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青年時代
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しおりを挟む「大人っぽい……」
感心したルージュはつぶやく。
妹はひとつ下の十六歳。身体はもう立派な大人の女。かたや、ルージュも魅惑的なスタイルをしているのだが、ロゼッタのほうが男のことを知っているような、そんな気がしてならない。
「ロゼ、いつのまに男とやったの!?」
未だ処女のルージュが驚愕していると、ひとりの男が一本杉のほうに近づいてきた。
セピア王国第二王子、ラムス。
彼はロゼッタを見つめ、驚いた表情を露わにした。うふふ、と笑うロゼッタは指先で口元を隠し、目を細める。それは妖艶な小悪魔的な笑み。そして、彼らは会話を始める。
しかしルージュの位置からでは、残念ながら彼らの声は聞こえない。肩を落とすラムスの暗い表情だけは、通行する人の間から見えたが……。
「もっと近づこう……」
ルージュはそうつぶやきながら、足を運ぶ。
慎重に、男装がバレないように、男らしく大きな歩幅で進む。その歩みを参拝者に紛れ込ませ、聞き耳を立てる。すると、かすかに鼻にかかった女の声が聞こえてきた。妹、ロゼッタの声だ。
「ラムス様ぁ、お姉さまの代わりにあたしと散歩しませんか?」
「……いいのでしょうか?」
「どうしたの?」
「ロゼッタさんは兄様の婚約者ですよ!? もしもこんなことが兄様にバレたら、僕は殺されるのではないかと心配になります」
きょとんした顔のロゼッタは、大きな瞳をさらに開いて上目使い。あざとい、なんてあざとくて可愛い女なの、とルージュは思い、開いた口を手で隠した。
「ラムス様、それは杞憂ですよ。あたしたちは親戚になるんですから、仲良くしましょう」
「ですが、ロゼッタさんは兄様のものです」
「……まあ、そうだけど」
「そして僕の婚約者はルージュさんです」
「……そうね」
「なので、ロゼッタさんと一緒に歩くのは……イケナイと思いますっ!」
ラムスはそう言い切ると、頭を下げ、
「それでは、僕はルージュさんのお見舞いにいきます」
といって踵を返した。
ちょっと待って、といったロゼッタはラムスの腕に身を寄せた。むにゅっと彼女の柔らかそうな胸が、男らしい腕にあたってる。
──きゃああ、なにやってんの? ロゼ?
ルージュの心臓は高鳴り爆発しそうだ。
──見ているこっちが赤くなっちゃう、うわぁ、ロゼ、淫乱すぎよ……。
「わぁ、ロゼッタさんっ! 何をするんですかぁぁぁ」
「ラムス様っ、かたすぎですよぉ」
「えっ、えっ!?」
ロゼッタはラムスの腕を抱きながら、ぐいぐいと引っ張って歩く。むにゅ、と胸が当たり、満更でもなく嬉しがるラムスの顔は赤い。
──えええ!? ラムス、あいつ、バカ?
ルージュは内心で毒づく。肉感のあるロゼッタから悩殺的に迫られた童貞の男が、そこにいた。おそらく、我慢はできないだろう。
「ロゼッタさん……あの……」
「どうしたの? ラムス様?」
「当たってます」
「なにが?」
「あの、その……胸が……」
ロゼッタは胸をさらにラムスの腕に、むにゅっと当てる。
「うふふ、おっきいでしょ? あたしのおっぱい」
「……あ、はぁ」
「気持ちいい?」
「わかりません……こ、こんなことは初めてで……その……」
「あら、お姉様とは、エッチなことしていないの?」
「はい……ルージュさんとはしていません」
きゃはは、とロゼッタは笑う。
その笑顔は、男を落とす魔性の香りが漂っていた。
──す、すごい、ロゼ……。
と、ルージュは口のなかでつぶやく。あっさりと没落するラムスのことが、何だか滑稽に見えて、情けなく思えた。
「お姉様はこうゆうエッチなことはできないですよ」
「……え?」
「だって、感情がない人形だもの」
「人形?」
ええ、とロゼッタはうなずいた。
「お姉様が今日来れないのは、お腹が痛いから、ではありません」
「え?」
「ラムス様のことが好きじゃないからよ」
「やはり、そうなのか……」
「そうよ、だからお姉様とは男と女がする、あれ、はできないわよ」
「……ぐっ」
ラムスの拳がきつく握られた。
ロゼッタは、すっとラムスから離れ、
「だから、お姉様は諦めたほうがいいわ、でもあたしなら……」
といって言葉を切った。
次の言葉は何かと言わんばかりの顔を見せるラムスは、ロゼッタのほうに身体が吸い寄せられている。男の本能が疼いているのだろう。額から汗が流れている。ああ、私のことが好きだといったラムスが、他の女に溺れていく。
──よりにもよって、妹に……。
とルージュは思い、複雑な心境になった。
不敵に笑うロゼッタはラムスの耳元で何かをささやく。すると、ラムスは顔がみるみる赤く染まっていく。かたやロゼッタは、うふふと笑いながら歩きだした。
──ロゼッタはラムスに何をいったのだろうか?
気になるが、だいたいの予想はつく。
ルージュはつけ髭を指先で触りながら、
「ロゼッタは男を釣っている……おそらく、今まで何人もの男を」
とつぶやいてから、ふと目を細める。やるわね、とも思う。
ラムスはロゼッタの背中を見つめながら追いかけていった。揺れるピンクの髪が、咲き乱れる薔薇のなかに溶けていく。蝶のように踊りながら。ひらひらと、ひらひらと……。
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