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200.天馬の夢2
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「それで?」
1人がけのソファに座った金髪の男は横向きで膝に乗せた蓮香の小さな体に抱きつき、また抱きつかれたままで先を促す。
「間一髪のとこでゼノ····あの白いゆるキャラが割って入って交換条件で自分の世界に来ないかって言ってきたから、その話に乗った」
「乗るのか」
「乗ったけど?」
ふぅ、と男は長いため息を吐く。
「で?
この世界の俺達がお前を殺した痕跡を綺麗さっぱり消したと?」
「うん」
きっぱりとした可愛らしい声に男は不機嫌そうだ。
「俺なら自分で証拠隠滅くらいはできたが?」
「他の人間に対してならな」
「どういう意味だ?」
「詩香は私の血を引いただけあって、いつか真実に辿り着くと思った。
私の事を愛してる詩香が黙ってるとは思えなかった」
「無駄に行動力だけはあるからな」
眉をしかめて再びため息を吐く男は、少し遠い目をする。
何となく蓮香の娘はレンのようなやらかし体質な気がしてくる。
「異母兄に会ったらしいな。
ヨハンが鬼を引っ下げてたのは笑った」
「笑うのかよ」
「笑うだろ」
蓮香は抱きついたまま、くくく、と笑うが男はただ呆れた様子だ。
「私がゼノに要求したのは私を殺した人間以外の、この世界にいる全ての事象から私の他殺に関する全ての痕跡を消す事だ」
事象?
どういう意味だ?
知っているだろうゼノリア神に目をやる。
「詩香はねぇ、とっても弱いけど神継の力を継いでるんだぁ。
だからぁ、あの飾りが少なからずヨハンを鬼から守ってたでしょ?
蓮香は自分の血を継いでいけばぁ、孫やひ孫の代で何かしらの力を顕現させる子ができるかもしれないって考えたんだよぉ。
そのせいでぇ、娘の詩香が何かの拍子に自分の実の父親やぁ、父親のような存在の2人が愛する母親を殺した事を知るかもしれない可能性を考えたんだよぉ。
それを僕と取り引きして潰したんだぁ」
『知らない、人?』
そう母親に聞き返した詩香の顔は意外そうだった。
その後も蓮香の嘘を見抜こうと食い下がっていたが、すぐに話題が変わったな。
「なるほど。
確かに詩香は勘だけは鋭いし、未来のお前の孫やひ孫が何の力も持たないかどうかはわからないからな。
それで、お前は今ゆるキャラの世界に行って何してるんだ?」
ゆるキャラ呼びが定着している?!
「えへへぇ~」
照れている?!
いいのか、神よ?!
「ただ生きてる。
もう研鑽とか、しがらみもない」
「取り引きしたんじゃないのか?」
「うん。
好きに生きるのが取り引きだった」
ぱっと見ると再びエヘヘとだらしなく笑った。
「随分甘い取り引きだな」
「ゼノは朔月大好きだからね」
「お前の事もだろうな。
それでお前は何故こんな事をした?」
「たまたまこっちに夢見を繋げられたから、最期の気がかりの解消」
「相変わらず詩にも娘にも激甘だな」
「愛してるんだから仕方ない」
「ほう、やはりそうか。
詩の方は愛情を受け入れて因果を解消させ、詩香の方は母親のお前が娘の自分に執着を見せずにいた事で発生させた因果も解消したと。
それで結局繋がりを断って自分がギャン泣きしていれば苦労しないな」
忘れないでといった母親に満面の笑みを見せた娘を思い出す。
「ギャン泣きまではしてない。
つらいものは仕方ないだろ」
「素直だな」
「ん····最期、だから」
「それで俺も手放すのか」
「····天馬は····」
言い澱む。
そんな蓮香から少し体を離し、男は顔をのぞきこむ。
「そんな顔をするなら放っておけばいいだろう。
詩も詩香も因果を解消させれば来世で出会う可能性はほぼ無くなる」
「もう········どうせ会わない、から。
因果を解消させなかったのは····私が手放したくなくて、執着したから、だし」
しばしの沈黙を置き、自分を納得させるようようにぽつりと漏らす。
男は両手で手触りの良さそうな頬を包み、恐らく親指で涙を拭ってやった。
「完全に世界を違えたか」
「うん。
ここの神の戻って来いって誘いも断わった」
「ああ、それでか」
男が蓮香に軽く口づける。
「俺との別れがお前を不安定にさせたから、ずっと泣いていたのか」
確信を持ったような言葉に仄暗い嫉妬を覚える。
拠り所より半分を失う方がつらいと言いたいらしい。
「この千年、天馬がいない時が無かった。
見つけてもらえなかった時も、死ぬ瞬間まで希望を持てたのに····。
次は····もう私じゃないけど」
「研鑽が無くなったのなら、不条理な死も必ず起こるとは言えないだろう。
俺ももう必要ない」
一瞬、男の顔が翳った気がする。
「必要ないけど、死ぬまで生きて欲しい」
「なぜ?」
「いつもみたいにすぐに私の後を追わずに天寿を全うして欲しい」
「詩香にお前の寿ぎの欠片を与えたのなら、もう手は離れただろう。
約束通り手が離れるまでは見守った。
何故だ?」
「天馬····」
蓮香は苦しそうに名前を呟く。
「お前のいない世界で生きて何になる?」
「わかってる。
天馬はもう私には半分のような存在だ。
だから····間に合わないならそれも仕方ないと思っていた。
····でも、間に合った」
「やめろ」
静かに、たが意志を持って男は拒絶する。
「やめてくれ」
やがて懇願し、男は蓮香をきつく抱きしめた。
「頼む」
蓮香は何も言わずに再び首に腕を回し、暫く沈黙が訪れる。
蓮香も迷っているようだった。
1人がけのソファに座った金髪の男は横向きで膝に乗せた蓮香の小さな体に抱きつき、また抱きつかれたままで先を促す。
「間一髪のとこでゼノ····あの白いゆるキャラが割って入って交換条件で自分の世界に来ないかって言ってきたから、その話に乗った」
「乗るのか」
「乗ったけど?」
ふぅ、と男は長いため息を吐く。
「で?
この世界の俺達がお前を殺した痕跡を綺麗さっぱり消したと?」
「うん」
きっぱりとした可愛らしい声に男は不機嫌そうだ。
「俺なら自分で証拠隠滅くらいはできたが?」
「他の人間に対してならな」
「どういう意味だ?」
「詩香は私の血を引いただけあって、いつか真実に辿り着くと思った。
私の事を愛してる詩香が黙ってるとは思えなかった」
「無駄に行動力だけはあるからな」
眉をしかめて再びため息を吐く男は、少し遠い目をする。
何となく蓮香の娘はレンのようなやらかし体質な気がしてくる。
「異母兄に会ったらしいな。
ヨハンが鬼を引っ下げてたのは笑った」
「笑うのかよ」
「笑うだろ」
蓮香は抱きついたまま、くくく、と笑うが男はただ呆れた様子だ。
「私がゼノに要求したのは私を殺した人間以外の、この世界にいる全ての事象から私の他殺に関する全ての痕跡を消す事だ」
事象?
どういう意味だ?
知っているだろうゼノリア神に目をやる。
「詩香はねぇ、とっても弱いけど神継の力を継いでるんだぁ。
だからぁ、あの飾りが少なからずヨハンを鬼から守ってたでしょ?
蓮香は自分の血を継いでいけばぁ、孫やひ孫の代で何かしらの力を顕現させる子ができるかもしれないって考えたんだよぉ。
そのせいでぇ、娘の詩香が何かの拍子に自分の実の父親やぁ、父親のような存在の2人が愛する母親を殺した事を知るかもしれない可能性を考えたんだよぉ。
それを僕と取り引きして潰したんだぁ」
『知らない、人?』
そう母親に聞き返した詩香の顔は意外そうだった。
その後も蓮香の嘘を見抜こうと食い下がっていたが、すぐに話題が変わったな。
「なるほど。
確かに詩香は勘だけは鋭いし、未来のお前の孫やひ孫が何の力も持たないかどうかはわからないからな。
それで、お前は今ゆるキャラの世界に行って何してるんだ?」
ゆるキャラ呼びが定着している?!
「えへへぇ~」
照れている?!
いいのか、神よ?!
「ただ生きてる。
もう研鑽とか、しがらみもない」
「取り引きしたんじゃないのか?」
「うん。
好きに生きるのが取り引きだった」
ぱっと見ると再びエヘヘとだらしなく笑った。
「随分甘い取り引きだな」
「ゼノは朔月大好きだからね」
「お前の事もだろうな。
それでお前は何故こんな事をした?」
「たまたまこっちに夢見を繋げられたから、最期の気がかりの解消」
「相変わらず詩にも娘にも激甘だな」
「愛してるんだから仕方ない」
「ほう、やはりそうか。
詩の方は愛情を受け入れて因果を解消させ、詩香の方は母親のお前が娘の自分に執着を見せずにいた事で発生させた因果も解消したと。
それで結局繋がりを断って自分がギャン泣きしていれば苦労しないな」
忘れないでといった母親に満面の笑みを見せた娘を思い出す。
「ギャン泣きまではしてない。
つらいものは仕方ないだろ」
「素直だな」
「ん····最期、だから」
「それで俺も手放すのか」
「····天馬は····」
言い澱む。
そんな蓮香から少し体を離し、男は顔をのぞきこむ。
「そんな顔をするなら放っておけばいいだろう。
詩も詩香も因果を解消させれば来世で出会う可能性はほぼ無くなる」
「もう········どうせ会わない、から。
因果を解消させなかったのは····私が手放したくなくて、執着したから、だし」
しばしの沈黙を置き、自分を納得させるようようにぽつりと漏らす。
男は両手で手触りの良さそうな頬を包み、恐らく親指で涙を拭ってやった。
「完全に世界を違えたか」
「うん。
ここの神の戻って来いって誘いも断わった」
「ああ、それでか」
男が蓮香に軽く口づける。
「俺との別れがお前を不安定にさせたから、ずっと泣いていたのか」
確信を持ったような言葉に仄暗い嫉妬を覚える。
拠り所より半分を失う方がつらいと言いたいらしい。
「この千年、天馬がいない時が無かった。
見つけてもらえなかった時も、死ぬ瞬間まで希望を持てたのに····。
次は····もう私じゃないけど」
「研鑽が無くなったのなら、不条理な死も必ず起こるとは言えないだろう。
俺ももう必要ない」
一瞬、男の顔が翳った気がする。
「必要ないけど、死ぬまで生きて欲しい」
「なぜ?」
「いつもみたいにすぐに私の後を追わずに天寿を全うして欲しい」
「詩香にお前の寿ぎの欠片を与えたのなら、もう手は離れただろう。
約束通り手が離れるまでは見守った。
何故だ?」
「天馬····」
蓮香は苦しそうに名前を呟く。
「お前のいない世界で生きて何になる?」
「わかってる。
天馬はもう私には半分のような存在だ。
だから····間に合わないならそれも仕方ないと思っていた。
····でも、間に合った」
「やめろ」
静かに、たが意志を持って男は拒絶する。
「やめてくれ」
やがて懇願し、男は蓮香をきつく抱きしめた。
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蓮香も迷っているようだった。
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