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青年時代
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しおりを挟む翌朝、ルージュはベッドのなかで、ぬくぬくしていた。
「……とりあえず、まだ寝とくか」
ぱっちりと長いまつ毛が上を向く。
部屋に射しこむ光りの粒子がきらきらと輝く。
ちゅん、ちゅん、朝だよと知らせる鳥の鳴き声が耳をくすぐる。
「朝ちゅん、か……」
頬を赤く染めたルージュは、ぎゅっと枕を抱きしめた。
「ああ、シオンの肩もみ、気持ちよかったなぁ……」
身体に残るのは、シオンの温かい手の感触。
それと耳に残るのは、男にしては高くて甘い、中性的な美しい声のささやきが、
『お嬢様……お嬢様……』
と、脳内再生される。
「ああ、もっとやってほしい……いろいろと、私のほてった身体を……もっと、もっと、んんっ、ああん」
甘い吐息交じりに、ルージュがもじもじしていると、トントンと扉を叩く音が聞こえてきた。
「お姉様、朝食の時間よ~」
妹のロゼッタの声だ。
ルージュは、ニヤッと笑うと、大きく息を吸って、
「わぁぁ! おぉぉ、お腹が痛いぃぃぃ」
と叫んだ。
身をよじり、ぎゅっと枕を強く抱えて身体を丸め、ガンガン、とベッドフレームを叩く。
もちろん演技だ。
うふふ、と心のなかで笑っちゃう。
すると……。
「大丈夫!? お姉様っ!」
ガバっと扉が開き、寝衣姿のロゼッタが血相を変えて部屋に入ってきた。
「どうしたのですかっ!?」
「ううう、お腹が……いたい……」
「あら大変、メイドを呼んできますね」
「……あ、ちょっと待って」
ん? と踵を返すロゼッタは顔だけ振り向いた。
「ねぇロゼ、お願いがあるの……」
「なに? お姉様」
「ラムス様に伝言を頼めるかしら……シオンは別の用事があるみたいなの」
「いいわよ」
「正午すぎに丘の神殿に行ってほしいの」
「神殿に?」
「ええ、正午すぎに神殿の一本杉。そこにラムス様がいるから、私はお腹が痛くていけないと伝えて……」
「わかったわ」
ありがとう、といったルージュはガクッと首を曲げ、力尽きたように目を閉じた。
「……お姉様、メイドを呼んできますね」
ルージュは小さく首を縦に動かして、痛みを堪えるように微笑んだ。
部屋から出ていくロゼッタは、心なしか軽快なリズムで駆けだしていくように見えた。自分の思い描いた計画が順調に進んでいる、そう思っているのだろう、とルージュは考えていた。
と同時に、新たな疑問が生まれる。闇に微笑むロゼッタの顔が浮かぶ。
「ロゼ……あなたいったい、ラムスに何をするつもり?」
ルージュは寝ながら推理を展開する。
心の声が加速するように漏れまくっていた。
「まず、ロゼが私を起こしに来ることはない。よって、明らかに昨夜のクッキーの効き目を確かめにきたと推理できる。さらに、私がラムスに伝言を頼むと、彼女はスキップして部屋から出ていった。あの動きは完全にデートの前に浮かれる女子そのもの。どんな服を着て行こうかなって心境が、ありありとうかがえる」
ルージュは、ふぅーとため息を吐いた。
「ロゼの計画はこうだろう。私をクッキーによって病気にさせ、私の代わりにラムスとデートをする、それから……」
ううむ、それからロゼッタの行動がわからない。
いや、ラムスを落とそうとしている、それだけはわかるのだが……。
しかし、どうやって?
「これは見に行くしかないっ!」
ルージュはベッドから飛び起きた。
寝衣を脱いで、純白の下着姿になる。柔らかい肌が陽の光りに照らされて美しく輝く。そして、クローゼットを開ける。なにを着るかと思えば、男物のスーツだった。
貴族が着る衣装。イケメンの嗜み。こんなこともあろうかと、ルージュが変装するために用意しておいたものだ。
「まさか、こんなことで使うことになろうとは……」
ルージュは鏡の前でつけ髭をはり、金髪を紐でまとめ黒いデンガロンハットを被って、美しい髪を隠した。
「これでよし……」
鏡にはかっこいい紳士が映っていた。
ルージュは美形な顔立ちなので、髭をつければ美青年に変身できる。
すると扉の向こうから、「お嬢様」と声が聞こえてきた。メイドだ。
「もう治ったから大丈夫よ」
そうですか、と返事をするメイドが歩き去る足音が扉の向こうから聞こえてきた。。
「もともと痛くもないけどね……」
とルージュは自分に言い聞かせるようにささやく。と同時に、ゴミ箱を眺めた。
「クッキーを処分しておこう、まさかとは思うけど、メイドが見つけて食べたら大変」
ルージュはゴミ箱を抱え、ふと窓の外を眺めた。
ここは二階。ちょうどロゼッタが館から出ていくところが見える。るんるん、と楽しそうに駆ける彼女は綺麗な召し物に着替えていた。女の身体を強調させたタイトな黒のワンピース。デコルテの部分がレースで透けており、おっぱいの谷間をチラチラと晒している。
「あらあら、ロゼったらあんなにセクシーな格好をして……あれじゃあ男たちに襲ってくださいって言ってるようなものじゃない。あの母にして、この娘ありね……」
かたや男装するルージュは自分の姿を鏡で見て、クスクスと苦笑すると、机の抽斗から布袋を取り出し、クッキーをゴミ箱から回収した。
「これ、どこに捨てようかしら……」
ルージュは首をかしげつつ、ジャケットの内側にしまった。
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