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第三章 勇者パーティの没落
14 ラクトとクリちゃん
しおりを挟む「ごめんなさい。ラクトくん」
わたしは深々と頭をさげて謝罪をした。ラクトくんが私たち勇者パーティのことを恨んでいると思ったからだ。火の神殿は戦いの熱が残っていて、未だにわたしの身体を火照らせる。
ああ、熱い。
久しぶりに見たラクトくん……なんて強くて、かっこいいんだろう。まるで、別人だ。それでも、わたしの頭に降ってくる声は、優しいままだった。
「えっと、ノエルさん……なにを謝っているんですか?」
「だって……ラクトくん、怒ってるでしょ? わたしたちが……いじめたこと?」
あはは、とラクトくんは快活に笑う。
ドキドキしながら、わたしはゆっくりと頭をあげる。
ラクトくんの顔を見ると、彼は温和に微笑みを浮かべながら言葉を紡ぎ始めた。
「いや、怒ってませんよ。僕が弱かっただけですから」
「……え? ラクトくん?」
「いじめられても、修行をしてみんなより強くなればよかったんです。僕は努力することが嫌いでしたから、それに気がつかなかった。あはは」
「ラクトくん……変わったね……大人っぽくなった」
覚醒したんですよ、とラクトくんは虚空を仰ぎながら言葉を放つ。誰かに感謝するように。
するとそのとき、
「キュルル……」
と、可愛らしい動物の鳴き声が聞こえてきた。
え、なに? と思っていると、ラクトくんの頭の上に、きらきらと光る丸い物体が、ひょいと乗っかった。
「きゃっ」
びっくりしたわたしが悲鳴をあげると、ミルクちゃんとアーニャさんもびっくり仰天。きらきらした丸い物体を指さして叫んだ。
「クリスタルスライムー! ミルク、生まれて初めて見ましたっ!」
「私もっ! うわぁ、すげぇぇ! 倒したら一気にレベルアップするんだろうなぁ」
アフロ様は、剣のグリップに手をかけると吠えるように言った。
「おい! そのクリスタルスライムは俺に倒させろっ!」
その言葉に対してラクトくんは、片方の眉を釣りあげるとアフロ様をにらんだ。
「クリちゃんを倒しちゃダメですよ……」
人間の言葉がわかるのか、クリスタルスライムは、「キュルル~」と鳴くと、ラクトくんの手のなかに収まった。アフロ様は、それでもなおクリスタルスライムを倒そうと、剣を鞘から抜こうとしつつ、荒っぽい声をあげた。
「ラクトぉ! そいつを離せっ」
「お断りします」
「なぜだ? そいつは魔物だぞ?」
「いえ、クリちゃんは僕の友達です」
はあ? と言ってアフロ様は目を剥いた。
険悪な空気が漂う。わたしはイケナイと思い、さっと二人の間に入ると、ラクトくんに質問を投げかけた。
「クリちゃんって、この子のこと?」
「ああ、この子はクリスタルスライムだから、あだ名はクリちゃん」
そうラクトくんが自己紹介をすると、クリちゃんは、ぴょんと跳ねた。
「わっ!?」
ぽむん、とわたしの胸に飛びこんできた。
よく見ると、クリちゃんには顔があって豆粒みたいな瞳と丸い口がついている。おもむろに、その顔の部分をわたしの胸の谷間に、むにゅむにゅと押しつけてくる。
「え……ちょ、なに? っあん……!?」
慌てるわたしの近くに来たラクトくんは、むんずとクリちゃんを左手で鷲掴みにすると捕まえた。かたや、右手には剣を持っている。きらきらと神秘的なブルーの光りを放っていた。これは、帝都で最強の武器、クリスタルソードでは?
アーニャさん、ミルクちゃん、そしてアフロ様は、驚きを隠せない顔でラクトくんを見つめていた。
(え? ラクトくん……大胆になってない?)
「クリちゃん、大人しくして……」
そうクールに言ったラクトくんの手のひらの上で、くるくると回転するクリちゃん。言葉がわかるようで、犬のように、「キュルル」と鳴くと、地面に向かって飛び跳ねては、その姿を消した。いや、正確に言うと高速で移動しているので、速すぎて見えない。しかし、かろうじてクリちゃんの動きを目で追っているアーニャさんが、ラクトくんに尋ねた。
「なあラクト、おまえ……まさかクリスタルスライムを倒せるのか?」
はい、とラクトくんはうなずいた。
「倒せますよ。殺ろうと思えばいつでも……」
「ラクト……なんか変わったね? 学生の頃から魔物に触れることすらできなかったのに……」
「アーニャさん、そんな昔のことをよく覚えていますね」
「あたりまえだ。私は校舎の窓からずっと、ラクトを見ていたんだから……」
「本当ですか?」
うん、と言ったアーニャさんはうなずいた。顔がぽっと赤く染まっている。素直なアーニャさんにびっくりしたラクトくんは、やおら口を開いた。
「学生時代の僕は平凡でしたからね。思えば、失敗ばかりを繰り返していたので、なんとなく、周りの人をイラつかせていたかもしれません……ねっ!」
その瞬間、ラクトくんはおもむろに腕を伸ばした。高速で移動するクリちゃんを、パシッと捕まえてしまう。キュルル、とクリちゃんは鳴いた。その豆粒のような瞳は、うるうると光りを宿し、“離して~”と言わんばかりの顔を見せる。
「わっ! すごい……」
わたしは感嘆の声が漏れた。
アーニャさんも驚いて、あんぐり開けた口を手で隠している。ミルクちゃんは猫耳をピクピクと動かし、何かを探る仕草を見せた。おそらく、ラクトくんの魔力を調べているのだろう。かたや、アフロ様は未だに剣のグリップに手をかけたまま、戦闘態勢に入っている。
「すごくないです。速さに目が慣れただけです。魔導の力も慣れですね……」
と言ったラクトくんは一瞬だけ、ニヤッと笑みをこぼす。
ああ、かっこいい……。
この余裕はどこからくるのだろうか?
そのときわたしは確信した。
この人はわたしの知っているラクトくんではない。この人は……。
“賢者様だ”
すると、横に歩いてきたミルクちゃんが訊いた。
「ねぇラクト、なんでクリちゃんを倒さないのですか? 経験値が、たしか十万ほど獲得できると聞いていますが……」
「ん? やあ、ミルクちゃん、お久しぶりです」
「久しぶり、なのです……って、いやいや、それよりミルクの質問に答えてくださいよぉ」
「ああ、それは僕の戦闘スタイルが悪者しか殺意を抱かないからです。経験値は豊富なクリちゃんだけど、まあ所謂、可愛いペットみたいなものですから、殺意を抱けないので倒せない、と言ったほうが正解かもしれません」
ラクトくんはそう言うと、ぽいっとクリちゃんを放り投げた。
「キュルルルッ!」
虚空で、くるくると回転するクリちゃんはまた神殿のなかを駆けまわった。そして、わたしたちに慣れてきたのか、たまにゆっくりと移動して、ぷるるんと踊って見せた。
(クリちゃん、かわいい~♡)
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