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番外編
カナトの身分6
しおりを挟む更新がかなり遅くなってしまい申し訳ありません。
少し忙しく、なかなか手をつけられない日が続いたため、更新が大幅に遅れてしまいました。
本当に申し訳ありませんでした。
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今、この屋敷に例の仮面の男が来ているらしい。
昼からアレストの姿が見当たらないので使用人に聞き回っていたのである。なぜか誰も口ごもるせいで聞き出すのに時間がかかったが、なんとかそのわけを聞き出せた。
使用人の態度に仮面の男で、カナトはものすごく嫌な予感がした。
クモから聞いた酔っ払った自分の醜態を思い出してヒヤッとする。
まさか、俺のせいでアレストに迷惑がかかったんじゃ……今からでもインコの真似できないかなぁ。
とはいえ、自分はそれらしい会話を仮面の男としていたという。今さら遅いのである。
カナトは不安になりながら慌てて接客室に行くと、ちょうどドアが開いた。
「今日は急に来て悪かったね。また次の機会にでも……」
別れのあいさつをしていた仮面の男は廊下で急停止したまま固まったカナトを見つけた。
イグナスを連想させるその赤い瞳がスッと細められた。どことなく笑っているように見える。
「……またすぐにでも会おう」
そのまま仮面の男は使用人とともに去って行った。
「なんなんだ、あいつ……」
最後の言葉がまるで自分に向かって言われたように感じたのである。
すぐにドアからアレストも顔を出した。
「カナト、来ていたのか」
「あ、ああ……その、何かあったのか?お、俺と関係したりするのか……?」
若干上目になりながら聞くと、アレストが一瞬だけ動きを止め、すぐに笑った。
「まさか。関係ないよ。前回見かけた小鳥が可愛らしかったみたいだ。また会いたいとさ」
「俺じゃねぇか!!やっぱり俺じゃねぇか!!……もしかして、迷惑かけたか?なんか言われたのか?」
「まさか。きみを誰にも渡さないよ」
そう言って大きな、いつもよりさらに温度の低い手がカナトの頭をなでた。
なぜかその行動にさらなる不安が襲ってくる。
「本当に大丈夫なのか?」
「うん。お昼はもう食べた?」
「まだだけど」
「じゃあ一緒に行こうか」
アレストはカナトを連れて行こうとした直前、後ろに控えていたクモを見て言った。
「シドを呼んでくれ。遅くても明日に会いに来いと伝えてくれないか?」
「……承知いたしました」
「頼んだよ」
アレストの目は笑っているはずなのに、目底にあるものはまるでその真っ反対の感情である。
カナトも思わず、またやらかしたかもしれない、と怯えた。
夜、アレストのベッドに潜り込んできたカナトは相手の首に抱きつきながら笑顔を浮かべていた。抱きつかれたアレストは自然とその体に腕を回し、広いベッドで身を寄せ合った。
「どうかしたのか?」
「いや、その、ただお前と一緒に寝たいなぁって思って」
「そうか。僕も一緒に寝たいと思っていたんだ」
「本当か?」
「うん。むしろ毎晩思っている」
「………」
「思っているけど、だからといってカナトに無理をさせたくない。今でも悪夢を見るのだろう?僕といる時だけよくうなされていたからな。今この場所で一緒にいられるだけで幸せだから、できればカナトにもそう思って欲しい。だから無理はさせたくない」
カナトは少し感動にうるんだ目で見上げ、サッと顔をアレストの首に埋めた。
感動のせいかそれとも生まれつき深く考えないせいか、カナトは「僕といる時だけ」という、まるでずっと見ていたかのような言葉に違和感を持たなかった。
「俺もお前に幸せだって思って欲しいんだよ。こんな……ここにいることだって本当は嫌なんだろ?だから俺もできればお前の望む通りに……うっ」
アレストはスッとカナトの服の中に手を差し入れた。
「お、おい……い、今か?」
「しないよ。ただ肌に直接触れたいだけ」
「そうなのか……触り心地良くないだろ」
何しろ拷問のせいで体のあちこちがでこぼこしている。酷いところでは肉が欠けている。
服を脱ぐ時はカナト自身でさえなるべく見ないようにしていた。
だというのに、
「そうかな。カナトの体はずっと触り心地がいいよ」
「~~っ」
カナトは真っ赤になりながら口をもごもごとさせた。
「そういうこと……さらっと言うなよ」
「本当だ」
「……嘘つけ」
「嘘じゃない」
「……お前、よく嘘じゃなくてただ言わないだけの場合あるし、本当かよ」
「もちろん。カナトのすべてが好きだ。どうしようもないくらい愛してやまない。……カナトはどうなんだ?本気でーー」
「俺も愛してるぞ!」
「そっちじゃない」
「え?」
「僕が聞きたいのは、カナトがこれから先本当にここで僕と永遠に暮らすつもりなのか?」
「当たり前だろ!」
「本当か?」
カナトが目をしばたたかせて訝しげにアレストを見返した。
「……何かあったのか?」
「例えこれから先何があろうとも、誰が現れてもきみは僕と一緒にいてくれるんだな?」
「だからそうなんだって……待て待て、本当に何かあったんだ?」
なぜか嫌な予感に体が緊張する。
こんな大事な時期に一体何がアレストを刺激したんだよ!また酷くなってないか!?
「なんでもない。おやすみ」
「そうか……」
そう答えるが、カナトは気にしてなかなか眠れなかった。
そしてやっと寝入った頃、アレストのほうがスッと目を開けた。
起き上がり、布団を取り払うとカナトの服のボタンを一つ一つ解いていく。
はだけられる寒さにカナトの眉が寄せられ、自分を守るように寝返りをうった。
その様子を見下ろしながらアレストの青い瞳に激しい感情が行き来した。
傷だらけの体にまたも“占領”したいという感情が湧き上がる。
この体の傷はフェンデルがつけた。自分じゃない。この体に永遠に消えない傷をつけたのは自分じゃない……他人がつけた……この体に…この体に……!すべて塗り替えてしまいたい!同じことをもう一度この体に繰り返して自分の存在を刻みつけたい!永遠に忘れられないように、すべてを!
アレストはあふれてしまいそうな嫉妬と独占欲に奥歯を噛み締めた。
ふと銀色の仮面を被った男、イクシードの姿が脳裏に浮かぶ。
それに続いて今は憎しき父の顔が浮かんだ。
なぜ……これほどまでに血縁というものに自分のすべてが奪われていく?
カナトがイクシードについていくとは思わないが、アレストは心のどこかでカナトも血の繋がりを求めているのではないかと思っていた。
そう考えれば考えるほど、ドス黒い何かが全身をがんじがらめにしていく。
心臓とのどを締めつけられるように息苦しくなっていく。
「……確かめないとな」
のどをきつく押さえながら青い瞳にゆらりと何かが揺れた。
カナトとイクシードに本当に血の繋がりがあるとすれば、その時はーー
独占欲と劣情にまみれた目がカナトの寝顔を見下ろした。
大きく冷たい手がそっとそのはだけた胸に触れる。
その冷たさにカナトがさらに身を縮こめ、暖かさを探すように布団を引き寄せた。
「聞こえるか?僕は何があっても手放さない……僕にはきみしか残っていない。この世できみだけだ。例え周りの者をすべて不幸のどん底に突き落としてでもきみをどこかに行かせたりしない。僕のそばがきみの居場所だ。わかったか?」
カナトは悪夢にうなされるように、のどから小さなうめき声がもれた。
アレストはその髪に触れながらふと笑いをもらした。
フェルサジア殿、きみは約束してくれたはずだ。カナトと引き換えに僕はこの役職も周りも捨てた。だから、貴方が約束を守ってくれないと困るな。
とはいえ、その約束自体アレストが本気で守り、永遠にこの場所で大人しく暮らすつもりだったのかどうか、それは本人にしかわからない。
せめて今は間違った選択をしないでくれ。フェルサジア殿。
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