ブレイブ&マジック 〜中学生勇者ともふもふ獅子魔王の騒動記〜

神所いぶき

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第3章

17.集う戦士たち

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「馬鹿ナ! まだゲートは閉じていたはズ! 何故、貴様がここにいル!」
「招待された時間に来なくて悪かったな。だが、我はせっかちなのだ。待ちきれずに、閉じたゲートを無理やりこじ開けて来てしまった。ふはははは!」
 閉じたゲートを無理やりこじ開ける。魔王は、そんなこともできるのか。
「まあ、ゲートの中に入ったはいいが、広大すぎて勇者たちを探すのに手間取ったがな。ゲートの中は魔素があちこちに充満してて、勇者を感知する能力も鈍るから困るのだ」
「なら、どうしてオレたちの居場所が分かったんだ?」
「勇者よ。我が昨日与えた魔素結晶を爆発させただろう? その爆発により生じた魔素を察知してここまで来たのだ。感知能力が鈍っている我でも、魔素結晶が突如爆発した気配は探れるというわけだ」
 魔素結晶を爆発させた時に生じた魔素を察知してここに魔王が来た。
 ――――ということは、オレたちがしたことは無駄では無かったんだ!
「さて、ティガよ。久しぶりだな。魔界から人間界に繋がる道は我が塞いだはずだが、お前がここにいるということは抜け道でも作ったのか?」
「ちッ! できそこないの魔王に教える義理は無イ! 予定は狂ったが、勇者もろとも始末してくれル!」
 そう言って、ティガは右手を前に突き出して魔法の詠唱を始めた。
「顕現せよ嵐の牢獄! 仇なす者を捕らえ、風の刃で殲滅せヨ! シュトゥルム・ゲフェングニス!」
 ごう、という音がしたかと思えば、次の瞬間にオレたちは嵐の壁に囲まれていた! そして、その嵐の壁が徐々にオレたちに迫ってくる!
 これは恐らく、風属性の上級魔法だ!
 まさか、ティガがこんな強力な魔法を使えたなんて!
「案ずるな勇者よ。そしてそこの少年よ」
「いや、案ずるなって言われてもどうすりゃいいんだよ!」
「そうですよ! このままだと嵐に巻き込まれてズタズタになりますよ!」
「大丈夫だ。我に近づけ」
 魔王に近づいたとして、何が変わるのだろうか。疑問に思ったが、今は魔王を信じるしかない! オレとユウくんは慌てて魔王の元に駆け寄った!
「時に勇者と少年よ。空を飛んだことはあるか?」
 頭上を見上げながら、魔王はそう問いかけてきた。
「は? 急に何を言い出すんだ」
 釣られて、オレも上を見る。そこにはどんよりとした曇り空が見えるだけだ。今は空をのんびりと見上げてる場合じゃない。
「飛行機になら乗ったことはありますけど……」
「ふむ。ヒコーキとやらは知らんが、空を飛んだことがあるのなら大丈夫だな」
 何が大丈夫なのかはよく分からないけど、嫌な予感がする。
「纏うは風。望むは飛翔。フリーゲン!」
 柔らかな風が身体を撫でた。――と思った次の瞬間、物凄い勢いでオレたちの身体は宙に浮いた!
「うおおおおっ!?」
「うわあっ!? と、飛んでますううぅ!!」
 これじゃまるでオレたちは打ち上げられたロケットだ! 遊園地にある絶叫マシンより怖いぞこれ!
「どうだ! 空を飛ぶ気分は! 気持ちいいだろう!」
「いやいやいや! 怖いよこれ!!」
 でも、空を飛んだことで迫りくる嵐の壁からは逃げ出すことができた! 嵐の壁に囲まれた時は逃げ場がないと思ったけど、嵐の壁が無い上空に逃げる手段があったなんて!
「むう。勇者は怖がりだな。少年はどうだ?」
「僕も怖いです! でも、ちょっと楽しいです!」
「そうか。少年は話がわかるな」
「おい魔王! のんきに話してる場合か! ティガの魔法から抜け出せたのはいいけど着地はどうするんだよ!」
 魔法の効果が切れたのか、オレたちは地面に向かって急降下し始めていた! このままだと、地面に激突して大怪我じゃすまない!

「ヴォルくん! 今ッス!」
「おう! 水よ留まれ! ヴァッサーフロート!」

 地面に激突する寸前で、魔法で生成された水のクッションがオレたちの身体を受け止めてくれた! そのおかげで怪我をせずに済んだ!

「ヴォルフ! ゼーゲンさんも!」
「へへっ。お待たせしたッスね!」
「助けに来たぜ、クオン! あと……」
「あっ。海江田 ユウです。よろしくお願いしますオオカミさん」
「オレ様はオオカミさんなんて名前じゃねえ! ヴォルフだ!」
 そう叫びながら、ヴォルフは指をパチンと鳴らした。その瞬間、水のクッションがパチンと弾けてオレたちは水びたしになった!
「おいこらヴォルフ! ずぶ濡れになったぞ!」
「うう……。ぐっしょりです」
「てめーらが泥まみれだったから洗ってやったんだ! 感謝しやがれ!」
「むう。我は泥にまみれてなかったのだが」
「こら、ヴォルくん! 申し訳ないッス!」
 巻き添えでずぶ濡れになった魔王が不満の声をあげる。魔王に視線を向けて、ついオレは笑いそうになってしまった。何故なら、水に濡れた魔王は毛皮がペソっとしていつもより貧相な見た目になっていたからだ。だが、今は笑っている場合じゃない。
「とにかく乾かす! ヒッツェヴェルメ!」
 オレは熱波を放つ魔法、ヒッツェヴェルメを無詠唱で弱めに発動し、濡れた身体を乾かした。勿論、乾かしたのは魔王とユウくんもだ。
「貴様ラ! 我輩のゲートに勝手に入るなど、万死に値すル! 風ヨ!集いて刃と化セ! メッサーヴィント!」
 怒りに狂ったティガは、オレたちに向けて風の刃を飛ばす魔法、メッサーヴィントを発動させた。
「させないよ! 風よ! 集いて刃と化せ! メッサーヴィント!」
 どこからか現れたナハトが、ティガが放ったのと同じ魔法を発動させた。
 ――――風の刃同士が勢いよくぶつかり合い、ぶわっと音を立て、消滅した!
「ナハトも来てたのか!」
「勿論だよ! 友達を見捨てるのは私の流儀に反するからね!」
 こんな状況でもオレたちに向かって明るくウインクするナハトが頼もしい。
「りゅーぎって何だ? 食えんのか?」
「うむ。我は知っている。りゅーぎとはアレだ。パリッとしてみずみずしい食べ物のことだな」
「それはキュウリッスね」
「もう! キュウリじゃなくて流儀だよ! 分かりにくいなら生き様と言ってもいいよ!」
 ヴォルフと魔王がとぼけたことを言ったから、一気に緩い空気になってしまった。ダメだ。気を引き締めよう。
「とことん腹が立つ奴らダ……!」
「ここまでだティガ。我を裏切り、シュトライトに属したことには目を瞑っていた。だが、我らが友である人間たちを傷つけたことは許すわけにはいかない」
「貴様に許してもらおうなどとは思わン! 雑魚がいくら群れたところで、我輩は負けン!」
 そう言って、ティガは胸元にある黒い宝石のペンダントを鷲掴みにし、天に掲げた。その直後、黒い宝石からもやもやした黒い霧のようなものがあふれ出す。そして、そのあふれ出た黒い霧のようなものがティガの身体をすっぽりと包み込んだ。
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