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43.誘拐
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「じゃあまたな、レン。
弁当と花茶ありがとう。
団長達も喜ぶ」
「グランさんも、体に気をつけて」
「昼ご飯はちゃんと食べるんだぞ。
ザガドもまたな」
「あぁ、また」
見送ってくれるレンはいつも通り笑って手を振る。
ザガドとは握手し、小ぶりな黒い頭を一撫でしてからウォンに跨がって森を一気に抜ける。
「ウォン、すぐに戻る。
悪いが待機しておいてくれないか?」
俺は飛び降りてすぐさま服脱ぐ。
名前の通りのウォンという返事を聞いて見た目に反して柔らかい黒い毛を撫でて服を預けると獣体になって森を抜け、1番近くの騎士団宿営地まで走る。
「ウェストミンスター、どうしてここに?」
「第4騎士隊隊長!
この鞄をすぐ団長に渡すよう手配してくれ。
報告書は中だ、俺はもう行く」
「え、どこに?!
て、おい!」
慌てた兎属の第4騎士隊隊長は薄灰色の耳をピンと上に立ち上げ、赤い目を真ん丸に開くが、俺は無視して元来た道を全力で走る。
風の魔法で追い風を吹かせてとにかく急ぐ。
駐屯地をざっと見た限り魔の森の巡回にはまだ出ていない。
見つからずに戻るなら今だ。
「ウォン、待たせた!」
頼んだ通りに待ってくれていたウォンとすぐに合流して人化する。
手早く服を着るとウォンに急ぐよう指示を出す。
一声鳴いてあと2人は乗れそうな程の大きさになるとずっといつもより早く小屋に着く。
優しく笑って挨拶してくれる姿を思い浮かべながら中に入るが、こがれた姿が見当たらない。
もちろんあの王弟も。
ファルによって何かしらの目がついているだろうとは思うが、彼等が2人で行動していると思うと自然に眉間に皺が寄る。
流し台に行き、洗い物籠の中の小さな手で片付けただろう食器の水滴を確認する。
まだしっかり濡れている。
出て時間は経っていないようだ。
俺はウォンにレンの所に連れていくよう伝えた。
最初からそう伝えれば良かった。
ウォンはレンの香りを探すように空を見上げてフンフンと鼻を鳴らし、すぐに走り出す。
「ウォン」
「いたか」
俺が昨日ふきのとうを採っていた坂の下に黒と赤銅色の頭を見つけた。
恐らく森の境界あたりだろう。
少し間を空けて川沿いに立つ2人は向かい合って話している。
良かった、間に合った。
ほっと胸を撫で下ろしながらウォンから降りて声をかけようとした。
その時だ。
突然川から3人の大男がザガドに向かって飛び出した。
「誰だ?!」
虚を突かれたザガドだったが疾風を身に纏って弾き飛ばす。
その反応はさすがと言うべきだろう。
「わわっ!」
しかしそれにあおりを食らったのは体の軽いレンだった。
いくらザガドと間を空けて立っていたとはいえ大男を吹き飛ばす程の風にあおられたのだ。
当然の結果でしかないが後ろにたたらを踏んでザガドからも俺からも距離ができた。
というか、そのままバランス崩した上に器用に川辺の石を踏み滑って更に後退、を2度繰り返し···あ、ヤバイ、あのままだと川に突っ込む。
「どうしてそうなる?!」
驚愕するザガドの声は無視だ。
ポッと出のお前にレンの行動が予想出来ないのは当然だろう。
去年のふきのとうの話を聞いて多少なりとも予測出来ていた俺はすぐさま坂を蹴って下り、勢いと追い風を起こしてレンの側へ跳躍する。
一瞬大男達と対峙しながらザガドがレンに向かって投げ掛ける唖然とした表情が視界に入った。
いや、お前の起こした突風のせいだからな。
とはいえ可愛い番の運動神経と何かの偶然のコラボをほんの少しだけ心配しながら手を伸ばし、レンの細腕を掴んだ。
と、思った。
しかし一瞬の差で俺は宙を掴む。
「レン!」
「え、グランさん?!
忘れ物ぉぉぉぉ?」
さすがにそれは能天気も過ぎるだろう?!
可愛い声が山をこだまする。
レンは突如どこからか現れた藍色の竜体に体を鷲掴みにされて一気に対岸に向かって川を渡って行く。
くそ!
どこに隠れていたんだ?!
鷲掴みにされた衝撃に揺れた首元にチラリと革紐が見えたが、今まであんなのしていたか?
すぐに後を追おうとした俺達はザガドが飛ばした3人の大男に邪魔される。
憤怒の形相で睨み付ける男達の様子がおかしい。
「こんな時に!
グラン、こいつら月花を大量に摂取してる!
気を付けろ!」
「こんな時にかよ?!」
男達は涎を口から伝わせながら、歯をギリギリ鳴らして殴りかかる。
丸腰とはいえ速さも力も桁違いだ。
これが竜人限定の兵器効果か。
俺もザガドも向かってきた拳や蹴りをいなし、携帯していた剣をそれぞれ構えて切りつけるが、その間にもレンが豆粒のようになっていく。
「何の茶番だ」
不機嫌な声と共に、どこからともなく現れた幾本もの漆黒の刃が男達に突き刺さる。
「「「ぐぎゃぁぁぁぁ!!!!」」」
断末魔のような叫びをあげながらのたうち始め、刺さった所がどす黒く変色していき肉が腐っていく。
これが夢で話していた腐蝕の刃だろうか。
ファル、よくもレンにこんな物を。
振り返って川の向こうを確認したが、レンはもういなかった。
絶命した男達に黒炎が立ち上ぼり焼き付くした。
「竜、説明しろ」
ファルの声に殺気がこもる。
「····愚弟だ。
まさかあいつ自ら竜体で拐って行くとは」
ザガドが蒼白な顔で呆然と呟いた。
弁当と花茶ありがとう。
団長達も喜ぶ」
「グランさんも、体に気をつけて」
「昼ご飯はちゃんと食べるんだぞ。
ザガドもまたな」
「あぁ、また」
見送ってくれるレンはいつも通り笑って手を振る。
ザガドとは握手し、小ぶりな黒い頭を一撫でしてからウォンに跨がって森を一気に抜ける。
「ウォン、すぐに戻る。
悪いが待機しておいてくれないか?」
俺は飛び降りてすぐさま服脱ぐ。
名前の通りのウォンという返事を聞いて見た目に反して柔らかい黒い毛を撫でて服を預けると獣体になって森を抜け、1番近くの騎士団宿営地まで走る。
「ウェストミンスター、どうしてここに?」
「第4騎士隊隊長!
この鞄をすぐ団長に渡すよう手配してくれ。
報告書は中だ、俺はもう行く」
「え、どこに?!
て、おい!」
慌てた兎属の第4騎士隊隊長は薄灰色の耳をピンと上に立ち上げ、赤い目を真ん丸に開くが、俺は無視して元来た道を全力で走る。
風の魔法で追い風を吹かせてとにかく急ぐ。
駐屯地をざっと見た限り魔の森の巡回にはまだ出ていない。
見つからずに戻るなら今だ。
「ウォン、待たせた!」
頼んだ通りに待ってくれていたウォンとすぐに合流して人化する。
手早く服を着るとウォンに急ぐよう指示を出す。
一声鳴いてあと2人は乗れそうな程の大きさになるとずっといつもより早く小屋に着く。
優しく笑って挨拶してくれる姿を思い浮かべながら中に入るが、こがれた姿が見当たらない。
もちろんあの王弟も。
ファルによって何かしらの目がついているだろうとは思うが、彼等が2人で行動していると思うと自然に眉間に皺が寄る。
流し台に行き、洗い物籠の中の小さな手で片付けただろう食器の水滴を確認する。
まだしっかり濡れている。
出て時間は経っていないようだ。
俺はウォンにレンの所に連れていくよう伝えた。
最初からそう伝えれば良かった。
ウォンはレンの香りを探すように空を見上げてフンフンと鼻を鳴らし、すぐに走り出す。
「ウォン」
「いたか」
俺が昨日ふきのとうを採っていた坂の下に黒と赤銅色の頭を見つけた。
恐らく森の境界あたりだろう。
少し間を空けて川沿いに立つ2人は向かい合って話している。
良かった、間に合った。
ほっと胸を撫で下ろしながらウォンから降りて声をかけようとした。
その時だ。
突然川から3人の大男がザガドに向かって飛び出した。
「誰だ?!」
虚を突かれたザガドだったが疾風を身に纏って弾き飛ばす。
その反応はさすがと言うべきだろう。
「わわっ!」
しかしそれにあおりを食らったのは体の軽いレンだった。
いくらザガドと間を空けて立っていたとはいえ大男を吹き飛ばす程の風にあおられたのだ。
当然の結果でしかないが後ろにたたらを踏んでザガドからも俺からも距離ができた。
というか、そのままバランス崩した上に器用に川辺の石を踏み滑って更に後退、を2度繰り返し···あ、ヤバイ、あのままだと川に突っ込む。
「どうしてそうなる?!」
驚愕するザガドの声は無視だ。
ポッと出のお前にレンの行動が予想出来ないのは当然だろう。
去年のふきのとうの話を聞いて多少なりとも予測出来ていた俺はすぐさま坂を蹴って下り、勢いと追い風を起こしてレンの側へ跳躍する。
一瞬大男達と対峙しながらザガドがレンに向かって投げ掛ける唖然とした表情が視界に入った。
いや、お前の起こした突風のせいだからな。
とはいえ可愛い番の運動神経と何かの偶然のコラボをほんの少しだけ心配しながら手を伸ばし、レンの細腕を掴んだ。
と、思った。
しかし一瞬の差で俺は宙を掴む。
「レン!」
「え、グランさん?!
忘れ物ぉぉぉぉ?」
さすがにそれは能天気も過ぎるだろう?!
可愛い声が山をこだまする。
レンは突如どこからか現れた藍色の竜体に体を鷲掴みにされて一気に対岸に向かって川を渡って行く。
くそ!
どこに隠れていたんだ?!
鷲掴みにされた衝撃に揺れた首元にチラリと革紐が見えたが、今まであんなのしていたか?
すぐに後を追おうとした俺達はザガドが飛ばした3人の大男に邪魔される。
憤怒の形相で睨み付ける男達の様子がおかしい。
「こんな時に!
グラン、こいつら月花を大量に摂取してる!
気を付けろ!」
「こんな時にかよ?!」
男達は涎を口から伝わせながら、歯をギリギリ鳴らして殴りかかる。
丸腰とはいえ速さも力も桁違いだ。
これが竜人限定の兵器効果か。
俺もザガドも向かってきた拳や蹴りをいなし、携帯していた剣をそれぞれ構えて切りつけるが、その間にもレンが豆粒のようになっていく。
「何の茶番だ」
不機嫌な声と共に、どこからともなく現れた幾本もの漆黒の刃が男達に突き刺さる。
「「「ぐぎゃぁぁぁぁ!!!!」」」
断末魔のような叫びをあげながらのたうち始め、刺さった所がどす黒く変色していき肉が腐っていく。
これが夢で話していた腐蝕の刃だろうか。
ファル、よくもレンにこんな物を。
振り返って川の向こうを確認したが、レンはもういなかった。
絶命した男達に黒炎が立ち上ぼり焼き付くした。
「竜、説明しろ」
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「····愚弟だ。
まさかあいつ自ら竜体で拐って行くとは」
ザガドが蒼白な顔で呆然と呟いた。
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