転生と未来の悪役

那原涼

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番外編

カナトの身分5

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アレストはこの屋敷で何もしないわけではない。『コドク』の暗殺者たちから上がってきた報告をまとめてイグナスに渡さなければいけない。

だが、ゆっくりと午後の仕事をしていた時である。

開け放たれていた窓から「アレストォ……」とひかえめな呼びかけが聞こえてきた。

振り返ると、窓枠からちょこんと白い小さな頭だけを出しているカナトがいた。

「どうしたんだ?カナト」

「あのさぁ、お前何か欲しいものはないか?」

「ん?急にどうしてそんなことを聞くんだ?」

「いや、その……気になってな」

「特にないかな。強いて言えばきみだけ」

「そうじゃなくて、本当に何もないのか?欲しいもの……」

アレストは目線を落として考え込んでみたが、やはりカナト以外に思いつかない。

「やっぱりきみかな」

「そ、そうか……。仕事のじゃまをして悪かったな。それじゃあ」

カナトはバサバサと翼をはためかせて飛んでいってしまった。

アレストはその去っていく姿を見えなくなるまでしばらく眺めなてからふいと視線をそらした。

伸ばしてしまいそうな手をきつく握り、口もとに当てた。

カナトが自由に飛び回る姿を見るとどうしても翼をもぎ取って引き戻したくなる。

ここにさえいればカナトはどこにも逃げれないはずである。なのに、なぜ意識体の姿だと外に出れるのか。

ああ…不安だな。

やはり安心するにはカナトの自由を奪うしかないのか。本人に自身が魔女だと知られれば離れていく危険はさらに増す。自分の力に気付かずにここにいることと、気付いてここにいることとは違いがありすぎる。

逃げていく………それだけはダメだ。

カナトの魔力をどうにかしなければいけない。できるだけ本人が気づく前に。

とはいえ、カナトが自分の魔力に気付く素振りは今のところ一切ない。
















自分の部屋に戻ったカナトは体に戻り、ベッドの上で腕を組んだ。

「困ったな……」

よくよく考えれば、自分より誕生日が早いはずのアレストをすっ飛ばして、自分だけが誕生日を祝ってもらう状況は非常にまずい。

「アレストの誕生日忘れてしまった……」

なのに自分の誕生日は覚えてくれている。

とにかくこの失敗を取り返さないといけない。

カナトは必死に考えたが、さっきアレストに欲しいものを聞いた時に自分以外何も出てこないから、逆にどうすればいいのかわからない。

プレゼントは、わ、た、し!的なやつをやればいいのか?いや、ちょっと無理かもしれない。

でもなぁ、と頭を抱えベッドの上をゴロゴロする。

「何かお返ししないとなぁ……」












結果、アレストが自部屋に帰った時、ベッドのふくらみを見てついつい察した。

「……カナト?」

「か、帰ってきたか」

布団のなかから顔を出したカナトは恥ずかしそうに身をよじった。

「何をしているんだ?」

「いや、その、お前が欲しいものを言わないから……」

アレストは近づいていき、布団のにそっと手を置いた。

カナトがびくっとして体を硬直させ、顔を真っ赤にした。チラチラとアレストを見てから蚊の鳴くような声で言う。

「笑う、なよ……」

「うん」

アレストが布団を引っ張ると、するすると阻害なく布団が取り払われた。

カナトの隠された体が隅々までアレストの目にさらされる。

「布団の下はこんな格好だったのか」

「今笑っただろ!?」

「笑ってないよ」

「本当かよ!本当に笑ってないんだな!?」

「もちろん」

カナトは首にいびつな形になった赤いリボンを結び、全身裸で待機していた。

「もしかして僕への贈り物のつもりなのか?」

「うん……お前の誕生日、その……アレだから」

自分が忘れていたからである。

カナトが穴に飛び込みたいほどの恥ずかしさを感じているというのに、アレストは突然声を上げて笑った。

「ははは!そんなこと気にしていたのか。大丈夫だよ」

アレストはベッドに腰かけるとカナトを抱き寄せた。自分の体を抱きしめながら恥ずかしがっているカナトに布団をかけて、

「そもそも誕生日なんて僕が拾われた日にしているだけで、実際の誕生日なんて自分でもわからない」

「そっか……俺たち同じだな」

「ん?」

「ほら、お前も俺も親が誰かわからないだろ?しかも同じ拾われたもの同士だし!」

「そうだな。この世界で僕の家族はきみだけだ」

「………それなんだけどさ、別に俺だけじゃなくてもいいんだぞ?お前の家族は他にもいるんだし」

「父様のことか?それともユシルのことか?どちらも僕にとっては大事じゃない。きみさえいてくれればいい」

そう言ってカナトの目じりに軽いキスをした。

「でも………」

「きみさえいてくれれば、他には何もいらない。だから僕は今この場所にいるだろ?」

「それはそうだけど」

「それより、プレゼントを開けてもいいか?」

「え?あ、待っーー」

カナトの首に結ばれたリボンがシュルッと解かれた。

「今夜は楽しもうか」

「うっ……か、軽くだぞ。噛んでいいけど、今回は特別だからな!」

「痛くしないよ」

「嘘つけよ!!」













アレストは血縁というものを死ぬほど疎んでいた。

もちろん原因はアグラウとユシルである。

だからこそ、ふたたび訪れたボースト公国の総督、イクシード・ケルンベルスに眉をしかめた。

「今、なんと?」

「私がカナトの父親だ」

クモを見ると、あちらは厳しい顔で地面を見つめていた。クモにとっても今の状況は予想外らしい。

「カナトはずっとこの国で暮らしていましたよ」

「噂だと川で拾ったらしいな」

「確かにそうですが、お詳しいのですね」

「ああ、もしかしたら息子がいるかもしれないと思うと、心の興奮が抑えきれなくてね」

だがその赤い目にどれほどカナトとの再会に喜ぶ、という感情は見当たらない。

血縁者。

その言葉を心の中で繰り返し、アレストの目に冷たいものが這い上がった。






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