転生したら妹の婚約者は暴君でした

花野りら

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 青年時代

 12

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「くっそぉぉ! お姉様ったらシオンなんかと仲良くして気持ち悪いっ!」

 ロゼッタは自室の扉を、ガバッと力強く開け、部屋に入る。

 イライラ、イライラ……。

 ロゼッタの怒りの熱がベッドで横たわる犬、わんまるに伝わり、ぴくりと彼は顔をあげた。また首を絞められる!? と言わんばかりに怯えて飛び起きる。
 
「わんわん!」

 ぴょん、と床に着地。
 逃げろよ、逃げろ!
 ロゼッタが扉を閉める前に、お見事! わんまるは部屋から、ピューと脱走した。
 
「あっ! わんまるっ!」

 んもう、と叫んだロゼッタが地団駄を踏んだ。
 
「ああん、イラつく、くそっくそっ!」

 ロゼッタの浮きでる血管の脳裏でシオンの姿がよぎる。さきほど、姉ルージュの部屋で紅茶を注いでいたシオン、忌々しい男。左腕がなくて、だらんと服の袖が垂れている障害者。
 
「なんであいつは綺麗に左腕だけドラゴンに持っていかれた? まるごと八つ裂きにされちゃえばよかったのに……」

 そう、あれは十年前……。

 あたしが六歳の時、アルティーク家の領地に一匹のドラゴンの襲撃があった。荒れ狂う魔物はお腹が空いてたのだろう。むしゃむしゃと家畜を食べていた。恐ろしいドラゴンなんて、ほかっておけばいいのに、それなのに、無謀にも立ち向かったのが少年シオンだった。ドラゴンに両親を殺されて逆上し、復讐したい気持ちもわかるけど、まったく……。

「逃げろよ、あのバカっ!」

 ロゼッタの脳裏に焼きついた悲劇が蘇る。
 ドラゴンの獰猛な牙、狂ったように踊る尻尾、突風を起こす黒い翼……。そして、母はシオンを庇ってドラゴンに殺された。父も足を負傷し一生歩けない障害者になった。
 
「雑魚のシオンなんかドラゴンに勝てるわけないのに……バカヤロー」
 
 シオンがドラゴンと対峙さえしなければ、母が死ぬこともなかった。だからあたしは一生シオンのことを恨む。
 
「それなのに、それなのに……」
 
 姉はシオンを許し、父はシオンを執事として仕事をさせている。姉も父も頭がイカれてるとしか思えない。現在、アルティーク家で正常なのはあたしだけだ。人殺しと一緒の家にいたくない。かといって暴君の王子のもとに嫁ぎたくもない。
 
「ああんもう、どうしたらいいんだっ!」
 
 このままいくと、あたしはノワール王子の嫁になる。
 しかし、それは危険だ。
 姉がいうことが事実なら王子は変態。たくさんの愛妾を抱えているらしい。そんな男のところへ嫁ぐなんて最悪。他の女を抱いた男が、自分の身体に覆い被さるなんて……。そんなことを妄想しただけで、鳥肌が立つ。
  
「やだやだ……あたしは幸せになるんだ……」
 
 でも……。

 このままじゃダメ、このままじゃダメっ!
  
「なんとかしないと……」
  
 頭のなかで邪悪な計画が浮きあがる。
 さわやかな白い歯を見せて笑う男。王都セピア第二王子、ラムスの優しい顔。好きな顔。

「うふふ、ラムス王子があたしを好きになれば、姉を追い出すことができるのではないか?」

 お父様は王族たちからの面子をもっとも気にするからね。
 ラムスが婚約者をあたしに選べば、きっと出ていくのは姉になるはず。そうよ、なんとしてもラムスをあたしのものにしなければならない。

「うふふ、見てなさい人形女ルージュ、あたしがラムスを骨抜きにして籠絡させてやるんだから」

 でも、どうやって?
 って少し前までは思ってたけど、ぶっちゃけ、そんなのことは簡単だった。
 
「男は、みんなあたしと性行為したくなる……」

 目を閉じれば、何人もの男が裸体になった自分の上で喜んで腰を振っていたことを思いだす。快楽を貪り、もっとさせて、もっとさせて、と頭を下げて懇願してくるバカな男たちの情けないマヌケな顔。彼らはあたしにとってはただの練習台なのに、あたしが自分のことを好きだと勘違いしていた、うふふふ、なんて哀れな童貞の男たち……。
 彼らを見つけるのは簡単だった。まず背が低い、服装もダサい、顔はブサイクで見れたもんじゃない。そういう男に、こうやって声をかけるだけでいい。
 
『あの、メルシーカフェってどこでしょうか?』
 
 と訊けば、ほぼ店に連れて行ってくれる。
 ほんと、バカな男だ。
 あたしが道に迷うわけがないのに、まんまと騙される。
 そして連れて行ってもらった後、そっと男の耳元にこうささやく。
 
『お礼にいいことして、あ、げ、る』
 
 それだけで、男たちは籠絡する。
 文字通り、あたしの言いなりだ。
 しかし、高身長のかっこいい男にこの手は通用しない。一度、痛い目にあった。あれは本当に痛かった。身体が裂けるかと思った。ぶっちゃけ嫌いではないが、後日の筋肉痛がやばい。まあ、手荒な授業を受けたと思えばいい。よって、あたしが狙うのは童貞の男だ。
 そして……。
 幸いなことに、ラムスは童貞。一発でもあたしのなかに入れちゃえば、もうあたしのものになる。これは動物の本能に忠実な行動だ。とても抗うことなど、できやしない。男はみんなあたしを求めてくる。
 
「きゃああ、早くラムスとやりたーい!」

 しかし、そのためには邪魔者を始末しないと。

「あの人形女ルージュ……クッキーを食べて死なないかな?」

 天才芸術家として評判の姉。目の上のたんこぶ。
 何が転生者だ。気持ち悪くて、反吐がでる。
 
「きゃはははは」

 それにしても、傑作だ。
 天才の名をほしいままにする姉が、凡人の妹に殺されるかもしれないんだから、なんだか笑っちゃう。だけど、毒入りクッキーがちゃんと効くかは、まだわからない。
 
「せめて病気になってほしいわぁ、そうしたら明日ラムスと会うのは、あたし……うふふ」
 
 きゃはははは、とロゼッタの笑い声が、嵐に吹かれるアルティーク家のなかを共鳴するように、不気味に響いていた。まるで狂った獣が歌うように、不気味に。
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