転生と未来の悪役

那原涼

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番外編

カナトの身分4

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東の国から偉い人が来てから約1か月が立つ頃、カナトはアレストから突然プレゼントを渡された。

「な、なんだこれ?」

やけに豪華な箱を持ちながらカナトが不思議そうにしている。

「きみの誕生日だよ」

「え?」

「忘れたのか?今日はきみの誕生日だ」

「ああ!すっかり忘れていた!」

「お菓子もケーキも用意したから、着替えたら事務室の隣においで」

「わかった!」

カナトは急いで着替え、アレストのあとに続いた。

「そこまで急がなくてもいい。今の僕たちに時間なんて余りあるほどあるからな」

「別にいいだろ」

プレゼントの箱を持ちながらカナトが期待にふくらませた顔で廊下を歩いた。

やがて事務室の隣に来ると、カナトの手が一瞬ぴくりとする。

事務室の隣といえば、自分が裏切った期間に首都にいる屋敷でアレストから噛まれたり放置されたりする経験があったせいか、思わず緊張し始めた。

「カナト?」

「っ……!な、なんでもない!この部屋だな!」

入るぞ!と言ってカナトはドアを開けて中に入った。

「うお!三段ケーキ!?すげぇ!昔も三段ケーキがあったな!」

自分が昔の行動を取れば取るほどカナトがよろこぶと知っていたアレストは、ただにっこりと笑って部屋の中に入り、ガチャンとドアを閉めた。

三段ケーキによろこぶカナトの背中を見つめながらわずかに目を細める。

いったい昔の愚かな自分のどこがそこまで気に入っているのか、本人には理解できなかった。

帰ってくることのない親情を求めては嫉妬し、自分のものが奪われていく中でも居場所を探そうと足掻き、最終的には大切な者の関心を掻っさらわれていくのを見過ごしていたあの時期の自分を、今のアレストは酷く嫌悪していた。

できることなら自らの手で当時の自分を絞めてしまいたいくらいである。

なぜ全力で目の前にある大切なものを守らなかった?なぜ奪われていくのを見過ごした?なぜ何も行動しなかった?

そう問いただしたい。そうすればカナトはユシルになど目もくれず、自分だけを見てくれたのではないか。

あのキラキラした猫のような目で、味方だと必死に訴えてくるあの声で……。




ああーーしてしまいたいくらいに愛おしい




アレストはケーキとお菓子の前で反復横跳びしているカナトの背後に近づいた。

興奮であちこち飛んでいたカナトの背中がどっとぶつかった。

「うおっ!あ、ごめん。後ろ見てなか……」

言葉が途中で途切れた。

カナトは見上げたまま思わずお腹の底が冷えていくような感覚を感じた。

自分を見るアレストの目がまたもあの執着じみた目をしている。

最近は昔に戻りつつあるのになんでまたこんな目をするんだ?と少し混乱した頭でなんとか言葉を絞り出そうとした。

「カナト」

「ぇ……あ」

次の瞬間、アレストはパッと明るく笑う。

「ははは!なんて面白い顔をしているんだ?ほら、好きなものばかりだろ?」

「え……?そ、そうだな!」

カナトは、まさかまた逆戻りしたのかと少し動悸がおさまらない心臓を服の上から押さえた。

さすがにないか。ずっといい傾向で来ているのに、逆戻りするきっかけなんてないもんな!うん、気のせいだ!

なんとか自分を納得させて、カナトはアレストと一緒にケーキとおやつを食べ始めた。













お誕生日会を終えて、昼寝までしたカナトは満足げに自分の部屋へ帰った。

カナトを安心させるためか、いまだに突然の接触に驚く本人に個人で使用する部屋を用意していた。

たまにカナトはアレストと同じ部屋を使い、どうしても会いたい気持ちを満たしていたが、なぜかアレストと寝る晩に限ってよく悪夢を見る。

しかし、自分に合わせてくれる距離感にカナトはどんどんアレストを受け入れ始めた。今は警戒心すら捨てて甘えている。

だからなのか、今日のアレストの目つきには少しびっくりしてしまった。

このままずっと好転してくれるといいけどなぁ。














イグナスの屋敷で、シドは目を覆い隠しながらソファに座っていた。

反対側に座っているイグナスとユシルはいずれも重く黙り込んでいる。

3人が囲むテーブルの上には封筒と一枚のハンカチが置いてある。

「まさか、あの2人に血縁関係があったとはな」

イグナスが深いため息を吐き出して言った。

「他人事みたいに言うな。お前とも血縁関係があるんだ」

シドは煩わしそうに前髪をかきあげ、スッと封筒とハンカチをにらむ。

封筒の中身はすでに確認した。

結論から言うと、イクシード・ケルンベルスはカナトの実の父親である可能性が大きい。このイクシードこそがボースト公国の総督本人である。

イグナスの親族でもあるケルンベルス家は、古来より言い伝えの、勝利をもたらす白鳥の伝説を信じ、家紋にするほど迷信にのめり込んでいる家系である。

東はシドたちがいる北と違い、魔女狩りの歴史はなく、むしろ魔法を扱える人々を巫女みこと呼んで大事に保護している。

そのためか、迷信といったものを信じる人々が多い。

イクシードもそうであった。

イグナスが手を回してなんとか手に入れた情報では、昔、とある巫女から授かった予言で「1番目の息子を山の精霊に差し出せば、近い将来必ず幸運の白い鳥が舞い降りてくる」という内容に、イクシードは迷うことなく1番目に生まれた息子を山に置いてきた。

そして今、フェルサジア領で白い小鳥の伝説が出回っている。イクシードが食いつかないほうがおかしい。

「あいつは『コドク』にでもいたか?」

シドは封筒をにらみながら男の無情さに眉をしかめた。

イグナスは頭を振りながら言う。

「あいつらに人情や道徳観を求めるな。一つの幸運のために容易に非人道なことができる。特にイクシードはそういうことができる男だ」

「お前もできそうな面をしているがな」

シドとイグナスの視線がじっと空気中で交わった。

そこへ重苦しく黙っていたユシルがぽつりと言う。

「カナトが安心できる場所は、どこにもないんだね」

シドはユシルを見てからハンカチに目線を落とした。

家紋は一度変えられているらしい。東では婚約や合併などによりよくあることだった。だがケルンベルス家の家紋は違う。

白鳥にこだわり、かたくなに変えることをしなかった。唯一変えるきっかけになったのが白い翼を家紋にもつルメート家との婚約である。

ケルンベルスに嫁いだルメートの娘はかなり溺愛されたという。

だがそれは二代も前の話である。

なぜ二代も前の家紋であるハンカチとマントがカナトと一緒にいたのか誰にもわからない。












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