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第二章 火の女神リクシスの加護
10 リクシスと友達になるには
しおりを挟む「なにが食べたいですか? ラクトくん」
「えっと……」
るんるんと跳ねるように歩くリクシスさん。
彼女は火の女神。出会いはアンラッキー。
僕が火事から幼女を救ったことがきっかけで知り合った。
そんな彼女は僕に、“ひとつ願いを叶えてあげる”と言うので。
僕は、“友達になってよ”と、願いを唱えた。
そして、リクシスさんと僕は友達になるためにパーティを組むことになったのだが。
「ねえ、あの店なんてどうですか? 美味しいパスタがあるって看板に書いてあります。おいしそ~」
「あ……でも僕、家に帰らないと……」
「家?」
「はい。母が待ってるので」
「なるほど……じゃあ、ラクトくんちで晩ご飯にしましょう! レッツゴー!」
ちょちょ、と言って僕はリクシスさんの腕を掴んで歩みを止めた。
「あの女神様って人間の家に行ってもいいんですか?」
「え? 別に構わないですが、なにか?」
「あのですね……一応、僕は男なんです」
「はい」
「今日会ったばかりの男の家に行くなんて、ふつうの女の人なら躊躇しますよ?」
ラクトくん、とリクシスさんは僕の名前を改めて呼ぶとつづけた。
「友達の家に行くってふつうのことだと思うのですが、ダメですか?」
「いやいや、ダメではありません。ですが、僕とリクシスさんは男と女なわけで……その……」
「あのですね、ラクトくん。私たちは友達になるためにパーティを組んでますよね?」
「はい」
「じゃあ、私に相応しい友達になれるよう協力してくれませんか?」
「はあ……」
「家に行けばその人のことがよくわかります。あ、掃除できてるな、とか、あ、こんな本を読んでいるのね、とか……」
「なるほど、なんだかリクシスさんって女神なのに人間っぽいんですね」
「まあね、私は友達のことはよくわかりませんが、天界で人間の心理学について勉強しましたから。と言っても、女神になるには履修しないとダメなんですけどねぇ、もう大変でした」
「でも、それなのに、友達のことがわからないんですか?」
「はい。だって……私には自分に相応しいと思える友達がいないですから」
なんだ、そうか。
リクシスさんは僕と一緒で友達がいないのか、と思った。
「そんなわけで、ラクトくんの家におじゃまして友好を深め、友達になっていこうと思います」
「わかりました。じゃあ、今日は僕の家ですが、明日はリクシスさんの家に行ってもいいですか?」
「……え? い、いいですけど、玄関でちょっとだけ待ってもらえますか?」
「なんでですか?」
「むぅぅ、別にいいでしょ……」
「言いたくないってことですね。はい、わかりました」
「んもう、ラクトくんっていじわるなところありますねっ」
「そうですか? 深く追求はしてませんよ」
ま、そうですが、とつぶやいたリクシスさんは、
「あ~あ、風が気持ちいぃ」
と、頭の後で手を組んだ。話をはぐらかすつもりだろう。
別にいいけどね。リクシスさんと一緒なら楽しいから。
夜風が優しく吹き、火照った肌を涼ませる。
リクシスさんの横顔は本当に美しくて、僕は思わず見惚れた。
そして、離れたくない気持ちが強くなり。
あのぉ、と、僕は前振りをしてから確信に迫ってみた。
「僕の願いが叶ったらリクシスさんは、やっぱりどこかに消えちゃうんですか?」
「はい。ラクトくんと友達になれたら願いを叶えたことになります。なので残念ですが、一緒にはいられません。あと、私だって暇じゃないんです。女神としてこのアステールの大地の火が絶えぬように祈祷したり踊ったり……これでも、人間たちの見えないところでがんばってるんですからっ!」
そうですか、と僕はつぶやいた。
「だから、私の相応しい友達なれるようにがんばってくださいね。それがラクトくんの願いでしょ?」
「……はい。でも、リクシスさんに相応しい友達ってなんですか?」
「まあ、私が友達にしたいって思えたらいいわけですね。あ、逆にラクトくんも私のことを友達だと思わなければなりませんが……」
「そうですよ。なんで自分ばかり理想を押しつけるんですか? 友達ってそういうものではないような気がします」
「……じゃあ、お言葉ですが、例えば私が魔物に襲われてピンチになったら、ラクトくんは助けてくれますか?」
「あたりまえじゃないですか! 全力で助けます」
「魔物最強の黒竜でもですか? 助けてくれますか?」
それは、と僕は言葉を濁した。
「ほら、私を助けられないようでは友達とは言えません。それに、いまのラクトくんのレベルは低すぎます」
「ううう、リクシスさんと友達になれるレベルはいくつですか?」
「そうですね。最低でもレベル99は超えて欲しいですね」
「ふぁ? レベル99!」
僕は途方もない数字を耳にして唖然とした。
「でも、安心してください。ラクトくんがレベルアップするために、いっぱい加護を与えますから」
「あ、ありがとう」
「うふふ、楽しみです。ラクトくんってやればできるタイプだと思いますから。さあ、がんばっていきましょうっ!」
「……はい」
僕は複雑な心境を抱えていた。
友達ってなんなのだろう。
正直に言うと、僕はリクシスさんのことを、もう友達だと思っていた。
だが、リクシスさんは僕のことを友達だとは思っていない。どうやら……。
“僕の願いを叶えるために友達になる”
という使命感を燃やしているようだ。
だが本来、友達とはそういうものだろうか?
友達ってなんなのだろうか……。
僕はその答えが出ないまま家路を歩いた。灯された首都フバイの夜景を眺めながら。
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