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番外編
カナトの身分2
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「……私に何か?」
相手を見つめていたシドがハッと我に返った。
「いや、なんでもない。総督殿ですか?」
「ほう?まだ名乗ってもいないのに、わかるのか?」
「誰が来たのか教えてもらいました。この店内で総督と呼ばれるような装いをしているのはあなただけだ……です」
「敬語が慣れないのならいつも通りの話し方で構わないよ」
「お気になさらずに。何かお求めの商品はありますか?」
「実は『白い小鳥の伝説』を聞いて、幸福を求めにやって来たんだ。この店で買えると聞いたのだが……」
「は?……いや、失礼。もしかして白い小鳥を模したチョコレート菓子のことですか?」
「ああ、それだ」
男は見た目のいかつさと違い、話し方や物腰は柔らかく感じる。だが、あの赤い目から警戒がひしひしと伝わってくる。
なんだかアレストと似た何かを感じとったシドは、一歩距離を取って案内した。
「こちらの商品になります」
男に見せたのはクリーム色のクッキー生地にチョコレートでデコレーションしたものである。シマエナガの姿が可愛らしく描かれたそれは、カナトの希望とは反対にゆるキャラのように見える。
「実寸大なので小さめです」
「可愛らしいな。きみが作ったのか?」
「まさか。発案者ではありますが、作り手は別にいます」
「そうかい。ではそれをいただこう」
「カウンターへどうぞ」
男に商品を渡して送り出してからシドは奥の部屋に戻った。
慌ててあのハンカチとマントを広げて模様を確認した。
「……違うな」
確かに模様自体は似ていた。だが、別物のように見える。
わずかな違いがあった。あの男のマントには白鳥が交差する翼に守られていたが、カナトをくるんでいたマントと付けられていたハンカチには白鳥が開いている翼を内側に折り込んでいる構図がある。
ぱっと見似ているが、別物のようだ。おそらくカナトとは関係ない。
しかし、シドはなぜかこのことを気にして心が休まらない。
あきらかに捨てられたカナト、似た家紋を持つ軍事国の総督、同じ希少な黒髪。
「……東の軍事国といえばボースト公国か」
シドは一度調べてみようと思った。
だが事は思ったように運ばず、ボースト公国で絶大な権利を握っている総督は数日後、カナトがいる屋敷を訪れた。
馬車を降りた男は目の前の簡素な屋敷を見渡した。
鍛えられた体格を黒い軍服に包み、銀の仮面をつけたその出立はかなり目を引く。
「お待ちしておりました。総督、とお呼びしてよろしいですか?」
出迎えたクモが確認のためにそう聞くと男から低い笑い声が響いてきた。
「隠す気があるならこの格好をしていない」
「主人からの伝言です。面倒事を起こす気なら八つ裂きにする、と」
「ああ、相変わらずだな、イグナスは」
「それではどうぞ中へ」
男は案内されるまま屋敷へと入った。
「こんな屋敷にあの幸運の鳥をかくまっているのか。ずいぶんと……」
「幸運の鳥などいませんよ」
クモはそう答えた。
イグナスからの命令は何があっても意識体のカナトをこの男の前に出してはならない、というものだった。アレストがやっと落ち着いた今、予想外のことは起こしたくない。何よりこの迷信好きな男は強欲だと聞く。
幸せを呼ぶ白い小鳥が実際にいるとわかれば9割手を出すらしい。
だからクモは事前に準備し、カナトに事情説明をした。
アレストには言っていないが、本人はなんとなく察しているようである。
だからこれでひと安心したのである。
なのにーー
「シャケーェ!!」
そう叫びながら白い何かがビュンと通り過ぎていった。
クモと男が同時に振り返りかえり、その白い何かが去った方向を見る。
「今のは……」
「ほこりです」
「ほう、ほこりが話せるのか?」
「風切り音だと思います。この屋敷は呪われているので」
「それは初耳だな」
「対外的に言えることではないので、こうして黙ってーー」
その時、またも白い何かが飛んできた。
「ぐるりんパァーー!あひゃひゃ!」
今度はクモがすばやくそれをつかんで服の内側に隠し、
「申し訳ありません。隣の部屋で少々お待ちください」
そう言うとクモはその場から離れようとした。が、
「クモォー、おシャケー……ひひ!」
「………」
どう見ても酔っ払っているカナトに、クモは酷い頭痛を感じた。
男が背後からクモの手の中をのぞこうとした。だが服の内側に隠されて見えない。
「それはもしやあの白い小鳥かな」
「違います」
「それは残念だ」
「俺のことかぁー?」
なんと、柔らかい毛のせいで、するりとクモの手から抜け出したカナトはバサバサと男の肩に飛び乗った。
「………ッ」
クモがしまったとばかりに、あまり感情を出さないはずの顔に苦いものを浮かばせた。
「しゃべれるのか、きみは」
「あったりめぇーだ!俺だぞ!あ……」
突然カナトがピタッと止まり、ひくっひくっと体を震わせた。
次の瞬間、
「アヴルェ"~~ッ!!」
およそ小鳥らしかぬゲップと酒息に、クモはカナトを握りつぶしたい気すら起きてしまった。
もはや隠せない。
男の目にあきらかな興味が湧き始めた。
相手を見つめていたシドがハッと我に返った。
「いや、なんでもない。総督殿ですか?」
「ほう?まだ名乗ってもいないのに、わかるのか?」
「誰が来たのか教えてもらいました。この店内で総督と呼ばれるような装いをしているのはあなただけだ……です」
「敬語が慣れないのならいつも通りの話し方で構わないよ」
「お気になさらずに。何かお求めの商品はありますか?」
「実は『白い小鳥の伝説』を聞いて、幸福を求めにやって来たんだ。この店で買えると聞いたのだが……」
「は?……いや、失礼。もしかして白い小鳥を模したチョコレート菓子のことですか?」
「ああ、それだ」
男は見た目のいかつさと違い、話し方や物腰は柔らかく感じる。だが、あの赤い目から警戒がひしひしと伝わってくる。
なんだかアレストと似た何かを感じとったシドは、一歩距離を取って案内した。
「こちらの商品になります」
男に見せたのはクリーム色のクッキー生地にチョコレートでデコレーションしたものである。シマエナガの姿が可愛らしく描かれたそれは、カナトの希望とは反対にゆるキャラのように見える。
「実寸大なので小さめです」
「可愛らしいな。きみが作ったのか?」
「まさか。発案者ではありますが、作り手は別にいます」
「そうかい。ではそれをいただこう」
「カウンターへどうぞ」
男に商品を渡して送り出してからシドは奥の部屋に戻った。
慌ててあのハンカチとマントを広げて模様を確認した。
「……違うな」
確かに模様自体は似ていた。だが、別物のように見える。
わずかな違いがあった。あの男のマントには白鳥が交差する翼に守られていたが、カナトをくるんでいたマントと付けられていたハンカチには白鳥が開いている翼を内側に折り込んでいる構図がある。
ぱっと見似ているが、別物のようだ。おそらくカナトとは関係ない。
しかし、シドはなぜかこのことを気にして心が休まらない。
あきらかに捨てられたカナト、似た家紋を持つ軍事国の総督、同じ希少な黒髪。
「……東の軍事国といえばボースト公国か」
シドは一度調べてみようと思った。
だが事は思ったように運ばず、ボースト公国で絶大な権利を握っている総督は数日後、カナトがいる屋敷を訪れた。
馬車を降りた男は目の前の簡素な屋敷を見渡した。
鍛えられた体格を黒い軍服に包み、銀の仮面をつけたその出立はかなり目を引く。
「お待ちしておりました。総督、とお呼びしてよろしいですか?」
出迎えたクモが確認のためにそう聞くと男から低い笑い声が響いてきた。
「隠す気があるならこの格好をしていない」
「主人からの伝言です。面倒事を起こす気なら八つ裂きにする、と」
「ああ、相変わらずだな、イグナスは」
「それではどうぞ中へ」
男は案内されるまま屋敷へと入った。
「こんな屋敷にあの幸運の鳥をかくまっているのか。ずいぶんと……」
「幸運の鳥などいませんよ」
クモはそう答えた。
イグナスからの命令は何があっても意識体のカナトをこの男の前に出してはならない、というものだった。アレストがやっと落ち着いた今、予想外のことは起こしたくない。何よりこの迷信好きな男は強欲だと聞く。
幸せを呼ぶ白い小鳥が実際にいるとわかれば9割手を出すらしい。
だからクモは事前に準備し、カナトに事情説明をした。
アレストには言っていないが、本人はなんとなく察しているようである。
だからこれでひと安心したのである。
なのにーー
「シャケーェ!!」
そう叫びながら白い何かがビュンと通り過ぎていった。
クモと男が同時に振り返りかえり、その白い何かが去った方向を見る。
「今のは……」
「ほこりです」
「ほう、ほこりが話せるのか?」
「風切り音だと思います。この屋敷は呪われているので」
「それは初耳だな」
「対外的に言えることではないので、こうして黙ってーー」
その時、またも白い何かが飛んできた。
「ぐるりんパァーー!あひゃひゃ!」
今度はクモがすばやくそれをつかんで服の内側に隠し、
「申し訳ありません。隣の部屋で少々お待ちください」
そう言うとクモはその場から離れようとした。が、
「クモォー、おシャケー……ひひ!」
「………」
どう見ても酔っ払っているカナトに、クモは酷い頭痛を感じた。
男が背後からクモの手の中をのぞこうとした。だが服の内側に隠されて見えない。
「それはもしやあの白い小鳥かな」
「違います」
「それは残念だ」
「俺のことかぁー?」
なんと、柔らかい毛のせいで、するりとクモの手から抜け出したカナトはバサバサと男の肩に飛び乗った。
「………ッ」
クモがしまったとばかりに、あまり感情を出さないはずの顔に苦いものを浮かばせた。
「しゃべれるのか、きみは」
「あったりめぇーだ!俺だぞ!あ……」
突然カナトがピタッと止まり、ひくっひくっと体を震わせた。
次の瞬間、
「アヴルェ"~~ッ!!」
およそ小鳥らしかぬゲップと酒息に、クモはカナトを握りつぶしたい気すら起きてしまった。
もはや隠せない。
男の目にあきらかな興味が湧き始めた。
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