ブレイブ&マジック 〜中学生勇者ともふもふ獅子魔王の騒動記〜

神所いぶき

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第2章

10.それぞれの事情

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 §

「さて、自由行動にするッスか。今が十一時前だから……。よし、十二時半にさっきの入口で待ち合わせるのはどうッスか?」
 ゼーゲンさんの提案に、みんなが頷く。一時間半もあればある程度じっくり見て回ることができるだろう。
「んじゃ、オレ様は本屋にでも行くか」
「ヴォルフくんが本屋って、何か意外だね」
「遠回しにバカにしてねえか?」
「気のせいだよ。さ、私は新しいカバンが欲しいから探しにいこっと」
 ヴォルフは本屋、ナハトはカバン屋に向かうようだ。オレは、どうしようかなあ。
 ……コーラを飲みながら、考えるか。
「オレはコーラを飲み終わってから適当に見て回るよ。また後でな」
「あ、ちょっと待って」
 そう言ってナハトは、大きなカバンから紙束を取り出してオレとヴォルフに渡してきた。
「何これ」
「文化祭のチラシだよ。折角、人も魔族も集まる場所に来たんだから宣伝しなきゃ!」
 まさかナハトが文化祭のチラシを持って来ていたとは。
「ちなみに、デパートの偉い人には電話して、チラシを配ることの許可を貰ってるから二人ともバンバン配ってね」
 準備が良すぎる。そしてしたたかだ。
「めんどくせえ……」
「文句を言わないの。さあ、行くよヴォルフくん! じゃ、クオンくんもまた後で!」
 ナハトとヴォルフを見送り、この場には片手に紙束、もう片手にコーラの缶を持つオレとゼーゲンさんだけが残った。

「……ゼーゲンさんは行かないのか?」
「ちょっとクオンさんとお話でもしようかなと思って残ったッス」
「お話?」
 ちらりとゼーゲンさんの顔を見てみると、真剣な表情をしていた。いつも笑顔の印象が強いゼーゲンさんにしては珍しい。
「まず、礼を言わせてもらうッス。ヴォルくんと仲良くなってくれてありがとうッス」
「ちょ、何で頭を下げるんだよ! お礼なんていらないよ!」
 ゼーゲンさんが、いきなりぺこりと頭を下げたものだからびっくりしてしまった。
「ずっとクオンさんに辛く当たってたっしょ? それでも仲良くなってくれて、本当に感謝ッス」
「何度か腹が立つことはあったけど、今はもう何とも思ってないよ。でも、何であんなにオレに突っ掛かってきたのかは気になるかな」
 理由を知って、もしオレに非があったなら改めたいな。
「――クオンさんは、何も悪くないッスよ。強いて理由を言うなら、この世界に来たばかりの頃に人間たちに怖がられたからッスね」
 ゼーゲンさんの言葉に、オレは何も言うことができなかった。
 初めて魔王を見た時、オレは怖いと思ったからだ。食べられるかもしれないとも思った。
「変転の日から間もない頃は、オイラたちの姿を見て、悲鳴をあげて逃げる人間が沢山いたッス。石を投げる人間も居たッス。人間にとっては今まで見たことない生き物が突然現れた訳だから、怖いのは当たり前ッスよね。でも、周りの人間たちに拒絶される内にヴォルくんは人間に対して不信感を抱いていったッス」
 そう言って、ゼーゲンさんは寂しげに笑った。
「……なあ、ゼーゲンさん。どうして魔族たちはこの世界に来たんだ? 魔王は侵略のためって言ってるけど、本当なのか?」
「うーん。侵略ってのも間違ってないッスね。こうして、オイラたちは人間界に居座ってるわけですしね。でも、侵略するために来たというより、逃げ場所を求めて来たって方が正しいかもしれないッス」
「逃げ場所?」
 魔族たちは何かから逃げてきたってことか? 一体何から?
「魔界は、二つの勢力に分かれて争ってたンスよ。一つは魔王様の意見を尊重する派閥。魔界では魔王派って呼ばれてたッス。人間界に逃げてきた魔族は全員、この魔王派ッス」
「もう一つは?」
「魔王様の意見と対立する反魔王派ッス。オイラたちはその反魔王派から逃れるためにこの世界にやってきたワケッス」
 魔王派と反魔王派か。何やら、魔界はややこしそうなことになってたようだ。
「争いの原因は?」
「簡単に言うと、今の魔王様が魔王としては変わり者すぎるからッス」
「え?」
 今の魔王が、魔王としては変わり者だから争いが起きたって? 確かに魔王はちょっと変。いや、かなり変な奴ではある。けど、それで争いが起きたと言われてもピンとこないな。
「もっと詳しく知りたいって顔をしてるッスね?」
「うん。魔王は自分のことをあまり話したがらないから気になる」
「仕方ないッスねー。オイラが今から教えることは、魔界の住人以外に教えるのはダメなんスけど、クオンさんには特別に教えるッス。魔王様には内緒ッスよ?」
「分かった。約束するよ」
「よーし。指切りげんまんッス。人間の世界では、約束ごとをする時はこうするンすよね?」
 そう言って、ゼーゲンさんは右手の小指をオレに突き出してきた。どこで覚えてきたんだろう。
 ちょっと恥ずかしいけど、これでゼーゲンさんが納得するならやろう。とりあえず、コーラの缶を一旦地面に置く。そして、オレも小指を出し、ゼーゲンさんの小指と絡めた。
「ゆーびきーりげんまん嘘ついたら……。ん? 何を飲ませば良かったッス?」
「針千本だよ」
「えっ。普通に死なないッスかそれ?」
「約束を破らなければいいじゃん」
「それもそうッスね」
 とても間抜けな指切りになってしまった。まあいいか。とにかく早く話の続きを聞きたい。
「それじゃ、クオンさんを信じて続きを話すッス」
 一つ咳払いをして、ゼーゲンさんは話し始める。
「実は魔界には他の世界を観測する、異世界観測所ってのがあるッス。つまり、魔界や人間界以外にも世界は沢山あるってことッス」
「世界っていくつもあるのか……」
「はい。魔界では大体半年に一つくらいのペースで新しい世界を発見してたッス。凄いっしょ?」
「凄いけど、スケールが大きすぎてよくわからない」
 他の世界を観測する、異世界観測所か。よくわからないけど、新しい世界を次から次に発見できるってのは面白そうだ。
「わからないところは適当に流していいッスよ。本題に入るッス。何故今の魔王様が変わり者扱いされているのか。それはッスね……」
「それは?」
「異世界観測所で発見された異世界に攻め込み、力で支配するのが歴代の魔王の役割だったからッス」
 異世界に攻め込み、力で支配するだって。
「……歴代の魔王は、そんな残酷なことをしていたのか」
「ええ。それが当たり前だったッス。異世界を力で奪い取り、魔族の住処を増やす。そのために魔王は存在してたッス」
「だとすれば、今の魔王は相当な変わり者になるな」
 魔族を受け入れてもらう代わりに、魔法の技術を人間に提供し、暮らしを豊かにする。今の魔王が選んだ方法はそれだ。この世界を、一方的に武力で制圧したりはしていない。口ではオレを倒して世界を支配するなんて言っているけど、もし本当に武力で世界を支配するつもりだったら、今、オレはこの世に居ないだろう。
「ええ。だから、歴代の魔王の考え方に賛同する魔族は、今の魔王様をフヌケた奴だと非難し、『シュトライト』という名の反魔王組織を作ったッス」
「シュトライト……。それが反魔王派組織の名前か。魔族も色々と大変なんだな」
「シュトライトの奴らもただ不満を言うだけならいいんスけどね。魔王様や、魔王様の賛同者の命を狙う過激な輩もいるから大変ッス」
「なるほど。それでゼーゲンさんたちはこの世界に逃げてきたのか」
「そういうことッス」
 ゼーゲンさんが頭をぽりぽり掻きながら、ため息を吐く。
 ――――反魔王組織シュトライト、か。魔王や、魔王の意見に賛同する魔族の命を狙うやつもいるだなんて、とても過激な組織のようだ。意見が合わないからって、命を狙うようなことまでするなんて、オレは気に入らないな。
「魔族の厄介ごとばかり持ち込んでしまって、この世界の人間には申し訳ないッス。嫌われても仕方ないと思うッス。ごめんなさい、クオンさん」
 再び、ゼーゲンさんがオレに深々と頭を下げてきた。
「オレに謝らないでよ。変転の日から世界は変わって、まだ戸惑ってる人や魔族を嫌ってる人も居るとは思うよ。だけど……」
 ナハトにヴォルフにテルン先生。それからゼーゲンさんと魔王。オレが出会った魔族は、みんな性格も見た目もそれぞれ違う。でもそれは人間も同じだ。性格も見た目も、そして、考え方もみんなそれぞれ違う。だからそれは、大した問題じゃない気がする。
 魔族が厄介ごとを持ち込んだのは間違いないかもしれない。だけど、それがなければ魔族とは出会えなかった。そしたら、こんな賑やかで楽しい生活は、送れてなかったと思う。
「オレは、魔族のことをもっと知りたい。そして、仲良くなれたら嬉しいと思っているよ」
「クオンさん……」
 多分、人間だろうと、魔族だろうと、まずは相手を知ることがきっと大事なんだ。相手のことをよく知らない状態で存在を否定するのは、良くないことだと思う。
 ……そういえば、さっきナハトから文化祭のチラシを受け取っていたな。これは人間が魔族を、魔族が人間を知る良いキッカケになるかもしれない。ふと、オレはそう思った。
 ほぼ魔族の生徒しかいないトラオム学園の文化祭に人間が来て、一緒に楽しむことができたらきっと楽しいだろうな。
「……それじゃ、聞きたいことはある程度聞けたし、オレはチラシを配りに行ってくるよ」
「はい。長々とオイラの話を聞いてくれて、ありがとうございましたッス!」
「こっちこそ。聞かせてくれてありがとう」
 地面に置いていたコーラの缶を手に取り、一気に飲む。強い炭酸がオレの喉を刺激した。
 ……よし、ゼーゲンさんの話を聞いたら気合が入ったぞ。頑張って、文化祭のチラシを配ろう!
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