浄化屋アルバイト~潰れるバイト先で起きること~

彩黒玉姫

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第1章 ファミレスの陰

第2話 火の匂い

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あの日から数週間が過ぎ、私は少しずつ仕事に慣れてきていた。
料理の名前も覚え、注文もスムーズに取れるようになった。
「仕事ができるようになるって、こういうことなんだな」
そんな小さな自信も芽生え始めていた。

だが、その一方で、職場の空気はどんどん重くなっていった。

休憩室の隅で泣いている新人の姿を見かけることも増え、陰口や噂話が絶えなかった。
「この店、なんか変だよ」
「辞めたほうがいい」そんな言葉があちこちで囁かれていた。

店長は表面上は笑顔だが、裏では厳しい指示と怒声が飛び交い、社員もピリピリしている。
私はそのギャップに戸惑い、どうしていいかわからなくなっていた。

そんな中、私は次第にこの場所に居続けることの辛さを感じ始めていた。
でも、辞める勇気はまだ持てなかった。
お金が必要だったし、何より自分の弱さを認めたくなかったから。

そんな日々の中、ふと感じた“焦げた匂い”。
まだ何かが起きる前の、静かな予兆だった。

ある日の夜、ピークを過ぎた時間帯。
ホールに立っていた私に、ふと違和感が走った。

注文も落ち着き、お客さんもまばらなはずなのに、店内の空気がやけにざわついて感じられた。
騒がしいわけでもない。ただ、どこか落ち着かない。
空調の音が妙に耳に残る。
グラスを片付ける手が、無意識に震えているのに気づいた。

厨房から、低い怒鳴り声が聞こえた。
「だから言っただろ、焦げ臭いって……!」

一瞬、火?と思ったけど、どうやらオーブンのトレイを焦がしただけらしい。
ただそれだけなのに、私の心臓はドクンと跳ねた。

その日の帰り道、制服のまま自転車をこぎながら、ふと思った。
——どうして、毎日こんなに怯えながら働いてるんだろう。

あのファミレスには、どこか“焼けた匂い”が染みついているような気がしていた。
油でも、煙でもない。もっと、言葉にしづらい焦げ付きのような、記憶の匂い。

次の日。
あの新人の子が、突然辞めたと聞いた。

「辞めるって、昨日のシフトの後に言ったらしいよ」
バックヤードで先輩がそう言いながら、何かを隠すような表情で笑っていた。

私の胸の奥に、何かがこぼれ落ちるような感覚があった。
誰も止めない。誰も理由を聞かない。
この店では、「辞めること」さえも日常の一部になっている。

私はその夜、制服を畳みながら決めた。
——もう、ここには来ない。

「辞めます」と言うのは、思ったよりも簡単だった。
店長は少し困った顔をしたが、すぐに「そっか」とだけ言って、それ以上は何も聞かなかった。

何かを察しているような、それでいて何も気にしていないような、曖昧な笑顔。
私は目を逸らして、頭を下げた。

それが、私の“初めてのバイト”の終わりだった。

でも、ほんとうの終わりは——その少し後にやってくることになる。
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