転生したら妹の婚約者は暴君でした

花野りら

文字の大きさ
10 / 40
 青年時代

 4 ー ②

しおりを挟む

「ノワール様、ついに本性を現しましたね?」

 ルージュの問いに、ふん、とノワールは鼻で笑った。
 
「本性? アハハハ、何を勘違いをしているルージュ。我の命令は絶対であり、我が気に入らぬ者は死あるのみ……それが王都セピアの真実であり、この世界の真理でもある」

 暴君、とルージュは口のなかで呟いた。
 そのときだった。
 シオンのレイピアが高速で振られ、ギンッ、と激しい音をあげるとギルバードの剣を、真っ二つに切り落とした。剣の達人であるシオンだからできる神技だった。
 
「お嬢様に剣を向けるなど、いくら聖騎士でも許さん」

 そう吐き捨てるシオンの銀髪が、風に揺れている。
 ルージュの頬は赤く染まった。

──シオン、かっこいい……。
 
「うぉぉぉ! 聖剣がぁぁ!」

 吠えるギルバードは、シオンに足蹴りをした。
 だが、シオンは風に吹かれるように飛びあがり回避する。
 シュタッ! と、地面に着地したとき、
 
「やれ! あの執事を殺せっ!」

 などと叫ぶノワールの命令が他の騎士たちに伝わり、操り人形さながらに騎士の振りあげられた剣が、シオンを襲う。
 やれやれ、とばかりに目を細めたシオンはただ立ち尽くすのみで、背水の陣。レイピアを構えて防御することもなく、逆に二人の騎士に駆け寄り、信じられないほど速いスピードで、ぐんと肉薄した。
 彼の表情は、笑っているようにも見えた。
 ぶるるっとルージュは鳥肌が立った。
 強い……と心のなかで思う、と同時に、かっこいい、とも。そんなシオンの予想がつかない動きに対して騎士たちは、
 
「ぐわっ」

 と面食らって攻撃がひるんだ。
 その瞬間、シオンのレイピアが高速で振られ、スパッスパッと騎士たちの持つ剣が真っ二つに折られた。
 
「うぉぉぉ、騎士の聖剣がぁぁ!」

 吠えるギルバードが口をあんぐりと開いている。
 きょとんとする他の騎士たちは戦闘不能。
 ノワールは、ありえない、ありえない、といって震える唇を動かしていた。
 
「おい、片腕のおまえ! 頭がイカれておるのか? 我に逆らうなど処刑だぞぉ」

 シオンはレイピアを鞘に収めると口を開いた。
 
「お嬢様の命令ですから……」
「アハハハ、これは傑作だ。銀髪の執事よ、おまえはルージュの命令ならば、王の私をも斬る、そう申すのか?」

 はい、とさわやかに返事をするシオンは、微笑みながら続けた。
 
「そもそも、非は王子にあるのでは?」
「なんだと? 何が言いたいのだ、申してみよ」
「嫁入り前の娘たちを無理やり愛妾にしているのでは?」
「はあ? 無理やりだと? 何を勘違いしている、そんな証拠はあるのか?」
「王宮の一室で、その……」
「なんだ?」
「ノワール王子は娘たちを犯しているのでは?」
「アハハハ、バカか? 片腕の執事よ、あれは女たちが望んでいることなのだぞ。みんな同意の上だ」
「え? 女たちも同意の上?」
「アハハハ、片腕よ、おまえまさか、童貞か?」
「……は、はい」
「アハハハ、図星か! では、女の気持ちなど、到底わからぬな? アハハハ」
「……うぅ」

 目が点になっているシオンは、何も言い返せない。
 ルージュが間に入り、代わりに答える。
 
「あの、ノワール様っ!」
「ん? なんだルージュ? 命乞いでもするか?」
「いや、草が生えるわ……」
「クサがはえる? どういう意味だ、それ?」
「いいえ、なんでもありません、お気になさらず……」

 ノワールは首を傾げた。
 横に歩いてきたシオンは、まずいですよ、と言わんばかりに指を唇に当てる。
 ルージュは、ぺろっと舌を出してから訊いた。

「あのぉ、素朴な質問をしてもいいでしょうか? ノワール王子」
「なんだ?」
「王子は女性のことをどう思っているのですか? この国の女性のことを」

 うーん? と唸って腕を組んだノワールは、やおら口を開いた。
 
「女は玩具おもちゃだ、子を産み、我の欲求を満たす性処理の玩具……」

 最低、とルージュはつぶやいた。
 ニヤリと笑みを浮かべるノワールは、一歩ずつルージュに近づいていく。
 
「そんなことを言うおまえだって、一発でも我のものを味わえば欲しくなる身体をしているのだぞ……女とはそういうものなのだ。なあルージュ、試してみるか? 我が息子を味わいたくは、ないか?」

 はあ? といったルージュは眉をひそめた。
 
──冗談じゃない。

 ノワールに身をまかせる自分を想像するだけで吐き気がした。
 
「アハハハ、まあ良い、今日のところは許してやる。エレンヌの恋人が現れたおかげで楽しみが増えたからな」
「ちょ、マジでひくわ……ノワール様、あなたって人は……」
「なんだ? 申してみよ、ルージュ」
「変態っ!」
「アハハハ、そう褒めるでない」

 褒めてない、とルージュは内心で毒づいた。
 
「では、ロゼッタとの婚礼を進めておけ、ルージュよ」
「げぇ……」

 ルージュは青汁でも飲んだように眉をひそめた。
 
「おい! 絵が上手くて、ちょっと可愛いからって調子にのるなよルージュ。所詮はおまえはアルティーク家の使いの者にすぎない、それをわかっているのか?」
「……チッ」
「ロゼッタ・アルティークと我の結婚、これは王族が決めたことだ!」
「……はいはい、わかりました」

 よろしい、と吐き捨てたノワールは、踵を返して去っていく。すごすごとその後を追う騎士たちは、折れた剣を両手に抱えると、ちらちらとシオンのことを振り返って見ては、
 
「あいつ片腕のくせに強すぎだろ……」
「まったくだ、バケモノかよ……」

 と話し、その表情は暗くなるほど恐怖を表している。
 ルージュは思わず、ふふんと鼻が高くなった。
 かたやシオンは素知らぬ顔でルージュに近づく。
 彼は基本的にルージュのことを守ることしか頭にはない。
 そのために修羅のごとく剣の修行をした。
 山にこもり滝に打たれ、魔物を狩り、刃を研ぐ。
 もう悲劇を起こさないため、誰にも負けない強い力を得るために……。
 そんなシオンは、
 
「あの、お嬢様」

 といって訊いた。
 
「いいのですか? 変態王子とロゼッタ様の婚礼を進めても?」
「……だって、今はああ言うしかないじゃない。でも、変態王子って……草」
「変態ですよあんなやつ、俺のことを童貞だといって馬鹿にしたんですよ! まったく……」
「え? そこにオコなのですか? シオン」
「オコ?」
「怒っているの?」
「……は、はい、俺だって童貞を卒業したいのにっ! んもう……」

 うふふ、ルージュは微笑むと、空を仰ぎながら、
 
「そう遠くない未来、童貞を卒業できるかもしれませんよ? シオン、うふふ」

 え? といってシオンは目を丸くした。
 相手はだれ? と言わんばかりの顔を浮かべている。
 ルージュは人差し指を一本だけ立てた。

「それよりも、シオンにひとつお願い事があるのですが」
「はっ、なんなりと申しつけください」
「さっきのイカれた青年いたでしょ?」
「ナイフで暴動を起こした背年のことですか?」
「ええ、あの青年の素性を探って欲しいのです」
「ほう、なぜですか?」
「戦力になりそうだから……」
「え? 弱かったですよ?」

 いや、そっちの戦闘能力ではありません、と否定したルージュは、目にかかる金髪を指でかきわけ、
 
「いいからお願い、シオン」

 と告げた。風が吹き、ルージュの長い髪が揺れる。
 わかりました、とシオンは頷いた。
 うふふ、と微笑を浮かべたルージュは顎に指を当てる。その仕草を見つめるシオンの頬が赤く染まっていた。それに気づいたルージュは何だか嬉しく思う。

「さて、口直しに紅茶でも飲んで帰りましょうか、シオン……」

 はい、お嬢様、と爽やかに答えるシオンは、ゆっくりと歩くルージュの横についた。心なしか、二人の間の距離が少しだけ近くなったような、そんな感覚を抱くルージュは、持っていたバラの花を放り投げた。

「土に還りなさい」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

処理中です...