転生と未来の悪役

那原涼

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番外編

カナトの身分10

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イグナスは用事があると、イクシードとシドが先に出て行かせてから口を開いた。

「カナト、お前がイクシードの息子かどうか関係なく、この屋敷から出ることはできない。いいな?」

「別に出ねぇし」

「その言葉を忘れるな。ここでお前が最悪な事態になっても助けてやれない。いや、助けない。だから考えて行動をしろ」

「わ、わかった……」

イグナスは今度はアレストのほうを見た。

「約束は守る。イクシードにはカナトに手を出させない。あいつは迷信深い人だ。だから今回のことで定期的にカナトに合わせることであいつの信仰心を満たすつもりだ」

アレストは笑みを浮かべたまましばらくすると口を開いた。

「わかっている。カナトを外に出した僕の責任でもあるし、今回のことは仕方ないですよ。この場を作っていただきありがとうございます。フェルサジア殿。いや、今は宰相殿と呼んだほうがよろしいかな?」

「好きに呼べ」

そう言ってイグナスは立ち上がった。

玄関まで見送る意思はないようで、アレストは立ちあがろうとしているカナトの腰に腕を回したままソファの背もたれに体を預けた。

「なあ、アレスト」

「ん?」

「見送りはいいのか?」

「どうせクモがそうする」

「あ、それもそうか。…………あのさ」

「なんだ?」

「その……お前とイグナスが言っていた約束って俺と関係するのか?」

「そうだ。きみがここにいる限り僕はどこにも行かない」

「そのことか……ならよかった」

「?」

「変な意味じゃなくて!俺今の生活嫌いじゃないからさ、できるならお前にも好きになって欲しいけど……イグナスと無理な約束をしてここにいるならその内出ていきたいんじゃないかって思って」

「前にも言ったと思うが、きみが心変わりしなければ僕はここにとどまる。逆に少しでもきみの心が離れていったと感じた時は迷わずに行動を起こす」

どんな行動を起こす気なのかカナトは聞けなかった。ただ大人しくコクコクとうなずく。

「大丈夫だ。絶対に離れない!」

「うん、信じている」

カナトはアレストに寄りかかって内心ほっとした。

自分がアレストから離れていくとは考えにくいからだ。

ここでずっと穏やかに暮らせるといいな。

カナトはそう願った。















あれからイクシードから会いにくる気配はない。なのに、話し合った日からアレストの機嫌はずっとおかしい。

どこか心ここに在らずな様子がよく見受けられる。

「何かあったのか?」

たまらずカナトはそう訊いた。

廊下で一歩前を歩いていたアレストが振り返り、どこか不思議そうにする。

「なんの話だ?」

「いや、お前あれから少しダンマリというか、物思いにふけているというか……気になって」

「そうかな。全然気づかなかった。心配させて悪かった。でも大丈夫だから、気にしなくていい。それじゃあ事務室につくから、カナトは遊んで来ていいよ」

「いや、今日は俺も付き添う」

「本当に?うれしいな」

そう言ってアレストは明るく笑った。

その笑顔からどこか無理やり感がにじみ出ているんじゃないかと感じ取ったカナトは、迷いげに目線を下げた。

やっぱり何か変だ。

アレストがミツバチやクモから渡される書類をさばいているかたわらで、カナトはずっとその様子をガン見していた。

だがそうするうちに眠気が襲ってきてどんどんうとうとしてくる。

耐えきれずにそのままソファで横になると、秒で寝入ってしまった。

静かな寝息に仕事をしていたアレストが顔を上げた。ペンを置き、ソファに近づいていく。

「カナトは本当に心配性だな」

そう言ってひざに手をつき、カナトの穏やかな寝顔を眺めた。その青い瞳から隠そうともしない独占欲があふれ、寝ているカナトに容赦なく降り注ぐ。

「そのままずっと僕のことだけを考えてくれ。僕を気にかけ、僕の機嫌を取り、僕だけのものになれ」

ここ数日の“作り”はうまくいったようである。

演技だとも気づかずにカナトはアレストを心配していた。しかし、アレストはアレストで安心できない部分があったのは事実である。

イクシードとカナトは血が繋がった親子である可能性はかなり高い。幸いしたのはあの傷が拷問跡で隠されたことである。

これでカナトがイクシードの息子だと確かめる手段はほぼないに等しいが、安心はできない。

あれほど自分を可愛がった父親が血の繋がりだけでユシルを選んだこと、そして貴族界の血筋を重んじる習慣。そのいずれもアレストの不安を掻き立てた。

カナトもいつかは血の繋がりを求めて離れていくのではないか。そう考えるだけで狂いそうになる。

アグラウがユシルに入れ込んでいる期間に起きた全てが雪崩のようにアレストを襲った。

その全てが忌々しく、唯一自分に残されたカナトまで離れていくのかと思うと、この世界ごとを恨みそうになる。

「カナト……ずっと僕の側にいてくれ」

懇願にも似た言葉が静かな空間にゆっくりと染み込んでいくように消えていった。








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感想 28

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みんなの感想(28件)

どるちゃん
2024.04.30 どるちゃん

完結おめでとうございます。お疲れ様でした。
約半年以上、毎日更新して頂き、毎日ドキドキハラハラ、どうなってしまうのと毎日ワクワクと読んでいました。
最初から最後まで、毎日読んでいたので、生活の中にぽっかり穴が空いてしまったようです。
エンディングにはなんとも不穏な空気を残しつつ…カナト、幸せに生きて…😭
番外編もあるということで、とても楽しみにしています。二人のその後や、周りの人達がどうなってしまったのか…
まだまだみたいシーンが尽きません。
まずはお身体を休めながら…ご自愛くださいませ。まったりと楽しみにしています。
では、長らくの更新本当にお疲れ様でした。幸せな日々をありがとうございました🙇

2024.04.30 那原涼

ありがとうございます!ついに完結を迎えました!
気がつけばこの作品を書き上げるのに半年間もかかっていたことに私自身も驚いています。
読者様方からの反応が全てうれしく、この作品を書く過程もすごく楽しく感じました。
どるちゃん様のお言葉でさらにこの作品を完成へもっていけたことを心より良かったと深く感じております。
番外編は少しゆっくり更新ですが、ぜひお時間のある時にでものぞいていただけると幸いです。

この作品をお読みいただきありがとうございました!

解除
あてぃー
2024.03.23 あてぃー

はじめまして!
恐らく初期の頃にブックマーク登録してたのになぜか更新通知だけ見て読んでおらず、数日前にふと読み始めたのですが、あの、本当にものすごく面白いです!!!
カナトくん自体も大好きですし、アレストの闇堕ち具合、ヤンデレ具合、闇堕ちしていく過程などが本当に丁寧で最高で素晴らしいです。まだまだ彼らを見ていたい、まだまだ完結せず続いてほしい…!と強く願うくらいにはハマっています!
闇堕ちもヤンデレもバッドより(メリバ)も大好きなのですが、自分の好みに合う物語に会える確立ってなかなかないものだと思うので、この作品に出会えて幸せです。
更新楽しみにしつつ応援しております…!

2024.03.23 那原涼

あてぃー様、ご感想ありがとうございます!

お読みいただけてうれしいです!
アレストの闇堕ちには少し時間がかかっており、力を入れていた部分でもありますので、素晴らしいと言っていただけてとてもうれしいです!
その上この作品に出会って幸せと言っていただき、とても励みにもなりました。
私もこの作品を書いて良かったとますます思いを強くしております。
ご応援ありがとうございます!

解除
ぬこ
2024.02.29 ぬこ

初めまして、いつも更新ありがとうございます…!
カナトに対するアレストの重すぎる執着心が本当に堪らないです。もう取り返しがつかないところまで闇堕ちしてて本当に最高です。
これからも応援してます…!

2024.02.29 那原涼

ぬこ様、作品を見てくださりありがとうございます!
アレストの執着にも闇落ちにも力を入れておりますので、最高と言っていただけてうれしいです!
ご応援ありがとうございます!完結までがんばらせていただきます(≧∀≦)

解除

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