新月を追って

響 あうる

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第1章

【6話】ひとときの休息

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 はっと目を覚ますと天井の木目が目に入った。四角い和風の蛍光灯がまぶしい。


―――俺、どうしたんだっけ…

 敦志はおぼつかない頭でそんなことを思いながらみじろぎする。少し動いた途端に体中が悲鳴を上げた。
 そういえば、と頭だけ起こして身体を見ると自分のジャージの上だけ身体に掛けられていた。
 あれが夢でないことを悟り、苦い気持ちになりながら痛みを堪えて起き上がった。
 辺りを見回すと何故かみんな浴衣姿になっており、いつの間にか奥野を交えて携帯をいじり、ケラケラ笑っていた。


「外村、あの画像送れよ」
「他に送っちゃだめっすよ」
「わかってるわかってる」
「おーっきたきたっ」
「…うわっなにこれ、エっロ!」

 面白がって笑ってる彼らが見ているのがなんなのか想像がついて敦志は逃げ出したくなった。
 しかし、格好が格好だ。このまま外に出るわけにはいかないし着替えの入ったスポーツバッグは外村たちのすぐ近くにあった


「起きた?」

 どうにもできずに俯いていると松島がそう敦志に声をかけながら近寄ってきて反射的に上体だけ後ずさり、逃げてしまった 。
 松島は気にせずに続ける


「風呂さ…そろそろ行った方がいいと思う」

 松島が柱にある時計を見て、つられて敦志も視線を向けると8時半を回ったところだった。
大浴場の使用は時間が制限されており、そのことを言いたいのだろう


「一応、拭いたけど…そのまま寝たくはないでしょ?」

 そう言われて途端になぜ、こんなにベタベタしているかを事を思い出し頬が熱くなった。
 チラッと自分の身体に視線を落とすと確かに身体についたはずの精液は拭き取られていた
けれど、洗ったわけではないと考えると気持ち悪さがこみ上げてくる。
 このまま寝るなんて冗談じゃない。


「それに中も出さないと、腹壊すから」
「じゃ…じゃあ、俺風呂入ってきます」
「…一人で出来る?」
「出来ますっ」

 敦志はきっぱり言い切った。実際、出来るかどうかはわからなかったが誰かにまた触られるのは御免だった。
 その後松島がバッグをとってきてくれてジャージを着て、着替えを持って大浴場に向かった。
 動くたび、歩くたび、身体が痛んだが部屋に戻るよりはマシだった。






 大浴場は宿泊棟とは離れていて階段を下らなければならず、やっとの思いで『湯』と書いた暖簾の掛かった引き戸にたどり着いた。開けると広い脱衣場には誰もいなかった。
 ほっとしながら棚に乗っていた籐で出来た脱衣籠に着替えを入れ、手早くジャージを脱ぎ裸になるとタオルを持って曇りガラスの引き戸の向こうの大浴場に足を踏み入れた。
 どこからか水の音はするものの大浴場にもまた人はいなかった。広いところに一人、というのは奇妙な気分だったが敦志は足を進め、洗い場の適当なところに木で出来た風呂用の腰かけと桶を持ってきて座った。


 いつもなら髪を洗うのだが、今日はなにより先に身体を洗うことにした。とにかく早く汚れを落としたい。ボディソープをタオルに取り、タオルで念入りに身体を洗った。
 運動部だけに小さな傷はよくあったが明らかに今日出来たであろう痣などを見つけると敦志は気分が沈んだ。
 蛇口をひねりシャワーを出し、降り注ぐお湯を浴びながらぼんやりと思い出したくないことを思い出しそうになる。
 敦志は懸命に頭を横に振り、考えないようにと自分に言い聞かせた。

 
 ボディソープをきれいに流し終わると後回しにしていたことに取り掛かることにした。
 後孔に中出しされた精液を掻き出すのだ。松島が言うには指を入れて出すらしい。
 ほとんどの人間は生まれてから一度だって自分のそこに指を突っ込んだことなどない、それをするのは結構な屈辱だった。しかし、やらないというわけにもいかない。
 敦志は恐る恐る自分の後孔の入り口に指で触れた


「っ…」

 傷ついたそこはそれ以上触れられるのを拒むように痛んだ。痛みに耐えながらも慣らすように撫で続けるとそのうち、痛みにも慣れた。
 しかし中に入れるのにはやはり戸惑う、息を整えて思い切って指を突き入れた。いったん入れてしまえばあとは吹っ切れて事務的に中から精液を掻き出した
 何度かやっているうちに足元から排水溝までの流れに白いものが混じり、それを見ながら敦志は、やはりこの事実から逃れられないことを悟った 。


 

―――ガラガラッ

 少し勢いよく引き戸が開けられる音がして敦志は慌てて指を引き抜き、出しっぱなしにしていたシャワーで足元の精液を流すが、見られたんじゃないかと気が気ではなく入ってきた誰かの動きを耳だけで追う。
 湿った床を歩く足音が聞こえ、足音が止まった、と思ったのと同時だった。
 あっという短い声がして思わず敦志は振り返っていた。
 振り返ってその姿を目に収めると敦志もまた、あっと声を発していた。


―――この人…知ってる


「坂井、先輩」
「中西…だよな?一年の」
「あ、はい…」

 それは坂井 直哉、2年の先輩だった。まだ話したことはなかったがプレイは何度か見たことがある。
 相手ディフェンダーが当たり負けしてしまう身体の強さ、それだけじゃなくテクニックもある、上手い選手で記憶に残っていた。
 そういえば中学の時、イケメンだと女子たちが騒いでいた。


「お前も今風呂?」
「はい…ちょっと、…いろいろあって」
「隣いい?」
「あ、どうぞ」

 木の腰掛けと桶がコンクリートの床に置かれると高い音が大浴場の中に響いた。続いてシャワーが勢い良く水を吐き出す。髪を洗うつもりなのだろう、頭からシャワーを浴びる直哉を敦志はそっと盗み見た。
 さっきのことを見られたのではと思ったが気にする様子はまったくない。運良く見られなかったのだろうか?
 敦志がそんな風に物思いに耽っていると


「洗わねぇの?」

 頭をざっと濡らしたらしい直哉に声を掛けられた。声を掛けられて敦志は自分がシャワーを出しっぱなしにして何もしてないことに気付いた。


「いや、あの…洗いますっ」

 慌てて鏡の隣に置かれたシャンプーやらボディソープやらのボトルに手を伸ばす。あまりに慌てていたから手に取った液体がどっちだったか分からなかった。一瞬悩んだが、いいやと頭に手をやった


「それ、ボディソープだろ」
「え?うそ、マジですか?」

 慌ててシャワーで頭を洗う敦志に直哉は面白い奴と目を細めて笑った。
 
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