ブレイブ&マジック 〜中学生勇者ともふもふ獅子魔王の騒動記〜

神所いぶき

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第3章

18.作戦

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「ふむ。なるほどな」
 魔王がアゴのたてがみに手を当てて、頷く。
「何を一人で納得してるんだよ魔王! 何が起きているのか分かるのなら説明してくれ!」
「うむ。簡単に説明するとだな、今、あの黒い宝石からあふれ出しているのは恐らく本来のヌシの力だ」
「本来のヌシの力だって?」
「これは憶測だが、あの黒い宝石にはゲートのヌシを封じ込める力があるのだろう。そして、ヌシを封じてしまえば宝石の持ち主はヌシの力を自在に引き出すことができる。つまり、モンスターでなくてもゲートのヌシになれる。そういうカラクリなのだろう」
 もしも魔王の考えが当たっているのなら、本来のゲートのヌシはあの宝石の中に閉じ込められていることになる。そして、その状態だとティガは自在にゲートのヌシの力を引き出せるようになるということか。
 つまり、ティガはゲートのヌシそのものではなく、ゲートのヌシの力を操っているだけってことだろうか。
「じゃあ、今、あいつは本来のゲートのヌシの力を引き出して何をしようとしているんだ?」
「本来のゲートのヌシの魔素と、ティガの魔素が混ざり合い、境目が曖昧になっているのを感じる。ゲートのヌシの力を限界まで引き出し、自身にまとわせることでパワーアップしようとしているのではないか」
 魔素が混ざり合い、境目が曖昧になっていると言われてもオレにはよく分からない。でも、背中がチリチリするような嫌な気配を感じる。
「おい、ティガ! モンスターの力に縋《すが》ってでも、オイラたちに勝ちたいンスか!?」
 ゼーゲンさんが悲しげな声で叫ぶ。
 元々、ティガもゼーゲンさんと同じく魔王の執事だったようだから、思うところがあるのだろう。もしかしたら、付き合いも長かったのかもしれない。
「あア。我輩は勝ちたイ。我輩の期待を裏切ったできそこないの魔王と、お前ら二!」
 ティガの身体を覆っていた黒い霧が晴れ、オレたちは驚愕する。何故なら、そこに立っていたティガの背中には巨大なコウモリの羽根が生えていたからだ。
「おい何だよあれ! 羽根が生えてんぞあいつ!」
「これは一体どういうことなの?」
 ヴォルフとナハトが困惑している。勿論、オレもだ。
「これはいかんな。このままティガがゲートのヌシの力を引き出し続ければ、あいつはゲートのヌシそのものになってしまう」
「そうなるとどうなるッスか!?」
「ゲートを消滅させるにはゲートのヌシを倒し、消滅させる必要がある。つまり、このままだとティガを消滅させなければいけなくなる」
「何だって!?」
 ティガを消滅させる。それはつまり、ティガの命を奪うということだ。敵対している相手とはいえ、そんなのは嫌だ。
「風よ荒れ狂エ! ヴィントホーゼ!」
 困惑するオレたちには構わずに、ティガは竜巻を発生させる魔法であるヴィントホーゼを発動させた!
 巨大な竜巻が、意思を持っているかのようにオレたちに向かってくる!
「そう来るなら私も! 風よ荒れ狂え! ヴィントホーゼ!」
 お返しだと言わんばかりに、ナハトも魔法で竜巻を発生させた!
 ティガが発動させた竜巻と、ナハトが発生させた竜巻がぶつかり合い、まるで押し相撲のような状態となる!
「はははッ! その程度、今の我輩の前ではそよ風ダ!」
「きゃあっ!」
 ティガが発生させた竜巻が一際大きくなり、ナハトが発生させた竜巻は飲み込まれてしまった!
「こ、こっちに来ますよ! どうしましょう!?」
「あいつが出した魔法は我が食い止める! その隙に、皆はあいつの胸元にある黒い宝石を破壊するのだ! そうすれば、本来のゲートのヌシが消滅し、ティガは助かるかもしれん!」
「本当ッスか!?」
「確証は無いが、我の勘がこう告げている! 急げばまだ間に合うと! だから今は黒い宝石を破壊することだけに集中するのだ!」
「勘って……」
 ただの魔王の勘に賭けていいものだろうか。だけど、他にできそうなことはない。迷っている暇もなさそうだ。
「万年雪の氷塊よ! 集いて絶対零度の塔を築け! グレッチャートゥルム!」
 竜巻を止めるために魔王が放った魔法は、巨大な氷塊を大量に積もらせ、塔を築くものだった。あっという間に竜巻は氷の塔に閉じ込められた!
「隙ありッス! 貫き爆ぜよ輝石の弾丸! シュタインクーゲル!」
 竜巻が無力化されたのを見計らって、ゼーゲンさんはティガに向けて魔法を放った! 石の弾丸がティガを目掛けて飛んでいく! 
「甘いわァッ!」
 背中に生えた巨大な翼をはためかせてティガは空を飛んだ! ゼーゲンさんが放った石の弾丸はむなしく空を切り、地面に転がってしまった。
「うう。外したッス……」
「畜生! あの黒い宝石をぶっ壊そうにも、これじゃ狙いが定まらねえぞ!」
 恐らく、オレたちの狙いに気が付いているのだろう。ティガは黒い羽根をはためかせ、不規則な飛行を始めた。そのせいで黒い宝石を魔法で狙い撃つのが難しい。
「これで終いダ! 顕現せよ嵐の牢獄! 仇なす者を捕らえ、風の刃で殲滅せヨ! シュトゥルム・ゲフェングニス!」

 ティガは再び魔法で嵐の壁を呼び寄せた!
 こんな大規模な魔法を続けて使えば、反動でフラフラになりかねないはずだ。それなのに、今のティガに疲れた素振りは見えない。これも、ゲートのヌシの力を引き出しているからなのか?
「魔王! もう一度さっきの魔法で上空に……」
「いや、それはダメだ。上を見てみろ勇者よ」
 促され、上を見る。この嵐の壁を唯一突破できる上空には、コウモリの羽根をはためかせるティガの姿があった。
「フリーゲンで飛んだら、その瞬間にティガは別の魔法を発動させ我々を撃ち落とすつもりなのだろう。故に、我が嵐の壁を食い止める」
 そう言って、魔王は手を上空に掲げ、魔法の詠唱を始めた。
「大地よ! 広大なる円蓋を作りて、我らを守りたまえ! ラントゲニウス・スフォルツァンド!」
 まるで大きな地震が起きた時のように、突然地面がグラグラと揺れ始めた。そして、辺りの地面が盛り上がり、嵐の壁を遮るように巨大な土のドームが出現した。余裕で野球ができそうな広さのドームだ。
 昨日、魔法学の授業中に飛ばされたゲートの中で初めてモンスターと遭遇した時に、ナハトが使った魔法が巨大化したような感じだな。
「やっぱ、魔王様はすげえな……。嵐の壁を無効化しやがった」
「感心している場合ではないぞ、ヴォルフ。時間が無い。我がティガの魔法を無効化している間に、黒い宝石を打ち砕くのだ!」
「お、おう。けど、どうすりゃいいんだ」
「打ち砕くといっても、まずはあいつを地面に引きずり下ろして動きを止めないといけないよな」
「何かいい案はある? 勇者くん」
 少し深呼吸して、辺りを見回す。魔王が作り出したドームの中は、薄暗いが辺りは見える。天井部分に小さな穴が無数に開いていて、光が入ってきているからだ。だが、パッと見た感じティガがこのドームから逃れられる程の穴は無い。
 つまり、今、ティガはこのドームの中に閉じ込められていることになる。どこか遠くに飛び立ってしまうという心配はしなくて良さそうだ。
「うーん……」
 次に、地面を見る。ティガが飛行している場所の真下には、沼がある。……もし、ティガをこの沼に落とすことができたら動きを止めることができるかも。
「……よし。作戦を考えた」
「何か思いついたんですか? クオンさん」
「ああ。まず、ナハトとゼーゲンさんに動いてもらう」
「私と……」
「オイラにッスか?」
 ナハトとゼーゲンさんが顔を見合わせて目をパチクリさせている。いきなり動いてもらうといわれても、そりゃ困惑するよな。しっかりと説明しないと。
「ああ。動きを封じるために、二人は魔法を使って何とかティガを沼に落としてほしい」
「そうだね。まずは動きを止めないとどうにもならないよね。分かった。やるだけやってみる」
「オイラも了解したッス。沼にでも落とさないと、分からずやのティガの頭を冷やせそうにないッスからね。頑張るッスよ! ナハトさん!」
「うん! 頑張ろうねゼーゲンさん!」
 二人は気合十分といった感じだ。空を飛ぶティガを沼に落とすのは困難だろうが、魔法の扱いに長けている二人ならきっと大丈夫だろう。
「なあクオン。オレ様はどうすりゃいい?」
「勿論、ヴォルフにも動いてもらう。でもそれは今じゃない。追って指示を出させてもらうよ」
「今、指示を出せばいいじゃねえか」
「オレが今考えてる作戦は、相手の不意をつくものだ。ヴォルフが動くタイミングを、なるべく感づかれないようにしたい」
「そうか。理由があるならいいぜ。オレ様に動いてほしいタイミングで声をかけろ。オレ様は頭を使うのは苦手だから、お前に任せた」
 水属性の魔法の扱いに長けているヴォルフには、あるタイミングで魔法を発動してほしい。だけど、長々と作戦会議をしているとティガに感づかれるかもしれない。ヴォルフに指示を出すのは、来るべきタイミングの直前だ。
「それとユウくん」
「は、はい!」
「ユウくんにも協力してもらいたいことがあるんだ。頼んでもいいかな?」
「勿論です! 僕にもできることがあるなら、嬉しいです!」
「よし、じゃあユウくんにも後で指示を出すよ。とりあえず今はこれを持っててくれ」
「分かりました!」
 さっき、ゼーゲンさんが魔法で放った石の弾丸が地面に転がっている。丁度野球ボールくらいの大きさのそれを一つ拾い上げ、ユウくんに渡した。
「それじゃ、やるぞ! みんな!」
 オレがそう言うと、みんなは元気よく返事をした。

 ――――ああ、きっと大丈夫。上手くいくはずだ。
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