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青年時代
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しおりを挟む王都セピア、王宮。
王族、または貴族しか歩けない聖域。その廊下はどこまでも赤い絨毯が敷かれ、壁には甲冑や絵画が掛けられている。値段のつけられない絢爛豪華な装飾品の数々、それらを鑑賞していたルージュの唇から、
「すごいわね……」
という感嘆の言葉とともに、はあ、と吐息が漏れた。
シオンは恍惚とするルージュの横顔を見つめながら声をかける。
「お嬢様は芸術が好きですね、それも前世の職業であるオーエルの影響でしょうか?」
「そうよ、私がオーエルだったときの趣味が美術館巡りとイラストを描くことだったから」
「イラスト?」
「絵画のことよ」
ふぅん、とシオンは鼻を鳴らしたが、いまいち理解できていない。微笑みで返すルージュは、さっと虚空で筆をもって振る仕草をすると訊いた。
「またシオンを描かせてよ」
「俺を? お金はだせませんよ?」
「ふふ、心配しないでシオン、お金をいただくつもりは毛頭ありません。私があなたを描きたいから描くのです」
「こんな、腕なしの俺を?」
はい、とルージュは答えると、手を伸ばし、シオンの左肩に触れた。
そこには人間の身体にあるべき部位がなかった。つまり、シオンには左手がない。服の袖だけが、だらりと伸びている。
そんな彼の腰には銀色のレイピアが帯刀され、きらりと光りを宿していた。王都セピアの武器屋で一等品の業物であり。ルージュからの贈られた最強の剣でもある。彼はそのレイピアを右手で握り、
「ありがとうございます」
と告げた。
ルージュはにっこりと笑顔で返す。
そのとき、向かいの扉が開かれた。
現れたのは、ノワール。
変態であり暴君な王子は、にやりと笑う。閉じていく扉の間から見えるのは、横たわる裸体の女たち。彼女たちはアンニュイな雰囲気を醸し、気怠そうに煙草をふかしていた。ゆれる煙、妖艶にたゆたう女たちのうすら寒い笑み……。
ノワールは王族の衣装を雑に着崩し、空いたシャツから胸板が、チラリと見えている。まるで、風呂上がりさながらに晴れ晴れとした表情をしている彼は、ゆっくりと歩み寄り、にやりと笑った。
「これはこれは、アルティーク伯爵家の長女、ルージュではないか」
ルージュはスカートの裾をつまみ一礼した。何とも優雅に、エレガントに。
「はい、本日は父に代わって王子ノワール様の謁見に参りました」
うむ、と王子は頷くと手のひらを窓の外に示した。
「それはご苦労、どれ、今日は天気もいい、庭園を散歩しながら話そうではないか」
「はい」
ルージュは素直に答え、王子の後について歩いた。背後から注がれるエメラルドの視線を、頼もしく思いながら。
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