【完結】🧚‍♀️カクヨムコン10中間選考突破作品・マーダ『森の護り人・ファウナ』－ローダ第零章－

第4部 新たなる敵と頼れる仲間達

第26話 特務

　連合国軍スペイン・バルセロナ基地では、重苦しい雰囲気の最中、とあるミーティングが開かれていた。

「エルドラ・フィス・スケイル──『緑の流星シューティングスター』、あの一件以来沈黙を続けている。だが先日、ミラノを噴き飛ばしたディスラド──『金色の炸裂弾ビッグバン』……」

　この基地の総司令官がプロジェクターの映像を指しながら淡々たんたんと報告を続けている。

　円卓の座席でそれに聞き入る殆ほとんどの者がその総司令官と同じ面持おももちである。

　そんな最中ただ一人、銀髪に灰色が入り混じる男だけのみ、頭の後ろで手を組んでテーブルの上に脚すら投げ出す横柄おうへいな態度を露あらわにしていた。

「……デラロサ隊長、幾いくら何でもその態度は」

「あぁっ！？　んなこと判ってんよォ！」

　その男を小声で嗜たしなめようとする隣に座る女性。男はどれだけ言われようが決して改めようとしない。呆れた他の輩やからがワザとらしく咳き込む。

　この男、アル・ガ・デラロサ大尉にしてみれば至極しごく判り切った事を、判らぬ馬鹿共へ説明しているこの時間こそ無駄なのだ。

「──シューティングスターとビッグバンの被害にこそ及ばないが、異常な事件が日本とイギリスにて発生している」

　プロジェクターの画像が先ず日本の被害状況に切り替わる。その凄惨せいさんなる映像に首を振る者や、思わず声を上げる者もいた。

　自動車、家、果てはビルが完全に斬り裂かれ、夥おびただしい流血を帯びている。

　全てを一刀両断にしているこの男。
　エルドラやディスラドの様に名乗ってこそいないが、青と赤のオッドアイ、スーツ姿と収束した光で形成された剣を武器にしているのが特徴である。

　嘗かつて幕末に於いて邪魔者を斬り伏せた人斬りになぞらえて『天誅てんちゅう』と呼称されている。

　次にイギリス、主にロンドンで起きている奇怪きっかいなる事件映像。

　これには隊長デラロサを戒いましめようとしたマリアンダ・アルケスタ少尉ですら胃液が昇ってくるのを抑えきれない。

　アルケスタは数々の死線を潜くぐり抜けた歴戦の兵士だ。同じ軍人でも基地の椅子に根を生やした連中とはまるで異なる。それにも拘かかわらず身体が容認出来ぬ絵柄えがらなのだ。

　ロンドンに於ける被害者の映像──全て1人ずつの大写しなのだ。その上それら全ての死因が異なる。全身の穴から流血していたり、臓器を口から吐き出している者すらいる。

　イギリスと言えば１９世紀、切り裂きジャックという殺人鬼が横行した場所である。

　それを引っ張り出し、呼び名コードネームを『殺人鬼ジャック』とした。此方は犯人の姿どころか殺人の手口すら掴つかめていない。

　バチンッ。

　プロジェクター映像が消され、会議室の灯りと入れ替わる。部屋こそ明るくなったが皆の目は、光を喪失そうしつしていた。

「──以上、何いずれも常軌じょうきを逸いっした事件の報告である。何か質問はあるか？」

「ハイハーイ、いつから軍は警察の真似事を始めたのでありますか」

　此処でこれまで白けていたデラロサが気軽な声で手を挙げる。円卓の上にある脚はそのままだ。

「デラロサ大尉……それはこの一連の事件全てがあのシチリアの例・の・踊・り・子・に端たんを発したものだ……私はそう考えている」

　此方も相変わらずブレる事なく応じる。デラロサの態度に逐一ちくいち怒る程、器量の小さい司令官ではない。もう手慣れたものなのだ。

　ニタリッ。

　デラロサの口角がクイッと上がる。

「……でしょうねぇ。それで？　この後どうなされるおつもりでありますか？」

　さらに司令官を煽あおるデラロサ。『お前、聞くまでもないことを……』と少々苦虫を噛かみ潰つぶす司令官、応答代わりの言葉で鋭く突き放す。

「別命あるまでアル・ガ・デラロサ大尉、マリアンダ・アルケスタ少尉は待機だ」

　ガタッ！

「了解Yes sirであります！」

「了解こ、Copy！」

　渡された台本シナリオがあるかの様な動きで機敏きびんに席を立ち、敬礼するデラロサと、それに引き摺ずられるが如く、同じく敬礼したアルケスタであった。

　◇◇

「──随分と暴れ始めたものだ。日本人の方はNo3、全てを斬り伏せるのを望んだ男『天斬てんざ』だ。これは見た通りの能力だよフフッ…」

　自身の子・供・達・の・活・躍・を悦よろこびつつも『まだまだだな』と嘲笑あざけわらう、一際ひときわ抜きん出た継母ままははのような踊り子レヴァーラ。

　完全にイタリアから見限みかぎられ、シチリアという地名すら意味を成さなくなりつつあるこの地。

　異・能・者・達・の中枢ちゅうすうとディスラドから公開されてしまったレヴァーラ等にも当然、それらの情報は届いていた。

「そしてロンドン……このやり口は恐らくとしか言えんがNo5、占い師『アビニシャン』であろうなクククッ……」

「占い！？　アレが占いの結果だと言うのですか？」

　一方、まるで死因すら掴めていない凄惨せいさんなるロンドンの惨状さんじょうを見ながらレヴァーラはそう断定した。

　これには全てを見透かす蒼き目を持つ魔導師ファウナ・デル・フォレスタですら、理解が追い付かず狼狽ろうばいした。占い師───そんな職業が成せる業わざとは到底思えない。

「ヴァロウズNo5真ん中の実力者と定義したのがアビニシャンです。彼女は思・考・を・捨・て・、己の生き死にすらタロット占いに預けた存在なの」

　珍しく口を挟はさむ銀髪の保・護・者・リディーナである。その顔にレヴァーラの様な余裕は微塵みじんも垣間かいま見せない。

「はぁッ！？　ま、全く以って意味が判らんぞッ！」

「……思考を捨てた！？」

　ヴァロウズの能力を知らされていない新参者、オルティスタとラディアンヌも同様の疑問を呈ていする。確かにファウナの質問に対する答えに全くなっていない。

「ファウナちゃん達の驚きは無理もないよ。でも事実なのよ、アビニシャンを相手取った者は、タロット占いという審判ジャッジに掛けられるの」

　蝶ちょうを模した髪飾りを弄いじりながらNo8のディーネが続ける。結果だけで理由を説明出来ないからどうにも気分が冴さえない。

「そうだ……何れかの生死を賭かける。賭けであるなら当然アビニシャンとて負ける公算がある筈なのだが絶対に勝利するのだ」

　さらにNo7のフィルニアがこれも判る範疇はんちゅうで応じる。ディーネと同じく何とも言い難い顔つきだ。

「……要はあの女の勝ち筋が見えん。ただの運Luckだけであるのなら実力が計れぬ。だからNo5中途半端としたのだ」

　理由わけの判らぬ余裕の笑みを、相変わらずレヴァーラが独り占めして〆括しめくくった。

「なんだなんだそのチート振りは？　どうせイカサマじゃないのか？」

「オルティスタさん、言いましたよね？　アビニシャンは思考を捨てた存在なのです。依って小細工……！？」

　ふざけるなと喰ってかかろうとしたオルティスタを宥なだめようとしたリディーナの顔色が蒼白そうはくに変わる。

　ピッ。

　No3とNo5の情報を映していたモニターを瞬時に切り替えた。メッシーナ海峡をホバリングしながら進む2機の人型が映し出された。

　灰色をベースにしたロボットと、それよりも一回り大きい白い機体。
　見間違える訳がない。一度蹴散らした軍の連中であった。一同の顔に緊張が一気に走る。

「──えっ？　白…旗？」

　ファウナがその異常ぶりに気づいた。戦う意志の無い表示に。

『此方連合国軍スペイン支部、アル・ガ・デラロサ大尉。踊・り・子・に一時休戦を申し出る。繰り返す……』

　やはり間違いなく以前戦い打ち破った連合国軍に違いなかった。

「……成程。向こうにも頭が良い輩やからがいる。ククッ……。リディーナ、精々せいぜい鄭重ていちょうに出迎えるのだ。アレは我等の駒ポーンに為なり得る」

　既に上がっていた踊り子の口角。さらに口が裂けんばかりに上がった。

　──さて、我われが踊・る・か・踊・ら・さ・れ・る・か・……実に愉快ゆかいではないか。