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第五章
ハッピーエンド
しおりを挟むカナトが目を覚ました時、そこはまだあの地下室だった。
体の節々が痛い。
キスのあと体まで重ねてしまい、カナトはソファの上で散々泣かされた。
二度寝したい気分にさせられるが、背中や体を這う手に意識が引き戻される。
「な、何やってんだ?」
二人は現在台の上で横たわり、アレストはカナトの体にある傷を一つずつなでていた。
「……いや、なんでもない。ただ、きみが僕を受け入れてくれたことにうれしくなって」
「………じゃあさ、もうこの先も外に出ないで、ずっとここにいないか?」
「そうだな。きみがそう望むなら……それもいいかもしれない」
「……アレスト」
「なんだ?」
「その…あ、愛してるぞ」
「………」
アレストはなでていた手でカナトの体を抱き寄せ、その額にキスをした。
「僕も愛している。この世できみだけを愛している」
「うん……もう起きたい」
カナトはアレストの腕の中から抜け出そうとした。
下に敷いているのはアレストの服であり、本人の上はシャツ一枚という寒い格好である。
寒くないのだろうかと考えた時、部屋が暖かいことに気づいた。
見ると、光源代わりにもなっている暖炉があった。ユラユラと炎が揺れ、怠惰な気を引き起こしてしまう。
カナトはせっかく起きようとしたが、その光のせいでまた突っ伏した。
「動きたくない……」
「動かなくていい。僕がする」
アレストはそう言うと起き上がり、カナトを台からソファに移すと、衣服を拾って慣れた手つきで着付けていく。
カナトが眠たげにする一方、この部屋の暖かさに違和感すら覚えた。
あんまりにも暖かすぎる。
「アレスト、お前何かしたのか?」
体まで重ねてきたせいか、カナトのアレストへと抵抗感は少し薄れてきていた。
「なんのこと?」
「暖炉があると言っても、暖かすぎないか?」
裸になってもまったく寒くない。さすがにこの国の冬に地下室で感じるような温度じゃない。
「それは魔法のおかげだな。部屋全体暖かくなるようにしておいたんだ。便利だな、魔法は」
カナトの唇がわなないた。
「な、何言ってんだ……お前!自分の体のこと忘れたのか!」
「でもカナトを寒がらせたままじゃ、僕の良心が……」
「言ってろアホ!今すぐやめろ!」
「見てくれた」
アレストがうれしそうに目を細めた。
「見てくれた?」
「カナトが目をそらさずに見てくれたってことだよ。うれしいな」
「………む」
カナトが口ごもってそっぽを向いた。
「カナト」
アレストが床にひざをつき、カナトの手を取ると優しい目つきで見上げた。
ソファに座っているせいか、アレストがまるでどこかの忠犬に見える。
「きみがずっと一緒にいたいと言ってくれたことはうれしかった。きみのために変わりたいのも本当だ。でもそれはまずきみの心を完全に手に入れる前提での話だ。だから、こうしてきみの口からその言葉を聞けてうれしかった」
「じゃ、じゃあ……」
「そうだな。きみがその気持ちをずっと保っていてくれるなら僕はこの生活を受け入れる。逆に、少しでもきみの心が離れたと感じた時は必ず………」
アレストの目に陰鬱なものがよぎった。
「必ずきみを僕だけのものにする」
カナトがごくりとのどを動かした、
「お、俺はもうお前のものだろ……?」
どのみちこの屋敷の敷地から出られない。
「ああ……そうだな。カナトはもう僕のものだ」
カナトは密かに思った。
制御、成功したか?
それから数日。
カナトは朝からご機嫌だった。
相変わらず金属の音、鋭い鉄製のものが苦手だが、それを上回るほど今が満たされている。
カナトがノックもせずにバンッと目的の部屋を開けた。
中にいた人物はまるで最初からわかっていたように驚きもせずに笑っている。
「どうしたんだい?カナト」
「怪我した!」
そう言ってカナトはアレストの前に怪我した指を見せた。
小さな切り傷である。
「どうしたんだ?それは」
「さっき猫に引っかかれた」
カナトは何気に言うが、アレストの目底に一瞬だけ暗い光がよぎる。
「猫より、犬を飼おうか?」
「なんでそうなるんだ?」
カナトはドアを閉めてタタタとアレストのそばへ小走りに近づいて、そのひざに座った。
「なあ、怪我した」
「痛かったな」
「うん!」
最近、アレストが昔に似てきている気がする。
明るく笑うようになったし、仕事がない分、昔みたいに剣の練習や遊びに付き合ってくれるようになった。
もしかしたら外と遮断することでアレストの恨みの根源を断つことができたのではないか、もしくは自分がイグナスの助言でアレストを正しい道に引き戻せたのではないか、などと考えるようになった。
だが、カナトが見えていないところでアレストの目はじっとカナトにのみ降り注いでいる。その視線は変わらず執着じみており、ねっとりとカナトをからめていた。
せめてカナトから見ればアレストは好転している。
「なあ、アレスト」
カナトの怪我した指を優しくなでていたアレストが「うん?」と首を傾げる。
「その、ずっとそばにいてくれ」
「もちろん。きみが望むならいつでもそばにいる。一生離したくないくらいにきみが好きだ」
カナトは赤面しながらアレストに抱きつく。
これからうまくやっていけそうだな!
カナトは全てのことがハッピーエンドを迎えた気がした。
なんとうれしいことにクローリー親子が城で身分を隠しながら働いているらしい。
アレストが言うには、最初こそ親子で国王を手のひらの上で転がしていたが、二人が国王の探している人でないと知ってもなんとかフレジアドを説得して留まらせていたらしい。
死んだと思われた人たちがちゃんと生きていることと、恋人と仲を戻せたことでカナトはうれしかった。
これがハッピーエンドじゃなかったらなんだ!絶対ハッピーエンドだ!間違いない!
◇————————————————————
これにて完結となります!
ここまでお読みいただきありがとうございました!
少し書き足したいことや、番外編をゆっくりと更新したいと考えています。
番外編ではカナトの出自のことにも、その後の人物たちにも触れられたらいいなと考えています。
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