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第三章 守られていたのは
2 自然のサイクル
しおりを挟む「おお! パリパリに乾いてるな!」
小麦の穂を優しくなでたハリーが、得意げに言った。
まるで、新しいおもちゃをもらった子どもみたいに笑って喜んでいる。
ここはタムノス平原。
夏草が風に揺れ、踊り、僕たちを歓迎しているかのようだ。
天気は晴れ間がつづき、カラッとした乾燥地帯が広がっている。
そんななか、僕たちの目の前にあるのは、ズーンと横たわる巨木。樹齢数万年の物言わぬ大樹は、この星の長い歴史をどんなふうに見てきたのだろうか。果ては、僕らが小麦を干すために、その命を利用されることになってしまったけど、本望、だったのだろうか。
僕は、ちょっと感傷的になりながらメランコリック。
すると、横で小麦を束にしているモモちゃんが話しかけてきた。
「ほら、見てガイルくん……鳥さんが巣を作っているよ」
「あ! 本当だぁ、かわえぇぇ♡」
倒れた巨木の蓄えられていた水分が減少し、乾燥破壊現象が始まっている。
よって、木の組織が壊れやすくなり、鳥にとって巣が作りやすくなったのだろう。いや、鳥だけではない。リスやネズミなど、小動物にとっても、だ。または、もっと小さな生き物たちの温床にさえも。
倒れた巨木は土に還った。
それは、ひとつの自然のサイクル。朽ち果てることが、遅いか早いかのタイミング。きっとハリーのバスターソードでなぎ倒されるのは、この巨木の“運命”ただそれだけのこと……。ときおり、清々しい風が吹くなか、ハリーは元気よく言葉を放つ。
「よーし、これくらいでいいだろう。あとは脱穀すっぞ」
はあ? ナルニアがため息まじりにぼやいた。
「そんなの職人にやらせればいい」
そうだよぉハリー、とモモちゃんも同意。僕は小麦の穂が鼻についてしまって、くしゃみをひとつ。
「ハックション!」
うえぇぇ、鼻水が出ちゃった。ヤッベ……どこでふこう? 僕は服を着てないパンイチだから何か衣類を使って拭うことができない。すると、モモちゃんがハンカチをくれた。
「ほら、ガイルくん、これ使って」
「ふぇぇぇありがとう、モモちゃ~ん」
んもう、まったく子どもなんだからぁ、と甘い声をだすモモちゃんは笑った。
そして、僕から返却された鼻水がついたハンカチをたたんで、ヒップポケットにしまった。げ……いいのかな? 今日のモモちゃんは冒険者っぽい格好をしており、ピタッとしたデザインのパンツを穿いていた。スラっとした長い足が綺麗に見えている。
「じゃあ、近くの村に行くか……たしか、あそこには……」
そう言ったハリーは斜め上を向いた。横で小麦を集めるナルニアが話しかけた。
「テルモン村だろ? あそこには温泉があったはずだ」
温泉! という単語を復唱するモモちゃんは、小麦を振り回して喜ぶ。僕はまた、「ハックション!」とくしゃみをひとつ。
「いきたい! 温泉!」
「本当に、モモは温泉が好きだな」と、ナルニア。
「うふふ、だってお肌がすべすべのぷるぷるになるでしょ?」
胸を寄せて“何か”をアピールするモモちゃんに、みんなの目は釘づけになった。コホン、と空咳をしたナルニアは、たしかに温泉は綺麗になるよな、と腕を組んでつぶやく。ハリーは集めた大量の小麦を縄で、ギュッと縛りあげると口を開いた。
「じゃあ、テルモン村に行って脱穀してもらい、その間に俺らは温泉に浸かるとしようぜ」
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