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   第二章  火の女神リクシスの加護

  7   友達ってなんだ?

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「じゃあ、友達になってよ」

 僕は火の女神リクシスさんに願いを唱えた。
 果たして、叶うだろうか?
 そよぐ風が心地よく夏草を揺らし、女神の金髪を乱す。
 ふう、とため息をつき、髪をかきあげ、
 
「……友達」

 と、復唱しつつ首を傾ける。
 女神の頭の上に浮かんでいるのは、? のマーク。
 あれ? 伝わっているのだろうか、僕の願いは。
 すると、リクシスさんは恥ずかしそうに訊き返してきた。
 
「ラクトくんごめん、友達って……なに?」

 え? 僕は驚愕した。
 女神は“友達”を知らないようだ。
 まあ、無理もない。彼女は天界に住む神の一族。
 世間知らずなのは否めない。
 
「……あ、あの、友達とはですね」
「うん」
「まあ、簡単に言うと……」
「うん」

 あれ? 友達ってなんだ?
 うわっ! 僕、友達をうまく説明できない。
 まあ、それも当然と言えば当然である。
 僕には友達がいない。できたことがないんだった。
 しまった。
 ぶっちゃけ、卒業した魔法学園で、話せるクラスメイトはいたが遊んだことは一度もない。就職してから、誰からの連絡もない。風の噂で僕が勇者パーティに就職したことは、誰もが知っているはずなのに。うーん……。妬みや嫉妬、などがあるのだろうか。わからないが、とにかく、僕には友達と呼べる人がいない。それでも、僕は友達が欲しくて、勇者アフロ様に忠義を尽くしたが、友達とは認めてもらえなかった。

 いや、それどころか……。

 頭のなかをめぐるのは、泥まみれの過去。
 勇者アフロ様からうけた言葉の暴力。
 女騎士アーニャさんの着替えをのぞいたという冤罪えんざい
 猫耳魔女っ子ミルクちゃんのいきなり撃ってくる火炎攻撃魔法。
 そうだ。僕はいつもいじめられていた。ううう……。
 ああ、思いだすと泣けてくる。
 それでも、記憶のなかにひとつだけ、良い思い出がある。
 ノエルさんだ。
 彼女の笑顔を見れたことだけが、僕の記憶の宝物だ。
 目を閉じれば浮かぶ、可愛らしい笑顔。穏やかな笑い声。甘い髪の香り……。
 
「あの、どうしました? ラクトくん?」
「……っあ! ごめんなさい、リクシスさん」
「大丈夫ですか? 急にどっかに逝っちゃったみたいでしたよ?」

 ああ、大丈夫、と手を振った僕はリクシスさんを見つめる。
 
「ふぅん、変なラクトくんですね」

 と言って腕を組み、釈然としない様子のリクシスさん。
 わっ、大人のお姉さんなのに、か、かわいい……。
 こんな彼女と友達になれたら……僕はどんなことをするだろうか?
 しばし、空想にふける。いや、妄想か?
 そうだ……。よし……。
 綺麗なお姉さんの女神様と友達になれた! 
 と、仮定すれば、答えはおのずと導きだされていく。
 
「リクシスさん!」
「はいっ」

 ドキっとして声がうらがえるリクシスさん。
 わぁ、やっぱ可愛い。
 僕はリクシスさんの目を見つめ、
 
「僕とパーティを組んでくれませんかっ!」

 と、大きな声で告白した。

「……? パーティ? なんですか、それ?」
「一緒に冒険の旅をする仲間のことです」
「ふぅん……ラクトくんと冒険をして友達になっていくわけですね」
「はい」
「冒険か……なんだか楽しそうですね」
「はい、僕とパーティを組んで冒険の旅にでましょう!」
「わかりました。ラクトくんの友達になれるよう、がんばります」
「はい、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
 
 ぺこり、と頭をさげるリクシスさん。
 女神様なのに人間っぽくて、笑いがこみあげてきた。
 思えば笑ったのは久しぶりのことだ。
 ああ、リクシスさんと出会えてよかった。
 うふふ、と笑い返すリクシスさんは僕のことを、じっと見つめ、
 
「でも。ラクトくんって……」

 と言って問いを投げかける。
 
「その装備で冒険の旅にでるつもり?」
「え?」
「その剣と服、おまけに薬草たんまり持ち歩いて……なんだか大変ですね……」
「そうなんですよ……僕ってレベル8しかないんです」

 嘘……とリクシスさんは首を振った。
 
「火事を消したのはラクトくん、君なんだよ」
「……? 僕にはそんな記憶はないですが」

 すると、リクシスさんは腕を伸ばした。
 僕の頭に、その柔らかい手のひらをのせて、ゆっくりとなで……。
 
「ラクトくん……君は自分が持っている潜在魔力をすべて解放できていない」
「え? どういうことですか?」

 ふふ、と鼻で笑ったリクシスさんは、僕の頭をまたなでて、髪の毛をくしゃっとやってくる。リクシスさんの華奢な指先が僕の髪と絡まる。毛束を手ぐしで通され、その指先が踊り、白く、光り輝き……。

「君に私の加護を与えよう……そして……」

 言葉を切ったリクシスさんの背後から、まるで日の出のような神々しい光りが放出され、僕はその温かい光りに包まれていく。火の女神の優しくも熱い言葉が聞こえる。
 
「覚醒しよう」
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