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5.怪しい扉

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 豪華なシャンデリアやロウソク風の照明があちこちにある、きらびやかで歴史を感じさせる見た目をしたお城。それがお城の中を見た私の感想だった。
 魔法使いやモンスターが出てきそうでわくわくするね。……と、思ったんだけどそのわくわく感はすぐに消えてしまった。
「とにかくラブ! ラブが大事なのですわ!」
「そう! ラブの可能性は無限大だ!」
 立派な大広間でふかふかの椅子に座り、恋空チヒロと恋空ダイチの講演を聞く。そんなイベントみたいだけど、その講演の内容がびっっっっくりするほどつまらない! 人気のあるメタライバーとは思えないトーク力! 台本を用意せずにアドリブで何とかしようとしている感がすごい!
 ……ふと、隣に座っているレーゲンくんを見ると目が死んでいた。ついでに他の人たちの様子もチラッと見たけど、やっぱり目が死んでいた。恐らく私の目も死んでいる。
 時間が早く過ぎますように。ただ、そう願うしかないよ……。

 §

「今まで生きてきた中で、一番時間をムダにした感があったんだが」
「そうだね……」
 講演会は前半と後半に分かれていて、合間には三十分の休憩時間があった。
 休憩時間が始まると同時に、私とレーゲンくんは大広間を抜け出して他の恋人たちやメタロイドに見つからないように注意しながらお城の探索を始めた。
 さっきの三毛猫さん以外にも警備員のメタロイドが居るから、見つからないように気を付けないといけない。
 探索中は足音を立てないよう慎重に、だけど素早く歩く。それがエージェントの基本だ。慣れないドレスを着ているからちょっと歩きづらいのが辛いけど、そこは技量でカバーしないとね。


「……一階はあらかた見回ったが、怪しい場所があるとすればあそこだな」
 このお城の一階にある部屋の扉は、カギがかかっていなかったから簡単に中の様子を探ることができた。ただ一ヶ所を除いては。
「関係者以外立ち入り禁止って書かれた扉の向こうだよね」
 一階の片隅に、関係者以外立ち入り禁止と書かれた巨大な鉄の扉があって鍵がかかっていた。何かあるとすれば、あそこの可能性が高そう。
 そう思った私たちは鉄の扉がある場所に向かった。

「何とかして開ける方法は無いかなあ。さっきの任務の時みたいに」
「ざっと観察してみたが、パスワードを入力するパネルは無いな。鍵穴もない。となると、恐らくこの扉は生体認証式だな」
「せ、せーたいにんしょーしき?」
「ざっくり言うと、立ち入りを許可された人間やメタロイドが扉の前に立つと自動で開く仕組みってことだ」
 この扉、古臭い見た目をしているのにハイテクだなあ。
「それじゃ、私たちは絶対に入れないってこと? こんな頑丈そうな扉、ブレイズガンでも壊せるかどうか……」
「いや。他に入る手段はあるぞ。立ち入りを許可されたやつが扉を開けた瞬間に、中に入り込むという原始的な手段が」
 わあ。押し入り強盗みたい。
「でもそんなことをしたら一発で通報されちゃうよ」
「何も対策をしなけりゃそうなるな。だからまずは、そこの廊下の曲がり角でこれを被って待機するぞ」
 レーゲンくんはそう言って、懐から大きな白い布を取り出した。まるでベッドのシーツみたいな見た目だ。
「こんなのを被ったら逆に目立っちゃいそうだけど」
「いいや。目立たない。俺が開発したこれは、周りの景色と同化できる機能があるからな。名付けて、〈カメレオンクロス〉だ」
「何それ。潜入任務で超便利じゃん。何で今まで使わなかったの?」
「三つ問題点があるからだ。一つは、一度同化したらそれ以降は同化できなくなる。つまり、使い捨ての品なんだよ。そしてもう一つの問題点が、製作に時間がかかるってことだ。一つ作るのに数日かかる」
「そうなんだ。あともう一つの問題点は?」
 私が訪ねると、レーゲンくんはうつむいた。そして、小さな声でこう呟く。
「製作費が高い。とにかく高い。メタゴルドがゴリゴリ減る。だからなるべく使いたくねえ……」
 ああ。そういえばレーゲンくんは守銭奴だった。まあ、守銭奴じゃなくてもお金がゴリゴリ減るような品はなるべく使いたくないよね……。納得。
「けど、この状況じゃ仕方ねえ。使うぞ」
 私たちは扉の死角になる位置にある廊下の曲がり角にしゃがみ込み、カメレオンクロスを被った。
 ……うわ。レーゲンくんにめっちゃ密着しないとカメレオンクロスからはみ出してしまいそう。
 やばい。男の子とこんなにくっついたことがないからめっちゃドキドキする。
「……なんか、こうしてくっついていると本当に恋人になった気分になるね」
「バ、バカッ。変なこと考えるんじゃねえ」
 レーゲンくんが、焦ったような声を出す。その声を聞いたら、余計にドキドキしちゃった。
「そっ、そんなことより、狙撃を成功させることを考えろよ」
「狙撃?」
「扉の死角に隠れている時点で気づけ。立ち入りを許可されたヤツが扉の前に立てば恐らく扉が開く。その瞬間、扉の前に立ったヤツをフラムがパラライズガンで撃って行動不能にさせるんだ」
 なるほど。そうすれば通報されずに扉の中に入れる可能性が高いってわけだね。でも……。
「なんか、私たち悪人みたいじゃない?」
「任務成功のためだ。エージェントが潜入を依頼される場合、ほぼ確実に相手はクロだと思っていい。問題は証拠を手に入れられるかどうかだ。多少手荒なことをしないと証拠が手に入らないのならば、するべきだと思う」
「……分かった。行方不明の人たちを見つけるためだもんね」
 私はパラライズガンを取り出して、いつでも撃てるように引き金に指を置いた。
 パラライズガンで撃たれた人は、一定時間動けなくなるだけ。それでも、何の罪もない人を間違えて撃っちゃうのは嫌だなあ。
 どうか、あの扉の先に行方不明者の手がかりがありますように。私はそう願いながら、カメレオンクロスの隙間から周りの様子をうかがいつつ、誰かが扉の前に立つのをじっと待った。

 §

 カメレオンクロスを被って廊下の曲がり角に隠れてから、五分程経った頃。スーツを着た一人の男の人が鉄の扉に向かって歩いていった。
 恐らく、あの人は警備員だ。
 曲がり角を過ぎたので、今ならカメレオンクロスから出ても見つからないはず。そう思った私はカメレオンクロスから出て、男の人の様子をじっと観察した。
 ――扉の前に立った! そして、カギが開くような音がした! 扉も開き始めている! 今だ!
 私は心の中でごめんなさいと呟きながら、男の人に銃口を向けて引き金を引いた! 
「んぐっ!?」
 ……うん、狙い通り。レーザービームが頭にヒットしたから、あの男の人はしばらく動けないはず。
「よし。扉が閉まる前に、潜り込むぞ」
「うん!」
 開いた扉に向かって、私たちは全力で走った!
 ――もうすぐ扉が閉まる。その寸前で、私たちは扉の向こうに潜り込むことができた。ギリギリセーフだ。
「……って、何もないんだけど!?」
 扉の向こうにあった部屋は、ソファやベッドすらない殺風景な場所だった! 無駄足……ってコト!?
「よく考えろ。関係者以外立ち入り禁止の場所の先に何もないってのは逆におかしい。何もないのならわざわざ立ち入り禁止にしなくていいし、関係者が出入りする必要もないからな」
「言われてみれば……」
「とにかく、調べてみるぞ」

 私とレーゲンくんは、部屋を隅から隅まで見て回った。だけど、怪しそうな場所なんて……。
「おっ。多分、ここだな」
 突然、レーゲンくんが部屋の片隅でそう呟いた。何かに気づいたみたい。
「何かあったの?」
「ほれ。この辺りだけ足音の響き方が違う」
 レーゲンくんがその場で足踏みをすると、コンコンとやや乾いた音がした。まるで、その床の先に空洞が広がっているかのような音だ。
「もしかして隠し通路があったりする感じ?」
「その可能性は高い。ってなわけで、今度はブレイズガンの出番だ。任せたぞ」
「了解っと」
 私は怪しい床に狙いを定め、ブレイズガンを撃った!
 ドン、という大きな音が部屋に響く! 同時に、床に穴が開いた!
「本当にあった……」
 穴の先には、頑丈そうなハシゴがかかっていた。間違いない。これは隠し通路だ。怪しい。怪しすぎる。
「行くぞ。今の音を聞いた警備員が駆けつけてくるかもしれねえ。その前に証拠を見つけ出すぞ」
「オッケー、行こう!」
 私たちはハシゴを下りて地下に向かった。
 こんな怪しい通路の先に何もないはずがない! 絶対に証拠を見つけてやる!
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