18 / 40
青年時代
12
しおりを挟む「くっそぉぉ! お姉様ったらシオンなんかと仲良くして気持ち悪いっ!」
ロゼッタは自室の扉を、ガバッと力強く開け、部屋に入る。
イライラ、イライラ……。
ロゼッタの怒りの熱がベッドで横たわる犬、わんまるに伝わり、ぴくりと彼は顔をあげた。また首を絞められる!? と言わんばかりに怯えて飛び起きる。
「わんわん!」
ぴょん、と床に着地。
逃げろよ、逃げろ!
ロゼッタが扉を閉める前に、お見事! わんまるは部屋から、ピューと脱走した。
「あっ! わんまるっ!」
んもう、と叫んだロゼッタが地団駄を踏んだ。
「ああん、イラつく、くそっくそっ!」
ロゼッタの浮きでる血管の脳裏でシオンの姿がよぎる。さきほど、姉ルージュの部屋で紅茶を注いでいたシオン、忌々しい男。左腕がなくて、だらんと服の袖が垂れている障害者。
「なんであいつは綺麗に左腕だけドラゴンに持っていかれた? まるごと八つ裂きにされちゃえばよかったのに……」
そう、あれは十年前……。
あたしが六歳の時、アルティーク家の領地に一匹のドラゴンの襲撃があった。荒れ狂う魔物はお腹が空いてたのだろう。むしゃむしゃと家畜を食べていた。恐ろしいドラゴンなんて、ほかっておけばいいのに、それなのに、無謀にも立ち向かったのが少年シオンだった。ドラゴンに両親を殺されて逆上し、復讐したい気持ちもわかるけど、まったく……。
「逃げろよ、あのバカっ!」
ロゼッタの脳裏に焼きついた悲劇が蘇る。
ドラゴンの獰猛な牙、狂ったように踊る尻尾、突風を起こす黒い翼……。そして、母はシオンを庇ってドラゴンに殺された。父も足を負傷し一生歩けない障害者になった。
「雑魚のシオンなんかドラゴンに勝てるわけないのに……バカヤロー」
シオンがドラゴンと対峙さえしなければ、母が死ぬこともなかった。だからあたしは一生シオンのことを恨む。
「それなのに、それなのに……」
姉はシオンを許し、父はシオンを執事として仕事をさせている。姉も父も頭がイカれてるとしか思えない。現在、アルティーク家で正常なのはあたしだけだ。人殺しと一緒の家にいたくない。かといって暴君の王子のもとに嫁ぎたくもない。
「ああんもう、どうしたらいいんだっ!」
このままいくと、あたしはノワール王子の嫁になる。
しかし、それは危険だ。
姉がいうことが事実なら王子は変態。たくさんの愛妾を抱えているらしい。そんな男のところへ嫁ぐなんて最悪。他の女を抱いた男が、自分の身体に覆い被さるなんて……。そんなことを妄想しただけで、鳥肌が立つ。
「やだやだ……あたしは幸せになるんだ……」
でも……。
このままじゃダメ、このままじゃダメっ!
「なんとかしないと……」
頭のなかで邪悪な計画が浮きあがる。
さわやかな白い歯を見せて笑う男。王都セピア第二王子、ラムスの優しい顔。好きな顔。
「うふふ、ラムス王子があたしを好きになれば、姉を追い出すことができるのではないか?」
お父様は王族たちからの面子をもっとも気にするからね。
ラムスが婚約者をあたしに選べば、きっと出ていくのは姉になるはず。そうよ、なんとしてもラムスをあたしのものにしなければならない。
「うふふ、見てなさい人形女ルージュ、あたしがラムスを骨抜きにして籠絡させてやるんだから」
でも、どうやって?
って少し前までは思ってたけど、ぶっちゃけ、そんなのことは簡単だった。
「男は、みんなあたしと性行為したくなる……」
目を閉じれば、何人もの男が裸体になった自分の上で喜んで腰を振っていたことを思いだす。快楽を貪り、もっとさせて、もっとさせて、と頭を下げて懇願してくるバカな男たちの情けないマヌケな顔。彼らはあたしにとってはただの練習台なのに、あたしが自分のことを好きだと勘違いしていた、うふふふ、なんて哀れな童貞の男たち……。
彼らを見つけるのは簡単だった。まず背が低い、服装もダサい、顔はブサイクで見れたもんじゃない。そういう男に、こうやって声をかけるだけでいい。
『あの、メルシーカフェってどこでしょうか?』
と訊けば、ほぼ店に連れて行ってくれる。
ほんと、バカな男だ。
あたしが道に迷うわけがないのに、まんまと騙される。
そして連れて行ってもらった後、そっと男の耳元にこうささやく。
『お礼にいいことして、あ、げ、る』
それだけで、男たちは籠絡する。
文字通り、あたしの言いなりだ。
しかし、高身長のかっこいい男にこの手は通用しない。一度、痛い目にあった。あれは本当に痛かった。身体が裂けるかと思った。ぶっちゃけ嫌いではないが、後日の筋肉痛がやばい。まあ、手荒な授業を受けたと思えばいい。よって、あたしが狙うのは童貞の男だ。
そして……。
幸いなことに、ラムスは童貞。一発でもあたしのなかに入れちゃえば、もうあたしのものになる。これは動物の本能に忠実な行動だ。とても抗うことなど、できやしない。男はみんなあたしを求めてくる。
「きゃああ、早くラムスとやりたーい!」
しかし、そのためには邪魔者を始末しないと。
「あの人形女ルージュ……クッキーを食べて死なないかな?」
天才芸術家として評判の姉。目の上のたんこぶ。
何が転生者だ。気持ち悪くて、反吐がでる。
「きゃはははは」
それにしても、傑作だ。
天才の名をほしいままにする姉が、凡人の妹に殺されるかもしれないんだから、なんだか笑っちゃう。だけど、毒入りクッキーがちゃんと効くかは、まだわからない。
「せめて病気になってほしいわぁ、そうしたら明日ラムスと会うのは、あたし……うふふ」
きゃはははは、とロゼッタの笑い声が、嵐に吹かれるアルティーク家のなかを共鳴するように、不気味に響いていた。まるで狂った獣が歌うように、不気味に。
1
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる