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   第三章  勇者パーティの没落

 25  賢者登場

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「ぬああっ! 猫耳を捕まえるのは無理だっ」

 いきなり、そう叫んだマティウスがわたしのほうを、ギラリとにらんだ。
 
「巨乳は好きじゃないが……うーん、我慢するか」

( え? わたし我慢されて犯されるの? )
 
 やだやだやだ! ぜったいにヤダ!
 
 こんな、ガチムチの魔族に犯されたらわたし、どうなるの?
 だってこの巨体。あっちのほうもおそらくデカイだろう。
 無理だ。
 入るわけがない。
 たとえ入っても、魔族で気持ちよくなるとか、屈辱すぎて死ぬ……。
 
 ドスドス、と音を立てて歩みよるマティウス。
 そのゴツい足が、ぬっとわたしの目の前に現れた。
 横たわるわたしは、やる気なくうなだれる。
 すると、ひょいっとわたしは抱きあげられて肩にかつがれた。
 
「きゃあっ!」

 びっくりして叫んだ。
 ゆさゆさ、と揺れられながら、マティウスの大きな背中を見つめた。

( ああ、わたしは魔族に犯されるのか? )

 そんな絶望感と、

( いったいどこに連れて行くのか? )

 という不安感が、頭のなかで混ぜこぜになっている。
 やがて、わたしは降ろされた。
 アフロ様の目の前に!
 彼はやっと落ち着いたのか、もう泣いていなかった。
 わずかに動く、その唇からは、
 
「すまない……俺が強引に攻めたからこんな目に……ノエル、ミルク、アーニャ、すまない、すまない……」

 という懺悔の言葉がかすかに聞こえた。
 あまりにも遅すぎる謝罪。
 だが、わたしの心を揺さぶるには充分すぎるほどの効果を発揮していた。背徳感という暗い喜びが、わたしの心に宿り……。
 
「アフロ様……目を閉じていてください」

 不思議な言葉がわたしの口から漏れた。
 もう気づけば、魔族の男に身をまかせ、快楽へと地獄へと吸いこまれていく。
 土魔法で創造された鎖は強固で、とてもわたしの魔力では解けない。そのような言い訳を、胸のうちに秘めながら、さらに思う。
 
 負けた。
 完全なる敗北。
 この世界は所詮、弱肉強食の世界。
 弱い者は強い者に捕食される運命。
 ああ……。
 わたしは女だ、犯される性、それがサダメ。
 ズタズタになってボロボロにされて……。
 どこかにポイッとされる存在。
 本当は愛されて死にたいけど。
 それは無理そうだ。
 イケナイことをしすぎた。
 ダメだ。こんなわたしが幸せになれるわけがない。

 ダメだ、ダメだ、ダメだ。

 本当は誰かを愛しながら死にたいけど。
 それは無理そうだ。
 好きだった、勇者アフロ様の前で……。
 好きな人は、他の女性が好きで……。
 わたしは犯されて、死んでいく。
 それでも、わたしは、望んでいることがある。
 目を閉じた。
 
( ラクトくん……助けて…… )

 ……。

 わたしの身体をまさぐる魔族の手の動き。
 それを、なんでもないものと思うように専念していると、その手の動きが、ピタッと止まった。その瞬間、物凄い風圧で髪や身体が揺さぶられた。
 
 ズバッ! 

 と、切り裂くような突風が吹いた。
 はっとして目を開けると、さっきまでわたしの身体で遊んでいた魔族の首が、ゴトッと地面に落ちてきた。すると……。
 
「ノエルさんっ!」

 と、わたしの名前を呼ぶ、好きな人の声が降ってくる。
 
「大丈夫ですか?」
「ラクト……くん?」

 そう小さく尋ねながらわたしは、ゆっくりと振り向いた。
 きらきらと光るクリスタルソードが見える。
 それを握る、さわやかな青年が立っていた。
 彼は横を向いており、兜でその顔はよく見えないが……賢者だと確信した。
 
( ラクトくん! 助けに来てくれた! )

 彼の見据える先は、竜騎士サーラ。その一点。
 すると、サーラは震える唇を動かす。
 
「……貴様、よくもマティを殺したな」

 無言なままラクトくんは、クリスタルソードを霞に構えた。
 サーラは鎌の切っ先をラクトくんに向け、
 
「突然、現れたな……どこから来た?」
 
 と質問を投げかける。
 さあ、とラクトくんは曖昧な答えをしてからつづけた。
 
「異次元空間からとしか答えようがなく。正確には僕にもわかりません。詳しくは女神に聞いてください」

 女神? と訊き返すサーラの額から、つーっと汗が流れ落ちた。握られている鎌の先端が、かすかに震えていた。
 
 すると次の瞬間、突然、空間が歪み、黒い魔法陣が出現した。
 そこから、ぬっと竜槍が伸びてくると同時に、美しい女の手が現れ、やがて、乾いた風を絡ませながら、火の女神リクシスが降臨した。
 
「ひっえぇぇ! 火の女神リクシスっ! なんでこんなところに?」

 サーラはびっくり仰天して、赤い瞳を見開いた。
 リクシスは、キリッとにらみつけながら竜槍をサーラに向けると、
 
「あら、報奨金が十億と聞いて、いったいどんな魔族かと思って来てみたら、やっぱりあなただったのね? サーラ王子」
「ぐぬぬ、リクシス……」
「あなた、もしかして魔王に内緒で人間を襲っているでしょ?」

 ぎくっとしたサーラは、身体を震わせる。
 にやり、と笑うリクシスはつづけた。
 
「さて、どうしましょう?」
「頼む、親父には言わないでくれっ!」

 そうですね……とつぶやきながら、リクシスは竜槍を振って肩にかつぎ、
 
「考えておきます」

 と、曖昧な言葉を放つ。
 サーラは罪を認めたのか、ヘタッと腰が砕け、その場で座りこんだ。
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