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67.気の枯渇
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「レンに獣気を渡しに来た」
トビに目的を告げて人化すると、トビがため息を吐きながら奥の部屋に入ってすぐに戻ってきた。
「俺のやけど、ひとまずこれ着て」
投げ渡されたスラックスとシャツを無言で身につけ、薄手の上掛けをはぐって眠るレンを抱き抱える。
呼吸は荒いが汗はかいている。
随分と高い体温を散らすように風をおこしてやると、幾分体に入っていた力が抜けた。
少し前にゼノリア神からレンについて幾つかの話を聞かされた。
中でも命に関わる事を知ってのんびりなんてしていられるはずがない。
今のレンは体内の気(獣人ならば獣気)が枯渇しかけているのをいつも通り魔力で無理矢理に補助しようとしたらしい。
しかし人属の気は血に多く宿って体を循環している為、ここ数ヶ月で物理的に血を多く失ったレンは体内の気がとにかく少なくなってしまった。
そういえば魔石の作り方を聞いた時にもそんな話を聞いたが、まさかそれが元で可愛い番を危険にさらすなんて考えもしなかった。
そのせいで魔力の滞留が小さな体の循環しきれなくなった所から起きて魔力が暴れて内側から傷付け、むしろあるべき気を散らせて悪循環に陥っているのだと知ってしまえば自分を責めずにはいられない。
魔力は体内の気が呼び水や潤滑油の役割をしてこそ体内を滑らかに巡るので気が少なくなるにつれ滞りが起き、完全に枯渇すれば循環しなくなる。
その上全身の滞りが栓となって過剰に溜まった魔力を排出もできなくなってしまい、今度は体外へ出ようと暴れ出すせいで本人の手に負えなくなるらしい。
魔力で気の役割は補えるが、それは体内に気があるからこそできるのであって、気が枯渇しそうな時は他者から与えて貰い体内の気を満たしつつ暴れる魔力を落ち着けてやらなければならない。
ただし気の分け合いは基本的に番同士でなければできないという事だった。
今までに何度かそんな状態になったらしいが魔の森にファルがいて常に竜気を浴びていたから命の危機に陥るほどにはならずに暮らしていけたらしい。
あのクソ不味····白竜直伝の薬を定期摂取させていた事も良かったみたいだ。
本人は本気で逃げていたようだが。
正直番の獣気や竜気にそんな役割があったなんて初めて知った。
だからこの国に来てからレンが魔力暴走を起こしそうになったのだと言われてしまえば納得してしまう。
本能的に少しでも体内の過剰な魔力を外に出そうとして起こすようだ。
幼い子供ほど獣気を上手く扱えない話や魔力の多い子供が魔力を暴走させる話はたまに聞くが、この事が関係しているのだろう。
そしてこの事は絶対口外するなと約束させられた。
番至上主義に拍車をかけそうな事は望まないらしい。
王子だった俺も実はそうした事で苦い過去を持つ。
もちろん即同意した。
「獣気を?
って事は何か聞いたん?」
誰かに、とは聞かないのか。
トビは気と魔力の関連性を知っていたのか?
「ああ。
だが今は言えない」
「····なるほどな」
そう言って何も追求せずに奥の部屋に行こうとする。
「トビ」
ドアに手を掛けたところで呼び止めるとそのまま顔だけ振り向く。
「····お前は全て知っているのか?」
静かに問うと苦笑された。
「兄さんにそういう顔さすんはレンちゃんが望まへんのとちゃう。
俺も全部は知らへん。
せやけどレンちゃんはただのほほんと生きてきてないんくらいは察してるよ。
兄さんが白い人外に会ったんも、何かを聞いたんやろうなってのもな」
今度は体ごと振り返る。
白い人外がゼノリア神だとは知らないのだろうか。
「何かに苦しんでるんも絶望してんのもレンちゃんや。
兄さんはそれに引きずられてそんな顔せんと笑っててあげてや。
能天気にちょっと変態入ってるいつもの兄さんでちょうど良いし、そういうところにレンちゃんは安心するんちゃうの」
「おい、変態は余計だ。
だが····まぁ、ありがとう」
素直に礼は伝える。
トビは手をヒラヒラと振りながら今度こそ出て行った。
獣気を少しずつ小さな体に流しながら、少なからずあった気の循環をサポートしてやる。
そして気づく。
胸と腹、あの夢で刺された場所には気が循環していかない。
無理にしようとするとそこから気が微量に漏れ出て滞りが広がりそうになる。
(こんな事あり得るのか)
聞いてなかった現象に驚く。
仕方なくそこは避けて循環させていけば、広がった滞りは狭くなった。
しばらく続けていると、レンの体から魔力の滞留が消えていき、呼吸が落ち着いてきたのでほっとする。
「レン、何があっても俺はお前の味方でいる。
自分を赦せないなら、俺が赦し続ける。
だから····自分を追い込んで傷つけるのも絶望して全てを拒絶するのもほどほどにしてくれ」
聞いてはいないからこそ口にできる。
それくらい、あの夢で見た数多の死に様は壮絶だった。
そしてゼノリア神からちょっとだけだよぉ、なんて軽い口調で教えられたレン自身の過去は····悲惨でしかなった。
トビに目的を告げて人化すると、トビがため息を吐きながら奥の部屋に入ってすぐに戻ってきた。
「俺のやけど、ひとまずこれ着て」
投げ渡されたスラックスとシャツを無言で身につけ、薄手の上掛けをはぐって眠るレンを抱き抱える。
呼吸は荒いが汗はかいている。
随分と高い体温を散らすように風をおこしてやると、幾分体に入っていた力が抜けた。
少し前にゼノリア神からレンについて幾つかの話を聞かされた。
中でも命に関わる事を知ってのんびりなんてしていられるはずがない。
今のレンは体内の気(獣人ならば獣気)が枯渇しかけているのをいつも通り魔力で無理矢理に補助しようとしたらしい。
しかし人属の気は血に多く宿って体を循環している為、ここ数ヶ月で物理的に血を多く失ったレンは体内の気がとにかく少なくなってしまった。
そういえば魔石の作り方を聞いた時にもそんな話を聞いたが、まさかそれが元で可愛い番を危険にさらすなんて考えもしなかった。
そのせいで魔力の滞留が小さな体の循環しきれなくなった所から起きて魔力が暴れて内側から傷付け、むしろあるべき気を散らせて悪循環に陥っているのだと知ってしまえば自分を責めずにはいられない。
魔力は体内の気が呼び水や潤滑油の役割をしてこそ体内を滑らかに巡るので気が少なくなるにつれ滞りが起き、完全に枯渇すれば循環しなくなる。
その上全身の滞りが栓となって過剰に溜まった魔力を排出もできなくなってしまい、今度は体外へ出ようと暴れ出すせいで本人の手に負えなくなるらしい。
魔力で気の役割は補えるが、それは体内に気があるからこそできるのであって、気が枯渇しそうな時は他者から与えて貰い体内の気を満たしつつ暴れる魔力を落ち着けてやらなければならない。
ただし気の分け合いは基本的に番同士でなければできないという事だった。
今までに何度かそんな状態になったらしいが魔の森にファルがいて常に竜気を浴びていたから命の危機に陥るほどにはならずに暮らしていけたらしい。
あのクソ不味····白竜直伝の薬を定期摂取させていた事も良かったみたいだ。
本人は本気で逃げていたようだが。
正直番の獣気や竜気にそんな役割があったなんて初めて知った。
だからこの国に来てからレンが魔力暴走を起こしそうになったのだと言われてしまえば納得してしまう。
本能的に少しでも体内の過剰な魔力を外に出そうとして起こすようだ。
幼い子供ほど獣気を上手く扱えない話や魔力の多い子供が魔力を暴走させる話はたまに聞くが、この事が関係しているのだろう。
そしてこの事は絶対口外するなと約束させられた。
番至上主義に拍車をかけそうな事は望まないらしい。
王子だった俺も実はそうした事で苦い過去を持つ。
もちろん即同意した。
「獣気を?
って事は何か聞いたん?」
誰かに、とは聞かないのか。
トビは気と魔力の関連性を知っていたのか?
「ああ。
だが今は言えない」
「····なるほどな」
そう言って何も追求せずに奥の部屋に行こうとする。
「トビ」
ドアに手を掛けたところで呼び止めるとそのまま顔だけ振り向く。
「····お前は全て知っているのか?」
静かに問うと苦笑された。
「兄さんにそういう顔さすんはレンちゃんが望まへんのとちゃう。
俺も全部は知らへん。
せやけどレンちゃんはただのほほんと生きてきてないんくらいは察してるよ。
兄さんが白い人外に会ったんも、何かを聞いたんやろうなってのもな」
今度は体ごと振り返る。
白い人外がゼノリア神だとは知らないのだろうか。
「何かに苦しんでるんも絶望してんのもレンちゃんや。
兄さんはそれに引きずられてそんな顔せんと笑っててあげてや。
能天気にちょっと変態入ってるいつもの兄さんでちょうど良いし、そういうところにレンちゃんは安心するんちゃうの」
「おい、変態は余計だ。
だが····まぁ、ありがとう」
素直に礼は伝える。
トビは手をヒラヒラと振りながら今度こそ出て行った。
獣気を少しずつ小さな体に流しながら、少なからずあった気の循環をサポートしてやる。
そして気づく。
胸と腹、あの夢で刺された場所には気が循環していかない。
無理にしようとするとそこから気が微量に漏れ出て滞りが広がりそうになる。
(こんな事あり得るのか)
聞いてなかった現象に驚く。
仕方なくそこは避けて循環させていけば、広がった滞りは狭くなった。
しばらく続けていると、レンの体から魔力の滞留が消えていき、呼吸が落ち着いてきたのでほっとする。
「レン、何があっても俺はお前の味方でいる。
自分を赦せないなら、俺が赦し続ける。
だから····自分を追い込んで傷つけるのも絶望して全てを拒絶するのもほどほどにしてくれ」
聞いてはいないからこそ口にできる。
それくらい、あの夢で見た数多の死に様は壮絶だった。
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