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   第一章  いじめを止めずに見ているだけなのも同罪

  1   おまえはクビだ

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「おまえはクビだ……ラクト」

 勇者アフロ様の淡々とした声が響く。
 いつもそうだ。
 ラクトくんをいじめるときは、いつも岩場のフィールドに隠れ、他の冒険者たちから見られないようにしている。いつも、いつも、ああやって……。
 
「え? ちょっと待ってよ……僕のなにがいけないのですか?」
 
 そう言ったラクトくんは、半泣きでアフロ様に歩みよる。アフロ様は、まるで虫ケラでも見るような視線でラクトくんをにらんだ。
 
「こっちくんな……気持ち悪い」
「え? な、なぜ……僕はアフロ様のために忠義を……」
「おまえはキモいんだよっ! 話すときは近づいてくるくせに、戦闘になると遠くに離れて……おまえ、いったいなにをやってるんだ?」
「ぼ、僕は敵にデバフをかけて弱体化させたり、みんなにバフをかけて能力値をあげたり……あとその、みんなが怪我したらヒールを……」

 キモ……と、アフロ様はつぶやき、わたしのほうをチラッと見つめた。同意を求めているのだろう。わたしは思わず下を向いた。

(……? わたしは別にキモいとは思わないけど……)
 
 すると、隣にいた女騎士アーニャさんが口を開く。薄っすらと笑みを浮かべて。
 
「ラクトってさ~、結局、私らの戦闘を見て楽しんでるだけだよね?」

 びくっとするラクトくんは、すぐに反論する。
 
「そ、そんなことはないです。僕はみんなが戦闘で優位になるように……」
「どうだか……戦闘中さ、私のおっぱいばかり見てる気がするんだけど」
「いやいやいやっ! それはとんでもない誤解です」

 ラクトくんは大仰に手を振って抗議する。
 ふと、そのとき突然、空間が光り輝き、ドガッ! と岩が砕ける音が響く。虚空に舞う砂埃。焼け焦げた土と草の匂い。粉々になった石が、ゴロゴロと転がっている。猫耳魔法少女ミルクちゃんの手から、シュルシュルと細長い煙が伸びていた。火炎魔法弾を放出したようだ……。
 
(こわ……急になにするの、ミルクちゃん?)

 そして、彼女は静かに語りだす。
 
「結論から言います。虫ケラのラクトは必要ない。なぜなら、バフやデバフならミルクにも使用可能だし、ヒールは巨乳僧侶の専売特許、ねっノエルちゃん?」
 
 ……えっ、わたし? と、言いながら自分のことを指さしてしまった。

(巨乳僧侶……)
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