようとしたその時。
「カナトさん」
突然背後から女の声が響いてきた。
「おわ!?」
驚いて振り返ると、なんと背後にミツバチが立っていた。
長い髪を頭の上で一つにまとめ、感情の欠片すら感じさせない目でカナトを見つめている。
「アレスト様のご命令により、カナトさんの身辺警護を任された者です。ミツバチとお呼びください」
「あ、ああ……」
なんでそろいにも揃って無音なんだよ!
ちなみにだが、この屋敷にいる使用人の半数が『コドク』の者らしい。残りの者たちはというと、イグナス側の人間なのでカナトも詳しく知らない。
「なあ」
「はい、なんなりと」
「その、ずっと気になっていたことがあるんだけど。お前って姉妹いたりするか?」
こう訊くのは他でもない。なんとなく彼女からレリィと似たような面影を感じたからである。
「わかりません」
「わかりません?」
「私は赤子の時から組織にいました。親の生死もきょうだいの有無もわかりません」
いけないことを訊いてしまったと、カナトが固まっているとミツバチが胸に手を当ててわずかに腰を曲げた。
「この質問で気を負うことはありません。私にとっては特別何かを感じるような質問ではありませんので」
むしろそう言われるほうが罪悪感が増す。
「ご、ごめん……その、俺たち同じだな……はは」
「はい」
「………。えーと、俺の場合一応シドっていうやつが家族らしいんだけどーー」
「あの裏切り者でしたら知っています」
「そ、そうか……」
ますます気まずくなっていく雰囲気にカナトが焦り出した。
ヤバい!話題が見つからない!
その後、カナトは無理やり話題を猫たちに引き込んでなんとか場をやり過ごした。
そして確信したこともある。ミツバチはお店の店員たちと違ってシドやムソクと同じタイプの暗殺者だということに気づいた。
おそらく打ちとくのにかなり時間が必要だと思われる。
お昼を少し過ぎた頃にアレストは帰ってきた。
部屋の中でミツバチの頭に猫を盛っているカナトがくるっとドアを振り向く。
「アレスト!」
「ただいま。何をしているんだ?」
「ミツバチが猫をあまり触ったことないって言うから触らせているところ!」
「なるほど」
ちらっとミツバチを見ると、あちらは微動だにせず、猫たちに好き勝手に登らせていた。そのせいで髪がかなり乱れている。
「ミツバチ、もう下がっていい」
「はい」
猫たちが丁寧に降ろされ、ミツバチが静かに退室していく。
それを見届けてからアレストが口を開いた。
「先ほどフェルサジア殿から手紙を受け取った」
「手紙?なんて書いてたんだ?」
「今他の人々の記憶を戻すために準備をしているらしい。きみに関する記憶が人々から消えたから、きみのしてきたことが全てユシルがしたことになっている」
それなら現代から戻った際にユシルから教えられた気がする。
確か自動でつじつま合わせしているみたいな話だったはずである。そしてつじつま合わせとしての内容がほぼ原作通りだった。例えばカナトが城のパーティーで毒入りワインをユシルの代わりに飲んだことが、ユシルが原作通りの媚薬入りワインを飲んだことになっている。
言われなければほぼ忘れかけていた。
「そうか……戻っても俺には大して関係ないな。どのみちここから出られないし」
「僕は反対だな」
「え?なんでだよ」
「カナトのことが他の人たちに知られるのがいやなんだ。本音を言えば僕だけが知っていればいい」
「そ、そういう考えか」
「いやか?」
カナトがぶんぶんと勢いよく頭を振る。
アレストが目を細めて笑った。
「よかった。そうだ、カナトに贈りたいものがあったんだ。目を閉じて」
「目?」
カナトは不思議そうにしてから目を閉じた。
すると手を引かれて体が抱き寄せられるのを感じた。
な、なんだ!
「んむ!」
キスをされてカナトが思わず目を開けた。
「………っ!」
アレストの青い瞳とばっちり合って、恥ずかしさのあまりまた目を閉じる。
だがすぐに異変に気づいた。
何かが体の中から吸い出されていく感覚とともに、また何かが流れ込んでくるのを感じた。どこか知った感覚だが、その冷たさとねっとりと這う感覚に背筋が凍える気がした。
「んぅー!」
カナトが少し暴れるときつく抱き寄せられ、無理やり押さえ込まれた。
そしてやっと口を離してもらった時、カナトは大きく息継ぎをしながら目を見開いた。
何をされたんだ今!
「これでカナトはまた鳥の姿になれるよ」
「え?」
顔を上げるとアレストが優しくカナトの頭をなでながら言った。
「魔力をカナトにあげたんだ」
「ま、魔力?」
「ああ。敷地内から出られないけど、これでつまらない時は飛んで遊べるよ。でも猫たちには気をつけくれ。食べられないようにな」
カナトはふと思ってしまった。
今のアレストの魔力はどこから来ているのか。
確かアレストは他人の魔力を吸い込まないと使えないはずである。
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