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53.登城

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「ここは····」
「城の私の宮の広間だ。
宮といっても陛下達の寝室にほど近い王城内の一角だが」

 俺の呟きにザガドが答える。
まさか本当にこの人数を隣国の城に転移させる事ができるとは。
レンの魔石具はとんでもないな。

「ほな手はず通り他国でたまたま第1王弟に会って個人的に通された事にしましょか。
明日は第2王弟に午後から謁見予定やから、第1王弟と商会の人間て関係で通していきましょ。
それまでにレンちゃんが何かしら動いてくれたらそれに合わせるし、そうでなかったら謁見の時に探りを入れるしかあらへんかな」
「そんな悠長な事をいってレンの身に何かあったら····」

 焦る俺を他の3人が口々になだめていく。

「落ち着きなさい、グラン。
しばらくは向こうもレンには危害を加えませんよ」
「ザガド殿の話では黒竜の番の話をしていた時に拐ったのだろう。
向こうもレンの事は黒竜の番と認識しているはずだ。
まだ1日も経ってはいないんだ。
少なくとも数日は様子を見るさ。
それにザガド殿が城を出てから時間が経っているから今の情勢も見極める必要があるだろう」
「私の方でも探りを入れるから、まずは落ち着け。
ひとまず愚弟にも話がいくよう従僕達に君達を客人としてもてなすようわざと準備させる。
それにしてもトビはいつの間に謁見の申請などしていたのだ?」
「実は団長さん達にお目通りする前に花茶を餌に商会から城下への入国申請しといたんですわ。
思った通り食いついて城内に呼び出し依頼が来たんが兄さん達が商会支部にくる少し前。
時は金なりや」

 今や3本の指に入ると言われるビビッド商会の副会長というのも頷けた。
本当に仕事が早いな。

 そうしてザガドのお陰で俺達は客人としての待遇を受けた。
にしても城内というのに随分と従僕の数が少ない。

「私は権力を拒否して常に放蕩していたからな。
私の側近達も今は散り散りになったし、元あった私の離宮も必要なしとして返上したくらいなのだ。
王城の一角の客室を幾つかぶち抜いて私の私室と専用の客室を用意させて住まいを陛下達の居室近くに移したのだ」

 随分手前勝手に放蕩したんだろうな。
トビがどこか呆れた様子で付け加える。

「しかも国王が伴侶と休眠してからザガド様は政務からは更に遠ざかったあげく、国王夫妻に守護結界張った後数週間は本格的に失踪してしまいましたからなあ。
この宮には余計人がおらんようになった、てとこやろか。
そら今この国を実際に回してるんは名実共に第2王弟になってるわけやわ」

 あまりにもその通りな現状にザガドも言葉に詰まった。

「うぐっ。
副会長殿の言う通りだ。
それに愚弟の竜人至上主義があまりに度を超え、果ては誰に対しても君主のような振る舞いとなった事に嫌気をさしてな。
宮仕えを獣人だけでなく竜人すらも拒む者が続出し始めたとは聞いている」

 俺の無言の疑問にトビとザガドが気づいたようだ。

「ザガド殿の元側近の方々も城から出たのですか?」
「私の直属の側近4人のうち2人は城にとどまりこそしているが、1人は愚弟の側近となってしまった。
他の2人はいつの間にか去っていた」

 副団長の問いにザガドは寂しそうに笑った。

「ひとまず今日はこの宮で過ごしてくれ。
私のいないこの数週間を愚弟が何もしていなかったとも思えない。
レンについては風の精霊達にも聞いてみる」

 それだけ言うと自室へと戻って行った。
背中がちょっと寂しそうだったが、あえてつっこむのはやめておこう。

 俺達は夕食を食べた後、あてがわれた客室へと通されてその日は終わった。

 そして朝は大広間でザガドも含めて全員で食事となった。
昨日は少し肉料理が少なかったが、今朝はしっかりと肉が盛られていた····の、だが····。

「ベルグル、これって私達この前お弁当で食べませんでしたか?」
「ああ、この黒いソースの味確かにに覚えがあるんだが····」
「ザガド、今までこの手の料理ってこの国にあった、か····」
「ここで食べたのは初めてだが、一昨日どこぞの子供が作ってくれたタツタ揚げというのに似ているような····」

 トビ以外は知らずひそひそと小さな声で話してしまう。

「お、早速レンちゃん何かしら動いてるやん。
でも何でお城の厨房なんやろ?
ま、食べたら迎えに行きましょ」

 トビだけは何1つ動じる事なくテンポ良くたいらげていく。
魔の森で食事した時より早くないか?!

 それを見てとにかく全員無言で競うように口に運んでいく。
いつも通り旨かった。

 皿が空になると俺達は立ち上がり、ザガドの案内で厨房へと入って行った。
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