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162.朔月8
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「朔月はそうして神継という姓と、領地を与えられた。
鷹親の子供と2人の家の元家臣達で自分について来たいと言った人達を引き取って、神継家を興した。
ほどなくして産まれた血の繋がった息子と鷹親の息子と一緒に過ごす時間は朔月にとって心から幸せな時間だった」
ほぅっと懐かしい昔を思い出すように息を吐く。
「だけど国王が代替わりして、神託を受けた時にいた王太子が王として政治を行うようになった頃から少しずつ状況が変わっていった。
彼は権力を使って朔月を手に入れようとした。
きっかけは多分小さな執着。
目の前で神託がなされたのもあったし神殿との関係もあったから、先代の国王が当時王太子だった彼に朔月を監視するように命令してたのもあったのかもしれない。
何度も会ううちに彼にとって気安い存在になったんだと思う。
何年かは友人として良好な関係を築いてたはずだけど、いつからか求愛されるようになった。
朔月は彼が王太子の頃から何度も断り続けてたけど、国王になって権力を持つようになってからは····手段を選ばなくなっていった。
最後にはそれが叶わないなら、息子達を含めて一族を殺すと脅しまでかけてきた」
レンはどこか苦しそうに、ぴったりとトビの胸に顔を埋めてしまう。
「そして····息子の1人を罠に嵌めて朔月との中に不和を生じさせた。
あの子にあらゆる誤解をさせて一族の為にと唆して····殺すように仕向けた」
『今すぐこのように酷い仕打ちはお止めください!
私と違い貴方様は朔月様と血の繋がった親子なのですよ!』
『母上、何故ですか。
私はあなたをこんな風に殺したかったわけではありませぬ。
女の身でありながら一族を興し、深紫の衣までも賜りながら、何故····。
今上に申し開きし妃として仕えさえすれば、これまでの忠義を鑑みると····』
夢見で見た2人の少年達の会話を思い出し、苦々しい感情がこみ上げる。
俺の中のどこかで親之が叫んでいるような、そんな気がする。
「朔月を手にかけたのは····親之の子供だったんだな」
俺がレンの夢見で見た事はレンもわかっていたんだろう。
ゆっくりと頷いた。
「あの子が悪いわけじゃないの。
あの時代は女性····フィルメの最高の幸せは国王の妻になる事だと思われてたし、一族の当主はこの世界で言えばメルだけって決められてたんだ。
フィルメは婚姻や性的な部分での政治の駒として使われる事があっても、政治の表舞台に出る事を決して許されない風潮だった。
だからフィルメの朔月が当主として官位を与えられた事は権力者達からしてもあり得ない事態で、面白くなかった。
だけど悪魔を祓った場面や、王族縁の神が神託を下ろした場面を直接見た人達がいる中で表立って反発もできなかった。
それでもあの時の贄の中には政治の駒としてではなく、権力者が親として愛する子供もいた分、時間と共に朔月への反感は憎しみのような妬みや嫉みに変わって、ある種の呪詛のようなものが朔月の息子達にも絡みついてしまってた」
よく見れば、いつの間にかレンのトビの服を握る手に力が入っていて、その声音はどこか悲しげだ。
「特に親之の子供は朔月の血を引いてしまった分、悪魔や呪いの類いが目で見えたりして呪力には敏感だったのもあるの。
堕ちた神があの子を堕とそうと唆す事もよくあった。
朔月がどれだけ堕ちた神や呪詛を祓っても人の妬みや嫉みには際限がなくて、あの子に言葉をつくしても····当時は厳格な身分制度があって、その最高権力者の国王が唆せば不和が生じて···隙も····できてしまった。
朔月も官位を与えられていたから····命令で家を留守にせざるおえない事が増えて、息子達との時間も····取れなくなっていって····だから····」
途中からは声が小さくなって、かき消えた。
トビはそっと小さくなった背中を撫でている。
「だから····親之だけはあの子を嫌わないで····」
しばらくすると本当に小さな声でぽつりと洩らす。
その言葉に、どこかで感じていた親之の荒れた感情が凪いでいく。
「····わかっている。
レン、俺は記憶の中の親之しか知らない。
だが親之が心から朔月との子供を欲してたのはわかる。
単に朔月の延命の為だけに抱いたわけじゃない。
娶る事ができなくても、普通の家族のような幸せを与えたかったし、そんな時間を共に過ごしたかったんだ」
あの時、朔月を傷つけるとわかっていても抱いた理由はもちろん少しでも長く生かす為だ。
それは間違いない。
だけど鷹親の息子を遠くから見ていた朔月の、全てを諦めたような、寂しそうな、そんな顔が嫌だった。
子供ができれば表向きは妻でなくとも、家族として限りある一時を共に過ごせると、俺の記憶の中の親之は心底信じてたんだ。
もちろん先に朔月が死んでも、子供は必ず守り育てると決めてあんな行為に及んだ。
まさか自分が先に死んで、その子供が朔月を殺すなんて夢にも思ってなかった。
なあ、朔月····お前は自分のあらゆる物を搾取され続ける人生に、その上血の繋がった息子に殺されるような最期に後悔しなかったのか?
もし親之と鷹親に会わなかったらと、考えた事はなかったのか?
※※※※※※※※※
お知らせ
※※※※※※※※※
新作を投稿しました。
全4話完結のホラージャンルです。
こちらのお話の関係者が登場しますが、こちらを知らなくても問題ない作りとなっています。
タイトルは【かくしおに】です。
ここでは失敗した正しいかくしおにのやり方が登場します。
恐怖を自家発電しようとしましたが、怖くありません。
ホラーは難しいですね。
お暇な時に読んでいただけると幸いです。
鷹親の子供と2人の家の元家臣達で自分について来たいと言った人達を引き取って、神継家を興した。
ほどなくして産まれた血の繋がった息子と鷹親の息子と一緒に過ごす時間は朔月にとって心から幸せな時間だった」
ほぅっと懐かしい昔を思い出すように息を吐く。
「だけど国王が代替わりして、神託を受けた時にいた王太子が王として政治を行うようになった頃から少しずつ状況が変わっていった。
彼は権力を使って朔月を手に入れようとした。
きっかけは多分小さな執着。
目の前で神託がなされたのもあったし神殿との関係もあったから、先代の国王が当時王太子だった彼に朔月を監視するように命令してたのもあったのかもしれない。
何度も会ううちに彼にとって気安い存在になったんだと思う。
何年かは友人として良好な関係を築いてたはずだけど、いつからか求愛されるようになった。
朔月は彼が王太子の頃から何度も断り続けてたけど、国王になって権力を持つようになってからは····手段を選ばなくなっていった。
最後にはそれが叶わないなら、息子達を含めて一族を殺すと脅しまでかけてきた」
レンはどこか苦しそうに、ぴったりとトビの胸に顔を埋めてしまう。
「そして····息子の1人を罠に嵌めて朔月との中に不和を生じさせた。
あの子にあらゆる誤解をさせて一族の為にと唆して····殺すように仕向けた」
『今すぐこのように酷い仕打ちはお止めください!
私と違い貴方様は朔月様と血の繋がった親子なのですよ!』
『母上、何故ですか。
私はあなたをこんな風に殺したかったわけではありませぬ。
女の身でありながら一族を興し、深紫の衣までも賜りながら、何故····。
今上に申し開きし妃として仕えさえすれば、これまでの忠義を鑑みると····』
夢見で見た2人の少年達の会話を思い出し、苦々しい感情がこみ上げる。
俺の中のどこかで親之が叫んでいるような、そんな気がする。
「朔月を手にかけたのは····親之の子供だったんだな」
俺がレンの夢見で見た事はレンもわかっていたんだろう。
ゆっくりと頷いた。
「あの子が悪いわけじゃないの。
あの時代は女性····フィルメの最高の幸せは国王の妻になる事だと思われてたし、一族の当主はこの世界で言えばメルだけって決められてたんだ。
フィルメは婚姻や性的な部分での政治の駒として使われる事があっても、政治の表舞台に出る事を決して許されない風潮だった。
だからフィルメの朔月が当主として官位を与えられた事は権力者達からしてもあり得ない事態で、面白くなかった。
だけど悪魔を祓った場面や、王族縁の神が神託を下ろした場面を直接見た人達がいる中で表立って反発もできなかった。
それでもあの時の贄の中には政治の駒としてではなく、権力者が親として愛する子供もいた分、時間と共に朔月への反感は憎しみのような妬みや嫉みに変わって、ある種の呪詛のようなものが朔月の息子達にも絡みついてしまってた」
よく見れば、いつの間にかレンのトビの服を握る手に力が入っていて、その声音はどこか悲しげだ。
「特に親之の子供は朔月の血を引いてしまった分、悪魔や呪いの類いが目で見えたりして呪力には敏感だったのもあるの。
堕ちた神があの子を堕とそうと唆す事もよくあった。
朔月がどれだけ堕ちた神や呪詛を祓っても人の妬みや嫉みには際限がなくて、あの子に言葉をつくしても····当時は厳格な身分制度があって、その最高権力者の国王が唆せば不和が生じて···隙も····できてしまった。
朔月も官位を与えられていたから····命令で家を留守にせざるおえない事が増えて、息子達との時間も····取れなくなっていって····だから····」
途中からは声が小さくなって、かき消えた。
トビはそっと小さくなった背中を撫でている。
「だから····親之だけはあの子を嫌わないで····」
しばらくすると本当に小さな声でぽつりと洩らす。
その言葉に、どこかで感じていた親之の荒れた感情が凪いでいく。
「····わかっている。
レン、俺は記憶の中の親之しか知らない。
だが親之が心から朔月との子供を欲してたのはわかる。
単に朔月の延命の為だけに抱いたわけじゃない。
娶る事ができなくても、普通の家族のような幸せを与えたかったし、そんな時間を共に過ごしたかったんだ」
あの時、朔月を傷つけるとわかっていても抱いた理由はもちろん少しでも長く生かす為だ。
それは間違いない。
だけど鷹親の息子を遠くから見ていた朔月の、全てを諦めたような、寂しそうな、そんな顔が嫌だった。
子供ができれば表向きは妻でなくとも、家族として限りある一時を共に過ごせると、俺の記憶の中の親之は心底信じてたんだ。
もちろん先に朔月が死んでも、子供は必ず守り育てると決めてあんな行為に及んだ。
まさか自分が先に死んで、その子供が朔月を殺すなんて夢にも思ってなかった。
なあ、朔月····お前は自分のあらゆる物を搾取され続ける人生に、その上血の繋がった息子に殺されるような最期に後悔しなかったのか?
もし親之と鷹親に会わなかったらと、考えた事はなかったのか?
※※※※※※※※※
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全4話完結のホラージャンルです。
こちらのお話の関係者が登場しますが、こちらを知らなくても問題ない作りとなっています。
タイトルは【かくしおに】です。
ここでは失敗した正しいかくしおにのやり方が登場します。
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