ブレイブ&マジック 〜中学生勇者ともふもふ獅子魔王の騒動記〜

神所いぶき

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第2章

9.デパートに行こう

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 §

 モンスター退治で疲れたせいか、ぐっすり眠ることができた。幸い、土曜日の朝は雲一つない快晴。絶好の買い物日和だった。
 昨夜、ナハトとヴォルフと一緒に買い出しに行くことをゼーゲンさんに伝えたら、デパートまで車で送ってもらえることになった。ちなみに魔王は留守番だ。理由は一つ。ゼーゲンさんの車はあまり大きくないから、体格が良い魔王が乗ると狭くなるからだ。
 落ち込んだ表情で「我もでぱーとに行きたい……」と呟く魔王は可哀想だったが仕方ない。オレたちをゲートに送った時のように魔法で転移できれば良かったんだが。でも、あの転移の魔法は数日間の前準備をしないと発動できない、物凄く手間がかかる魔法だと昨日言っていたな。いつでもどこでも使えたら便利なんだけど、そう上手くはいかないか。
 とりあえず、昨日貰ったお守りをポケットに入れて、魔王の代わりにデパートに連れていこう。だから、許してくれ魔王。
「ちゃんとシートベルトは付けたッスか? さあ、デパートにレッツゴーッスよ!」
 鼻歌を歌いながら、ゼーゲンさんが車のエンジンをかける。
 ゼーゲンさんはヴォルフより五歳年上。つまり、十九歳だから車を運転できる年齢なのだ。
 だけど、どんなことでも魔法で解決したがる魔族が多い中、人間の科学の産物である車を運転するために教習所に通う魔族は殆どいないようだ。
 そもそも、魔族がこの世界に現れてからまだ半年。人間の世界で生きていくために覚えなくちゃいけないことが沢山あるだろうから、車の免許を取る余裕がある魔族はそんなに居ないだろう。
「いやー、まさかクオンさんとヴォルくんが仲良しになるとは思わなかったッスよ。兄ちゃん嬉しいッス」
 青い車を走らせながら、ゼーゲンさんがぽつりと呟く。
「仲良しじゃねえよ! これはただ、借りを返すためにだな……」
「えっ。オレ、お前と友達になったつもりだったんだけど違ったのか」
「いや、違わなくもねえけど……」
「素直になればいいのに。ヴォルフくんは照れ屋だねえ」
 助手席に座るヴォルフ以外の笑い声が、車の中に響いた。昨日の朝、ヴォルフといがみ合っていたのが嘘のようだ。
「そういえば、みんなは何を買うつもりなんスか?」
「文化祭で必要な物を買うんです。食材は当日に配達されるから良いとして、必要なのは焼きそばを入れるためのフードパックや割り箸、あと飲み物も提供するので紙コップもいりますね」
 手書きのリストを見ながら、ナハトがすらすらと購入予定の物品を述べる。それを聞いたゼーゲンさんがふむふむと頷く。
「そういや、オイラは食べたことないッスね。焼きそば。この世界だとメジャーな料理みたいッスけど」
「オレ様もねえな」
「実は私もないね」
 えっ。三人とも、焼きそばを食べたことが無いだって?
「嘘だろ。超メジャー料理だぞ」
「クラスのみんなは出し物を考えるのがめんどくさいから勇者くんの提案に賛成した感じだったからね。多分実際に食べたことがある子は少ないと思うよ」
 この場で焼きそばを食べたことがあるのがオレ一人という事実にびっくりした。よくカルチャーショックって言葉を聞くけど、こういうことを差すのだろうか。
「それじゃあ、絶対に焼きそばを好きになって貰わないとな。絶対美味しいから、期待してて。言い出しっぺのオレが気合い入れて作るから」
「楽しみにしてるッス! 美味しく食べたいから、オイラ前日から断食するッス!」
「いや、それは身体に悪いからやめとけよ兄貴……」
 期待してくれるのは嬉しいけど、断食はオレもやめてほしいな!

 §

「着いたッスねー! ガオンデパート!」
 オレの家から車で三十分程走った場所にある、創業五十年の老舗の大型ショッピングモール。それが『ガオンデパート』だ。久栄市の中心地にあり、休日はいつも買い物客で賑わっている。
「それじゃ、まずは買い出しを終わらせようか。その後、自由行動にする? 折角、デパートに来たんだしね」
 ナハトの提案に、皆が頷く。
 そういや、休日だというのにナハトはセーラー服を着ている。そもそもトラオム学園は私服登校で大丈夫な学校なのに、普段から彼女はセーラー服を着ている。よっぽど気に入ってるのかな。まあ、似合ってるしな。
「異議なしッス! パパっと必要な物を買って、あとは遊ぶッスよー!」
 ゼーゲンさんの尻尾が高速で回転している。この兄弟は、尻尾の動きで感情を読み取りやすいなあ。
「それじゃあ、まずは百均に行くのがいいかもな」
「借金ッスか!? その年で借金するのはオススメしないッスよ……」
「借金じゃないよ百均だよ! 百円ショップ! 魔王みたいなボケはやめてゼーゲンさん!」
「いやあ、魔王様が留守番で寂しいかなと思ってちょっとマネしてみたッス。言いそうっしょ?」
 うん、この場に魔王が居たら間違いなく言ってたな。
「バカやってねえで早く行くぞ! オレ様の貴重な休日を無駄に費やしたくねえからな!」
 やや早足でデパートの入り口に向かうヴォルフにオレたちも続く。
 目指すは一階の入り口付近にある大きな百円ショップだ。
「相変わらず人が多いな。ここは」
 思わずオレはそう呟く。父さんと母さんが居た頃は、週末によく来ていたなあ。
 昔も今も、買い物客で賑わっている。昔と違うのは、その買い物客の中にちらほらと魔族が混ざっていることくらいだ。
「あったあった。割り箸に、フードパックにー」
 百円ショップに入るや否や、ナハトは目当てのものをカゴの中に入れ始めた。ちなみにカゴを持っているのはヴォルフだ。文化祭で使う予定の道具が、カゴの中で山積みになっていく。
「おい、ちょっと入れ過ぎじゃねえか?」
「ヴォルフくん。この世界には大は小を兼ねるって言葉があるらしいよ。つまり、少ないより多い方がいいの!」
「何だその理屈! おいこれ以上入れるんじゃねえ! 腕がもげる!」
 まあ足りなくなるよりはちょっと多めの方が良いよな。つまり、ナハトの言い分は正しい。うん、そういうことにしておこう。頑張れ、ヴォルフ。

 §

「ひ、ひでえ目にあった……」
 百均で必要な物を買った後、オレたちは一度車に戻り、トランクに荷物を積んだ。
 買い物袋の一つをオレも持ったが、とても重くて筋トレしてる気分になった。
「ナハトさん。必要な物は全部買えたッスか?」
「バッチリです!ゼーゲンさんも重い荷物を持ってくれてありがとうございます」
「あれぐらい軽いもんッス。そッスよね? ヴォルくん」
「いや、めっちゃ重たかったぞ」
 まあ、ヴォルフは特に重い荷物を持たされていたからな。多分、明日には筋肉痛になっているだろうな。恐らくは、オレも。
「えー。ヴォルフくんだらしなーい」
「これはいかんッスね。帰ったら兄ちゃんと一緒に筋トレッス!」
「暑苦しいからやめろバカ兄貴!」
 わちゃわちゃと騒ぐ三人を眺めながら、オレは自販機で買ったばかりのコーラをちびちびと飲んだ。
 うん。青空の下で飲むコーラはうまいな。スカッとする。
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