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番外編
カナトの身分8
しおりを挟むカナトは肩を縮こまらせながらチラチラと他の3人を盗み見した。
3人ともそれぞれくつろいでいるように見えるが、実際のところ何を考えているのかまったくわからない。
特に一緒に来たイグナスとイクシードである。
俺の父親ってなんだよ……。
イグナスもこの場にいるのがなんともその話に現実味を持たせている。
「あ、あのさぁ」
好奇心と無言に耐えられず、声をかけると瞬時に3対の視線が集まった。それに少しおずおずとしながらなんとか言いたいことを口に出す。
「お、俺がお前の息子だっていう証拠?みたいなのってあるのか?」
イクシードはふむとうなずいてから口を開いた。
「それにはシドという人間が来なければ始まらない話だが、先に話しておくのもいいだろう」
この沈黙の時間ってシド待ちだったのかよ!
「まず、なぜ私がきみを息子だと思ったかについてだが………その前に」
「その前に?」
「うん。きみは白い小鳥の伝説をどう思う」
「は?」
「見つかれば幸せをもたらすと伝わっているようだが」
「し、知るかよ……まあ、ご利益はあるんじゃないか?いや、保証はないけど」
保証はない、という言葉にイクシードがわずかに目を細めた。
「まるできみ自身がその白い小鳥のようだな」
「は!?な、なな…なんでそう思うんだよっ」
あきらかに焦り出したカナトに、アレストは軽く頭を振った。
「カナト、大丈夫。落ち着いて」
背中をさすられてカナトがいくぶん落ち着きを取り戻した。
ああ、そうだ。平常心、平常心。焦るな。
だが、イクシードの目には何か確信に似たようなものが浮かんだ。
「きみはあの愛らしい小鳥とよく似ている」
その言葉にまたも焦りそうになったカナトはギョッとした目を向けた。
こいつ何か知っているのか?イグナスが何か教えた?それとも試されているのか?
わけがわからず、カナトは助けを求めてアレストを見上げた。
「カナトは白い小鳥と関係ありませんよ。総督殿」
「そうかい。それは残念だ」
そう言うが、その目はどこか執着じみたものを浴びながらカナトを見つめている。
アレストとは違ったタイプの執着に見える。こちらはなんと言葉にすればいいのか、身の毛がよだつ、そんな感覚をカナトは抱いた。
こいつの目線苦手だな。
そう思った時だった。突然大きな音を立ててドアが開かれた。
見ると、入ってきたのは息を切らしているシドである。
「シド!?」
やっと来たか!
シドは頬の汗を手の甲でぬぐいながらちらっとイクシードとイグナスに目線を向けた。
「……何を考えているんだ」
「事情はこれから話す。アレは持ってきたのか?」
「ああ。お前が急に言いやがるから、休みも取らずに来た」
イグナスに向かってどこか恨みがましく言うと、シドは持ってきたものをテーブルの上に広げた。
折りたたまれた布とハンカチである。どちらも黒生地に金のふちで白い何かを囲んだ模様が描かれているようである。
なんだこれ……?
カナトが不思議そうにそれを見ていた。
「これはカナトをくるんでいたマントと首にくくりつけられていたハンカチだ」
テーブルのものを見たイクシードの目がわずかに見開かれる。
「ああ……間違いない。これはあの子のものだ」
そう言うと仮面の奥にある赤い目が興奮とも取れそうな眼光でカナトを見つめた。
「やはり、予言通りだった」
「予言……?なんのことだ?」
「きみは私の息子だ。そして私に幸運をもたらす大事な存在だ」
「何言ってんのかわからないんだけど……」
「さあ、私と一緒に帰ろう。きみが望めばなんでも与えよう。この空白の期間をすべて埋め尽くしてしまうほどの」
「お待ちください」
イクシードが差し出した手をつかむ形でアレストが身を乗り出した。まるでカナトを侵食するような目線からさえぎり、冷たい目を向ける。
「彼は僕の恋人だ」
その言葉にイグナスとシドがわずかに反応をした。
逆にイクシードは笑っているような目もとをぴくりともさせずに落ち着いている。
「なるほど……」
アレストはにっこりと笑い返してからイグナスを見た。
「この状況を説明していただきたい」
「ああ、ちゃんと説明はする。まず、総督にカナトのことを教えたのは俺だ。もちろん意識体のことも話した」
イグナスを見つめる青い瞳がどんどん温度を下げていく。
口もとは笑みを耐えているのに、目はまったく笑っていない。その表情に一番近い距離のカナトが凍え死ぬような思いをした。
おかしいな……暖炉はつけているはずなのに。
アレストの周辺がまるで自然現象みたいに冷気を放っていた。
「まずは話を聞け」
イグナスはそう言って疲れたようなため息を吐き出した。
「総督は……こいつはお前たちが思うよりゴミだ」
「酷いな、イグナスは」
「黙れ」
怒られたイクシードは軽く頭を振って、気分を害された様子もなく紅茶を一口飲んだ。まるで若輩のおイタを見守る年長者のようである。
実際この人員のうち、一番の年長者である。
「この男と血の繋がりが曲がりなりにもある立場として、頭のイカれたやつだとわかっているからこそこの話し合いの場を設置した。約束が違えたことは謝る。だが、ここはひとつ落ち着いて聞いて欲しい。元はと言えば勝手に外を飛び回ったどこかのアホ鳥が招いた事態だ」
どこかのアホ鳥がそっと視線をそらした。
確かに幸運をもたらす白い小鳥とか、酔った勢いでイクシードの前に出たのはカナト自身である。
どっちも酒のせいである。そう思うようにしてカナトは気まずさをごまかしていた。
そして盗み見程度に視線を上げるとバチッとイクシードと目が合ってしまった。慌ててそらすが、さっき見た視線の熱狂的な色に何かを連想する。
ああ……そうだ。推しのライブやイベントに参加するオタク特有のあの熱い視線だ。
己が推しを神と崇めるオタクの目だ。
ユシルとイグナスを見ていた自分と似ている。
だがなぜそんな目を自分に?息子かもしれないからなのか?
カナトはまだわけがわからずに首をひねった。
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