エージェント・イン・ザ・メタバース

神所いぶき

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10.新たなる目標

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 様々な事後処理を行った後に現実に帰還した私たちは、月明かりが差し込む保健室の中でクロナ先生に報告を行った。
 行方不明者のこと、BPのこと、ピカリちゃんたちとペイントガンナーズで戦ったこと……。それらを全て報告すると、クロナ先生は呆れたようにこう呟いた。
「あなたたち、エージェントは陰からメタバースの平和を守る仕事よ? 派手な行動をしすぎじゃない?」
 ごもっともな意見だ! 何も言い返せない!
「けど、行方不明者を発見して、BPの製造元を一つ潰せた訳だから、任務は成功と言っていいわね」
 険しい顔をしていたクロナ先生の顔が緩む。
 ほっ。怒られずに済んで良かったあ。
「とりあえず、今日はもう遅いから寮に戻ってゆっくり休みなさい。そして明日は早めに校舎に来て。色々と、話したいことがあるからね」
 色々と話したいことがある? やっぱりお説教されちゃうのかな。とほほ……。

 §
 
 満点の星空の下、私とレーゲンくんは肩を並べて歩いた。向かう先は寮だ。
「明日、クロナ先生から怒られるのかなあ……」
「かもな。俺たち、派手に色々やったしな」
 怒られるかもしれないというのに、レーゲンくんは気にしていない様子だ。
 このメンタル、見習いたいなあ。
「……でも、間違ったことはしていないよね。レーゲンくん」
「おう。自信を持て」
「うん!」
「あと、現実ではコードネームで呼ぶな」
「あっ。そうだった。ごめんね、アオトくん」
 現実でも、ついレーゲンくんって呼んでしまうなあ。気をつけなきゃ。
「……ところでよ、これからどうするんだよ。遠井」
「どうするって?」
「遠井は、星空ピカリを見つけるためにエージェントになったんだろ。その目標は達成したんだから、もうエージェントとして活動する理由はないんじゃねえかと思ってな」
 言われてみればそうだ。私は、ピカリちゃんを見つけるためにエージェントになったんだよね。その目標は達成したわけだけど……。
「……実はね、新たな目標ができたんだよね。だから、エージェントは続けるよ」
「新たな目標? なんだそりゃ」
「今回の任務で改めて思ったんだよね。メタバースで苦しんでいる人は多いって。そんな人たちが居るのを知ったら、放っておけないよ。私は、エージェントとして沢山の人を助けたい。それが、新たな目標の一つ」
 私の射撃の腕は、アオトくんやピカリちゃんのお墨付きだ。それを活かして人助けができるのは、最高だと思う。
「めっちゃスケールがでけえ目標だな」
「ダメかな?」
「なんつーか、遠井らしくていいと思うぜ。……ん? さっき、目標の一つって言ったよな。まだ目標があんのか?」
「うん。もう一つ目標があるよ。それはね……」
「それは?」
「教えてあーげない!」
「なんだそりゃ!?」
 実は私は、今回の任務でアオトくんを好きになった。恋空さんたちの言葉を借りるなら、ラブ的な意味でね。そんな恋する相手と一緒に成長して、立派なエージェントになりたい。それが私の新たな目標の一つだ。
 ……照れくさいから、今はまだアオトくんに言えないけどね!
 でもいつか、立派に成長できてもっと自信を持てたのなら、その時は言おう。アオトくんが大好きです、ってね。
 
 §

「おめでとう。あなたたちは今日からB級エージェントよ」
 早朝。校舎に入った私とアオトくんはクロナ先生からそう告げられた。
「び、B級エージェント!? 今日から!?」
「そう。昨日の任務を達成したことで、あなたたちはC級エージェントを卒業した。これからは、もっと難しい任務が発令されるからね。覚悟しておきなさい」
 任務をクリアするとスタンプがもらえる。そしてそのスタンプが一定数貯まるとランクアップだ。
 どうやら、昨日の任務をクリアしたことでC級を卒業できるくらいのスタンプが貯まっていたみたい。全然気が付かなかった。
「やったぜ! これで給料が増える! そんで、もっと色んな物が作れるぜ!」
 アオトくんがすっごく喜んでいる。
 そういえば、アオトくんは物作りのためにお金を欲しているんだった。ランクが上がると給料も上がる。給料が増えると、作れる物も増える。それはきっと、BPに代わる新たなアイテムを作るという目標に近づく。そりゃ、嬉しいよね。
「良かったね! アオトくん!」
「おう! 遠井も、おめでとさん!」
 えへへ。アオトくんに褒められた。嬉しいな。
 ランクが上がったってことは、立派なエージェントに近づいた。そう思っていいよね。
「喜んでいるところ悪いのだけど、早速あなたたちに新たな任務が発令されているわ。午後から、バリバリ働いてもらうからそのつもりでね」
「ひえぇ~!」
 喜びに浸る間がなかった! また、午後からはお仕事だ! 忙しくなりそうだなあ!
「上等だ。俺たちならどんな任務も乗り越えられる。B級エージェントになってもそれは変わらない。そうだろ?」
 そう言って、アオトくんが私に笑いかける。その顔を見たら、胸がぽかぽかして、何でもできそうな気がしてきた。
「うん! 私とアオトくんのコンビは負け知らずだからね!」
 私は右手で握りこぶしを作り、アオトくんに差し出す。するとアオトくんは笑顔を浮かべたまま、拳をこつんとぶつけてくれた。

 よし! アオトくんの相棒として、これからも頑張るぞ!
 きっとこの先も大変なことは沢山あるだろうけど、大丈夫!
 大好きな彼と一緒なら、どんな困難も乗り越えられる! 絶対にね!

 ――さあ、今日も頑張ってメタバースの平和を守りに行こう!


【了】
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