転生と未来の悪役

那原涼

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番外編

その後、アグラウ

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アグラウは猫の姿をしていた。

ただ今絶賛なでられ中である。

「サブロォー!聞いてくれよぉ!アレストの野郎昨日優しくするって言ったのにあちこち噛むんだぞ!いまだに腰がいてぇよ!」

うわー!と泣き止まないカナトの顔がすりすりと寄ってきた。

……何が悲しくて息子の床の話を聞かなければいけないのか。

アグラウはただ虚無の目でされるがままになった。

アレストがいるという屋敷の庭に立ってずっと悩んでいたら突然カナトが抱きついてきたのである。

サブローと叫びながら抱き起こされたのを見るにどっかの黒猫と間違えているらしい。その黒猫が誰かなのかわかっている。

だからこそ、バカなのではないか、と思わずにいられない。

自分よりよっぽど猫と接してきたはずのカナトがまさか猫間違いするとは。

アグラウはため息を吐き出した。最初こそイグナスからアレストを閉じ込めると聞いた時に驚きを禁じ得なかったが、詳しく聞いていくとこのカナトが鍵だと理解できた。

例えカナトがどんな姿になっても自責の念で余計なことをしないで欲しいと釘を刺されたばかりである。

だが今改めて見ると案外本人は気にしてないのかもしれない。

愚痴がさっきから夜の話ばかりである。アレストがどうのこうのばかりだ。

「あいつ人間じゃねーよぉ、体力どうなってんだよ……バケモンかよ!俺がーーあ!イテテ…腰が」

カナトが腰をさすりながらよろよろと立ち上がった。

「はあ……帰るか。今頃ならアレストも暇で本読んでるだろ」

アグラウがピンと耳を張った。

確かにここへ来た目的はアレストと会うことである。だがまだ心の準備ができていない。アレストが自分とユシルのことをどう思っているのかある程度把握していた。だからこそ今回は遠くから見るだけに止めようとした。

なのに……もう面向かって会うのか?と内心焦り始めた。

「というか、お前……」

カナトが何か気づいたようにアグラウを掲げ上げた。

「サブローか?」

「………」

違うと気づいてくれ。

しかしそんな願いも虚しく、カナトはここぞというところで変化にうといやつだった。

「サブローの目より黄色が濃い気がするけど……気のせいか!」

「……………」

結局アグラウはアレストの前に連れ出されてしまった。












「へぇ、サブローが庭にいたのか」

アレストはじっとした目線をアグラウに注いだ。

「おう!ほら」

ぐいっとアレストの前に差し出され、ごくりとのどが動く。

「ふむ……なるほど。そうだ。さっきミツバチが午後のおやつを持ってカナトを探していたよ。今日はシドが試作したチョコレートのアイスらしい」

「何!?」

「猫は預かっておくから、探しに行っていいよ」

「ありがと!行ってくる!」

カナトがバタバタと出て行ってしまった。

バタンとドアが閉まり、部屋の中に静寂が訪れた。アレストの笑顔に少しずつと冷たいものが混ざり、アグラウのお腹から首に手が移った。

「父様、お久しぶりですね」

「……ッ!」

「まさかこのような形で再開するとは思いませんでした。今日は何かご用件でも?」

「……………。お前に、会いに来た」

「へぇ。それで、もう会いましたが、何かご感想はありますか?」

「すまなかった」

「………」

「お前の気持ちを無視したことは本当に申し訳ない」

アレストは静かに聞いていたが、ふむ、と本をテーブルに置き、口もとを手で覆い隠した。

「ふふ」

「なぜ笑う」

「いえ。ただその姿、ユシルとそっくりだと思いまして。本当に血の繋がりってすごいですね。謝らなくてもいいですよ。それであなたは気が楽になりましたか?」

「アレスト……」

「僕はもう目が覚めた。結局どれだけ一緒に暮らしても血縁関係には抗えなかった。あなたは僕よりユシルを選んだ。ただそれだけのことです。僕にとっては許せないことだし、恨んでいたことでもあります。だけど、もう昔みたいに期待はしません。今の僕にとってあなたの謝罪ほど価値のないものもありませんよ」

「………私は、ただユシルに償いをしたかっただけだ。あの子は幼い頃から外でーー」

「それでも母親と一緒にいた。そして全力で守ってくれるフェルサジア殿に出会えた」

「……っ」

「でも“当時”の僕にはあなたしかいなかった。それなのに、償いですか。あなたに憧れ、あなたに近づきたく、恩返ししたかった僕の十数年の努力をたった一瞬で覆した。僕は悲しかったですよ」

「……すまない」

「それはもうどうでもいい。もう昔の僕にはあなたしかいなかった時期とは違う。“今”はカナトがいる。幼い頃の努力を見ていてくれた。辛いことから助けてくれた。僕にはもうカナトしかいない。お前たちの存在は邪魔すぎるんだ。ずっとカナトの思考の一部を占領して、図々しく居座る。なぜカナトは僕だけのことを考えない?一番に想っているのは他でもない僕なのに……」

「アレスト、お前……」

アグラウは養子だった男の歪んだ笑みに眉間を寄せた。

まるで記憶の中にいる人物と別人である。

あの明るく笑う少年はいったいいつからこうなった?

アグラウはかつての決断を後悔した。だが、それはもうすでに遅い。

どのみちアレストのしたことは許されないことである。

後悔してもアレストをここから出すことはできない。せめて余生をカナトと穏便に過ごして欲しい。

アグラウは自分のせいで人が変わった息子をただ、なんとも言えない目で見つめた。

どれだけ願っても、もう昔には戻れない。





おかしいことに、アグラウもユシルもアレストを大切に思うのに、まるで見えない不可抗力に引っ張られて、周りの意思とは反対にアレストはどんどん堕ちていく。

這い上がれないところまで堕ちて、そこが居心地いいとばかりに這い上がることをしなくなった。

まるでこの場所こそがいるべき場所だと、そう言っているように。

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