【完結】🧚‍♀️カクヨムコン10中間選考突破作品・マーダ『森の護り人・ファウナ』-ローダ第零章-

🗡🐺狼駄(ろうだ)

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第10部 壊れゆく過去・辿るべき未来

第104話 重なり合う紅の爆炎(姉妹)

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 ──っにしても、まさか貴女が私を此処まで追い詰めるなんてかなり想定外だわ。

 ファウナ・デル・フォレスタ双子の姉を名乗る女性乙女。目前で未だ余裕を見せる女武術家ラディアンヌに意外な苦戦をいられていた。

 恐らく可愛らしい出来損ないの妹は心がボロ雑巾ぞうきんと化し、戦う処ではなくなると決め込んでいた。これは予想的中の最中である。

 代わりに名乗りを挙げるのは乱れた金髪の女オルティスタか、はまたま踊り子様レヴァーラ
 踊り子様は閃光チートを使い切ったばかり。ならばこの2人がそろって怒りの矛先ほこさきを向けると思い込んでいた。

 この女武術家は切り込み隊長と見せかけて美味しい処目立つ戦いぶりを他の者へ繋げる役割サポーター。実際これまでの戦いぶりが示していた。これは教科書シミュレーターにない状況なのだ。

 ──それだったら楽勝の想定計算だったんだけど。ま、これはこれで楽しいからいっか。

 ペロッ。

 少し舌舐したなめずりしたファウナ姉。それを戦闘再開の合図にしたかの如く、またもラディアンヌの方からファウナ姉へ追いすがる。

 最低でも人の脚で10歩は必要──その位の距離を縮地しゅくちした様な異常なる神速。やはりこの女武術家ラディアンヌ動き迅速自分軍部蓄積データに存在しない。しかも一瞬背中すら見せる。

 ──回し蹴り? あるいはさらにひねりを加えた裏拳? どちらにせよ随分しっかり舐められた試されてるものね!

 ガシィッン!!

 およそ人と人がぶつかり合ったとは到底思えぬ異常音。ファウナ姉の右腕が人間の限界値まで曲がり持ち上がっている。それが白い輝きを帯びていた。

 硬質らしきえりで守られている首を敢えて狙いましたかかとから入るラディアンヌの回し蹴りネリチャギ。これをファウナ姉が完璧に片腕でブロックしたのだ。

「──あ、アレは『白き月の護りフェルメザ』!」

 ようやく口を開いたファウナ妹がこの様子に驚いている。

 出した脚を戻すラディ。すんでの処で見事な守りガードを決めたファウナ姉。その何れもが不敵ふてきわらい合う。

「──成程。やはりそうでしたか。姉妹揃って腕は薄手の布生地ぬのきじ。さらに御二人共、ひじの守りに成り得ない無駄な飾り付けが存在する──仕込みの防御だったのですね」

 白き月の護りフェルメザ──森の闇を優しく照らし、迷える者を導く満月から切欠ヒントを得た防御魔法。

 エルドラの星の屑を無効化する絶望の守り手程の優れものではないにせよ、衣服等に予め付与エンチャントして何時いつでも引き出せるのが強み特徴

 ファウナ姉妹いずれもこれを常時発動出来るように仕込んである。そでの下に隠した暗器が如くだ。しかも両腕同時に発現はつげん可能。

 これを非凡ひぼん女武術家ラディアンヌは見抜いていたという次第だ。

「私にと使わせるとか貴女やってくれるじゃない。仕返しに私も貴女の神速魔術の種を明かしてあげるわ。──貴女、わね?」

 たぐいまれなる武術と他にるいを見ない呼吸術の応用。これが強みのラディアンヌに気でも違ったのではないかと思えるファウナ姉の指摘。

「鼻呼吸、口呼吸。このいずれもしていないという意味よ。貴女、皮膚細胞から直接酸素を供給きょうきゅう出来るすべがあるのね!」

「──ッ!?」
「お、俺すら知らんぞッ!?」

 外連味けれんみを載せた白色にきらめく指先で相手を差すファウナ姉。突拍子とっぴょうしもない発言は続く。
 争いの最中という緊張時にもかかわらずわずかにスカートをめくり、肌を晒す仕草肌呼吸のアピールさえもおまけに付ける。

 発言の内容なのか、はたまた中身スカートの両方か? 顔を引きらせ驚くレヴァーラ。長年の付き合いであるオルティスタも見知らぬ話だ。

 呼吸──。
 いけとし生ける者に取ってなくてはならない生命維持活動。この酸素を吸い、肺をて血液循環じゅんかんによる全身の細胞への供給。加えて二酸化炭素を受け取り、外部へ吐き出すまでの一連の流れ循環器

 争いという過酷動きに於いてこれが邪魔になると結論付けたマゼダリッサ家の15代目当主。無論、通常な思考とは世辞せじにも言い難い。
 例えばアスリートであるなら心肺しんぱい機能を高めるトレーニングに精を出すと共に、いざという時、息を少しでも長く止める様、工夫をらすものだ。

「──き、聞いたことがあるわ。21世紀初め、腸で呼吸を試みる動物実験が成功し注目を浴びたとか……。も、勿論医学分野の話だけどね」

 ファウナ妹の驚きが他の2人に比べ少なかったのはこれを知っていたからだ。但しそれを戦闘に転用した例は流石に知識がないし、想像のななめ上的な事柄ことがらゆえ、考えに至らなかった。

「ほぅ……その答えに辿たどり着かれたのは貴女が最初でございます。流石伊達だてにファウナ様のを自称されるだけのこと御在おありに為られる」

 遂に力の種明かしをされたというのに奇妙きみょうな喜びがき立ち、煌めく翠眼エメラルドグリーンを細めてしまうラディアンヌ。むしろこれからが本気とばかりに両掌を広げ、如何にも東洋の武術家らしい構えを取る。

貴女ラディ、本当に凄いわ。実は貴女が最強じゃなくて? ──でも良いの? これでこの秘密データ此方軍部に知れてよ」

 一方、ファウナ姉も似た様な構えを見せる。それも両腕を白き月の護りフェルメザで輝かせた状態を維持しているのだ。そのまま攻撃に応用がくらしい。

「さて……それは如何でしょう。この御業みわざ一子相伝いっしそうでん。知った処で果たしてどうにか出来るものでしょうか?」

 そうした余裕を見せ切った直後──。

 今度はラディアンヌの方が総毛立そうけだ羽目はめおちいる。速度も技すらも自分よりおとるファウナ姉の方から飛び掛かって来たのだ。
 しかもラディアンヌのお株を奪う様な両手によるフェイントを交えた急所狙い。先程見せ付けられた防御が転じた惨たらフェルメザでしい鈍器強化した腕で襲い来る。

 ──クッ! や、やってくれます!

 後の先後攻有利が無理と知るや、遅かろうが自分から仕掛けて防御を強いる高等技術テクニカルな動き。確かにこの姉、ただの魔法少女妹仕込みの真似事では断じてないと思い知る女武術家ラディアンヌ

 何処かでたくみに避ければ此方からの攻勢に戻せるのだが、チラつかせるフェイントが兎に角とにかくらしい。まるで自分を見ている様で気持ち悪い。

『──遊びはデータ集めはそこまでにしたまえ』

 不意に届いた初老男性の声。ファウナ姉が「チィッ」と舌打ち、後方へ下がる。発動済の重力解放ヴァレディステラの残りカスであろうか。

『君の今日の仕事は何だね? 塵収集エルドラ回収が最優先事項だよ』

「判ってるわよ、煩いうっさいわね」

 彼女の何処に仕込んでいるのかまるで判らぬ無線の声。抑揚よくようがまるで感じられない。182cmも在るエルドラの遺体を軽くかついで上空へ逃げてゆく。

「中々思ったより楽しめたわ。やっぱりアンタ達とは敵同士の方が面白そうね」

 右肩にエルドラを載せたままの姿勢から空いた左で何やら印を結んでいる様に見受けられる。これを真祖が見逃さなかった。「いけないッ!」と慌てて自分も同じものをすかさず結ぶ。

「「──『ロッソの爆炎・フィアンマ』!!」」

 とてもお手軽な顔つきで森の女神最上クラスの爆炎魔法を上から仕掛ける姉と、それを下から迎え撃つ痛々しき妹の姿。

 互いの手から生じた火の玉が見る間に膨れ上がり、真正面から激突した。

 スガガーーンッ!!

「フフッ……またね」
「クッ!?」

 投げキッスでお別れする姉と顔をゆがめて応じる妹。魔法自体は相殺そうさい出来た。されど精神的には姉の勝利なのは誰の目にも明らかだ。

「あ、いっけない。忘れる処だったわ」

 もう終いさよならかと思った矢先だった。

『私達二人の△■のからだを玩具にして、しかも妹ととかアンタ。ハッキリ言って凄く不快よ』

「──ッ!?」

 レヴァーラがただ独りだけ狼狽ろうばいした。彼女だけに届いた文句。ただ肝心かんじんな何かが聞き取れなかった。

 ドサッ。

「──ファウナッ!?」

 ファウナ姉が此処を去った置き土産を残したとほぼ同時、ファウナ妹が気を失い戦闘服バトルスーツ姿のレヴァーラの胸元へすがるのであった。
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