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番外編
カナトの身分1
しおりを挟むシドは今日、カナトの荷物を片付けていた。
“今のカナト”の荷物ではない。自分と一緒に暮らしていた頃の荷物になる。もちろんカナトは覚えていないし、ほとんどはガラクタばかりである。
ただ、こうして持ち続ける意味もないので、カナトに返して自分で必要かどうかを判断してもらうつもりだった。そして必要ないものなら自分が引き取って管理する考えである。
だが、これだけはカナトに見せる必要がないと思うものが二つほどある。
一つは、カナトの首に巻き付けられていたハンカチ。もう一つは、カナトをくるんでいた肩掛けマント。
「………」
その二つを見下ろしながら、確かに今のカナトに見せたところで意味はないと判断し、そっと返すものの中から分けた。
そして包装箱に入れたチョコレートを持ってカナトがいるフェルサジア領へ向かう。
最近フェルサジア領には流行りがあった。
それは少しずつと首都にも広まっている。
それが『白い小鳥の伝説』である。フェルサジア領には幸福を運ぶ白い小鳥がいるらしい。
他の場所ではなかなか見られないような白い小鳥なため、見つけると幸運をもたらすという。
シドにはおおかたその白い小鳥が誰を指しているのかわかっていた。
そして現在、その白い小鳥は大きな手のひらに隠れて説教を受けていた。
「俺がなぜ来たのか、わかっているか」
「……ハイ」
「あまり外に出るなと言ったはずだ」
不思議なことに、カナトは意識体の姿だとなぜか結界を突破できた。
まさか意識体には通用しないのかと憶測したイグナスは、ちょうどここへ送ってきた意識体のキトウを外に向かって思い切り投げた。
結果、弾かれて敷地内に戻ってきてしまった。何度試しても同じだった。
ということは、カナト本人の問題かもしれない。ユシルがいろいろ調べていくうちに、もしかしたらカナトの魔力が自分を上回っているかもしれないという結論にいたった。ただ、それがなぜ意識体の姿の時に結界を突破できるのか謎である。
実際、カナトの魔力を感知しているうちに、その魔力の増え方が尋常じゃない増え方をしていることに気づいた。
いったい何がカナトの魔力の源なのか、正直そばにつきっきりで調べないと無理なのだが、もちろんそんなことイグナスもアレストも却下した。
イグナスは仕事でつきっきりでここにいられない。となるとユシル1人になる。クモがいるとはいえ、正直アレストの近くに置くだけで気が気じゃない。
幸いカナトには逃げる発想はなく、説教も隠れながらではあるが聞く気はある。
「お前は鳥の姿で外に出るな。この領地がそろそろ観光地化しそうなくらい、外から人がやってくる。変なヤツが引き寄せられる前に外出は控えろ。お前の頭の中に脳ミソが詰まっているならなぜ自分がここにいるのかよく考えておくんだな」
「………ハイ、オッシャル通リデス」
最後にイグナスはカナトを見つめているアレストをにらむと立ち上がり、退室していった。
ドアがバタンと閉まるとカナトがひょっこりと頭を出した。
「行ったか?」
「行ったよ」
「はぁーっ!怖かった!なんだあの目!」
「怖いのか?」
「当たり前だろ!あの顔ユシルの前以外で笑うのほとんど見たことねぇよ!」
アレストの手からテーブルに移ったカナトはお皿のクッキーを突いて文句を言った。
「俺だって知らなかったし!寝ぼけて飛んでいたら敷地外だったし、仕方ねぇだろ!」
「……そうだな」
「も、もうしねぇよ」
アレストの顔を控えめに見ながらカナトが少し口ごもる。
「気にしなくていい」
「え?」
「カナトのことは信頼しているし、僕のそばから離れないのだろう?」
「うん!うん!約束する!」
アレストはにっこりと笑った。安心したカナトは顔を埋まらせてクッキーを貪っていたが、見えないところでアレストの目に冷たいものが横切る。
アレストは信頼しているというより、カナト本人に自分の魔力の高さと魔女であることを気づかせないために、あえて魔力を回収せず、カナトに与えているという演出をしなければいけなかった。
それがカナトの中では信頼として受け取られていた。
それはそれで好都合というものだが、意識体のみとはいえ、カナトが自由に外へ行き来できるのは少し支配欲を掻き立てられる。
その翼をもげててもそばに留めておきたい。
アレストが手を伸ばしたその時、ドアがノックされた。
カナトが顔を上げるとアレストの手がそっと戻され、不思議そうに首を傾げると外からミツバチの声が聞こえてきた。
「アレスト様、シドが来ました」
「わかった。ここへ通してくれ」
「はい」
少しした後、シドが部屋に現れた。
「カナト、土産。あとお前の荷物も持ってきた」
「シドありがとー!」
カナトはビュンとチョコレートが入った包装箱に飛びつき、頬をすりすりさせた。
「俺の荷物ってなんだ?忘れ物あったか?」
「昔の忘れ物だ」
「おお!俺が覚えてないあいだのことか!」
「ああ」
「ちょっと気になるな!俺何持ってたんだ?」
シドは包みをテーブルで広げ、そのガラクタどもを見せた。
錆びた銅貨、よくわからない鉄屑、ただの石ころ……などなど、どれを見渡してもゴミと見紛うものばかりだった。
だが、カナトが目を輝かせた。
「おお!そういや俺初めてアレストに拾われた時もこんなもの集めていたな!」
カナトにとってこの世界のものが珍しく、貨幣などゲーム内の通貨に見えて集めて興奮していた。ただ、給料が高いせいか、貨幣がたくさんありすぎて逆に興味が冷めてしまった。
鉄屑や小石は土産物にと思っていたが、そもそもこの世界からものを持ち帰れそうにないので、それらも今じゃどこかになくしていた。
「やっぱり俺ってこういうの集めちゃうんだよなぁ」
包みの中のものをどれも大事そうにかき集めるのを見て、シドはどうやら本人がいらないものをわざわざ持ち帰る必要はないと判断した。
なので包みごと渡して、その後屋敷を後にした。
本人がまだ楽しそうにしているのを見て安心しなかったわけではない。
ただ、アレストが今後も何もしないとは限らない。そういう人である。
店に戻ったシドは、店員から貴族の方が来ていると教えられた。
貴族なら普段からも来ているはずである。特別騒ぐこともないのだが、話を聞いているとどうやら東にある軍事大国の総督が来たという。
面倒くさそうな身分の人にシドはため息を吐き出して接客に出た。
長旅で疲れたせいか普段から笑顔のない顔にさらに疲労の色がにじみ出て、酷く陰鬱な表情に見える。
店の裏から出るとちょうど近くの人とすれ違った。
その人物の羽織っていた黒いマントに描かれた家紋だと思われる模様がちらりと視界をかすめ、見覚えのある図絵にはっと立ち止まる。
今のは…………。
振り返ると相手も気づいて振り返った。
銀の仮面の下にはイグナスとよく似た赤い瞳がのぞき、黒い髪を後ろへ整えた体格の良い男がそこに立っていた。
シドは驚きに見開いた目で見上げたまま言葉をなくした。
なぜこの人は、幼い頃のカナトが持っていたものと同じ模様のものがある?
カナトが持っていた肩掛けマントとハンカチには家紋らしき模様があった。
それが男のマントに描かれたものとよく似ている。
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