【完結】🧚‍♀️カクヨムコン10中間選考突破作品・マーダ『森の護り人・ファウナ』-ローダ第零章-

🗡🐺狼駄(ろうだ)

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第10部 壊れゆく過去・辿るべき未来

第102話 我が愛しのファウナ様

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 最の敵、エルドラ・フィス・スケイルの人生の幕切れは意外な程あっけなかった。同時に2つの基地をただの廃墟はいきょと化した鮮烈せんれつなるデビューをかざったのにもかかわらずである。

 世界に取って不要とののしられる軍基地を殲滅せんめつすべく、衛星軌道上から小惑星かはたまた宇宙の海に浮かぶデブリを落とす。

 その行動に一部の人間達から神と信仰された存在で在った。だがアメリカ軍基地をすべからず潰した後、世界恐慌きょうこうを引き起こす原因トリガーとされ、評価が一気に地へ落ちた。

 そんな化物をたった2人の女と1機の黒い兵器の光だけで追い詰めたのだ。これをあっけないと感じる者、あるいは神など所詮しょせんまやかしだったと絶望するやからが居たとしても何ら不思議ではない。

 エルドラを最も信仰しんこうしていた者。エルドラをヒンドゥー教に於ける絶対神ヴィシュヌになぞられ、身も心もすべてをささげていたパルメラ・ジオ・アリスタが未だ生きている。

 彼女が絶望を力へ転化し、インド神話の神々より途方もないものを引き出せば、第二のエルドラに化ける可能性も多分に在り得る。

 但し仮にそうした処で非凡ひぼん魔法少女ファウナ人ならざる者レヴァーラによる手痛い洗礼反撃を受けるのは目に見えている。

 エルドラにせよ、パルメラに至っても余りに自分達をさらし過ぎた。

 ファウナを過小評価し過ぎていた。ファウナはパルメラとの初戦時初顔合わせ時限監視者を仕掛けていたのだ。それも彼等に取って心ゆるす身内というべき存在ジオの目を。

 しかし今地上では、エルドラ討伐に浮かれている場合ではない事態急変が勃発ぼっぱつしていた。

「──ファウナッ!」
「ファウナ様ッ!」

 操縦席コックピットはあくまで複座式定員2名Meteonellaメテオネラ。しかし兵士を輸送する為の別室が存在する。

 そこから血相けっそう変えて飛び出したのは、ファウナがこの世で熱い信頼を寄せる姉貴分二人。オルティスタとラディアンヌである。

 対エルドラ戦だけで終われば今回は出番なしと思っていた両者。だがたった独りとはいえ、途轍とてつもなくあやしい雰囲気をただよわせた新手が出現した。

 妖しい──。
 これがパズルのピースの様に当てまり過ぎる。あの姿を見た妹は、恐らく普段の力の半分とて出せやしないと長女は案ずる。もっとも自分とて正直怪しいものだ。

 ──似過ぎている、ファウナに! あれでは自分を相手にする様なものだ!

 そう同じ思いを抱いた姉貴分二人。気が動転してるであろう三女の代わりにこの2人自分達が飛び出し、何時にも増した鋭い視線で牽制けんせいする。

 背丈はこの少女が僅かに上か。勝気な瞳がファウナより鋭く見える。
 衣装の色こそ茶色が基調でファウナと違えど、森の女神と称した格好に重なるものがある。
 例えば軽装な割に首周りや脇下付近に硬質そうな素材をあしらっている辺りが該当する。一体何方どちらが合わせ込んできたのであろうか。

 決定的に違うのは茶色のベレー帽と背負った細身の剣だ。どことなく軍人の匂いがする。傭兵ようへい時代、軍と接した経験の在るオルティスタがそう嗅ぎ付けた結論づけた

「──『生物召喚アルボケーレ』」

 女豹めひょうの如き鋭い周りの視線を意にもかいせず、若い女が聞いたことない言葉を吐いた。
 確かに耳にした覚えこそない。けれどこれは間違いなく森の女神と同じたぐいの魔法だとそく気付き舌を巻くファウナの姉貴分二人。

 ベレー帽の女の下に突如とつじょ、紅色の魔法陣らしきものが広がりを見せる。紅色──まるでこの娘の血で描いた色だ。陣の中心に光が急激に集合すると、それはやがて人の形を成した。

「え、エルドラ!? それはエルドラの遺体ではないかッ!?」

 操縦席コックピットのハッチを開いたレヴァーラが光の正体集合体を断定する。それはまぎれもなく覚めることのない眠りへ堕ちたエルドラそのもので在った。

「──あ、生物召喚アルボケーレッ!?」

 時をうばわれたかの如く動けないでいたファウナであった。しかしハッチを強制的に開かれ周囲の肉声が耳に飛び込んできた。ほうけてばかりもいられないと考えを改める余裕が僅かに生まれた。

 生物召喚アルボケーレとはファウナが魔導書に書き記しつつも未だ行使こうししていない術。
 術者の血で描いた魔法陣を使い、生きた人間を手元に召喚しょうかんするのだ。しかしあの女が呼び出したのは、紛うまごうことなき死人である。

 レヴァーラとファウナの両人が反重力装置を使い、高い操縦席から地面へフワリと降りる。
 その顔ぶれに、より満足度を上げる謎深き女。『これで役者はそろったわ』とでも言いたげな顔つきである。

は私達が大事に使わせて頂くわ。──初めまして、この場は私がそう言うべきよね? それにしても流石に私の双子ね。実に可愛らしいわ」

 エルドラの死体を宙に浮かせて少しばかりすみに追いやる。ただの遺体に転じたエルドラを態々わざわざ接収せっしゅうする辺り、この女性が軍関係者であるのは最早確定した。

 さらに挑発的な態度足取りでファウナに詰め寄り、髪から肩へと人形をもてあそぶが如く至る所を撫で回すのだ。

「双子の姉ッ!? 貴女が私の?」

「そうよ見たまんまじゃなぁぁい。御姉様方も初めまして。やっぱりモデルみたいに美しいわ」

 ファウナの姉を名乗る女が互い双子同士逐一ちくいち指差ししながら比較をうながしてゆく。彼女の話は身勝手に続く。次はファウナの姉達をさも満足気に上から下まで視線でめた。

 それを聴いて歯軋はぎしりするオルティスタ。『俺はお前の姉貴じゃない!』そう叩きつけたい筈なのに何故か口を開けない。

 そもそも血縁ではない三姉妹だから発言自体が支離滅裂しりめつれつなのだが、それ以前にと斬り捨てられない奇妙きみょうさを感じている。

「──そしてアナタが……レヴァ、じゃない。マーダ様が乗り移った例の女レヴァーラって訳ね。皆さま、改めて初めまして。私が『ファウナ・デル・フォレスタ』よ」

 短いスカートのすそつかみ、脚を交差し深々と頭を下げた。そしてあろうことかレヴァーラの隣でうつろな目で何も言えない己が妹を偽物と断定したのだ。

「な、何馬鹿な事をッ! この痴れしれ者ッ! ファウナ・デル・フォレスタは我の隣に居るこの者しからんッ!」

 心此処に在らずなファウナの腕を強引に引き寄せするレヴァーラ。自分の発言が正しい、議論する余地など皆無。それにも拘わらず翠眼すいがんが泳ぎ、血の気の失せる気分におちいる。

「あら? だってそのより私の方が総てに於いて優秀なのよ。──あっ、そうそう。マーダ様レヴァーラは大層を好むらしいじゃない? 私の方が妹より断然が良くってよ」

 あくまでマーダ様と言い張るファウナ姉。面白がりな顔がさらに深み妖艶を帯びる。不意にレヴァーラとひたいかするほど顔寄せ、隊服らしい衣装の胸辺りからジッパーを大胆に降ろす。

 黒い下着に隠れてこそいるが、を大いに見せ付けマーダ様への色仕掛け精神攻撃を狙う。

「──クッ!?」

 自らのふしだらな心をなぐりたいと思うマーダ様レヴァーラ。確かに言われて見れば妹の方ファウナは胸元が薄手の生地で膨らみ愛しの胸元おおっている。胸の谷間を通す飾り付けでソレを強調していた。

 それに比べ姉の方は茶色の硬めなレザー生地。早い話が強調せずに押さえ込んでいる次第。それを開き切った時の破壊力たるや性別も性癖せいへきさえも乗り越え、釘付けにすると思わずにはいられない。

 身長・胸元・腰つき・肌の色という見た目は元より、初対面で在りながらズケズケと人の隙間に押し入り、しかもそれが嫌悪嫌味を感じさせない不思議理不尽な魅力。

「──き、貴様は自分を売り捌きトレードしに此処へ来たのか!?」

 ふしだら顔をそむけつつもどうにかひねり出した痛々しいの台詞。

「いいえ、元々はただの偵察ていさつが目的よ。だ・け・ど……皆の驚く顔を見てたら何だか面白くなってきちゃった」

 でアッサリ自分が軍属であるのをひけらかすファウナ姉。加えて、さも自分が本物で在るかの如く振舞ったのさえ一笑にした。

「私の職場つまんない訳ぇ。おじいちゃん総司令と頭固くていじ甲斐がいのない連中軍人しか居ないのよ。おまけに真っ暗でジメジメした地下に潜り切りだからさぁ」

 超が付く機密きみつをベラベラと喋り散らす辺り、ファウナ妹さえしのぐ天然も同居している。

 ファウナ姉の身勝手が留まる処をまるで知らない。顔見るのをけてたレヴァーラへサッと近寄り、ワザとかがんで下から目線、さも物欲しあざとい顔でのぞき込む。

「だ・か・ら・ね? そっちの方が面白そうって私思えちゃった。────駄目、かな?」

「────ッ!?」

 やたら溜めてからの誘い文句承認依頼。『駄目かな?』が左右に反響し大いにマーダ様レヴァーラの心をき乱す。

 娘の様に可愛らしい少女に愛を抱き始めたのと同時に、自分の本質男子が本能の思うがままに求める可愛い異性女性に対する気分本音

 両方のを器用に撃ち抜かれ冷静な判断を失い掛けてるマーダ様レヴァーラ兎に角とにかくこの娘、ファウナ妹との初対面より常軌じょうきいっしている。本物じゃないと知りつつも判断を見誤りそうだ。

 ズサッ!

「──お待ちなさい! さっきから私の方が優れてるだの、気持ち良いだの随分ずいぶんな言い草! 私のファウナ様の前でこんな横暴おうぼう。このラディアンヌ・マゼダリッサ、決してゆるしません!」

 今にも堕ち掛けそうなレヴァーラを、無礼を承知でグイッ押しのけ、間に立ちはだかるラディアンヌ・マゼダリッサ。はすに構えた怒りのにらみ。

 恋愛対象はあくまで異性男性。なれどファウナ様を想う気持ちとて噓偽うそいつわり無し。こんな矛盾むじゅんはらんだ女武術家があからさまな嫌悪敵意を向けた。
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