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224.金の成る木
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「グレインビル嬢がここに訪れた事で何故察知できたのだ?」
「グレインビル嬢は今や金の成る木。
過激な反王派貴族は金を欲する者が多いのです。
侵略戦争を容認する者もまた然りです」
王子がはっとする。
「私利私欲、というよりは軍事費か」
「はい。
年端もいかない世間知らずな令嬢ならば御しやすいと思われたのでしょう。
どこぞのご息女が信じて疑わなかったように、ご家族の力で商人達と交流を深めた無能で力のない小娘と思われたのでしょうね」
王子が不愉快そうに眉を顰めたのはあの晩餐の事を思い出したからかな。
「特にあの陛下の主催したパーティー。
有意義に観察できました。
故意に近づこうとする者を遠くから観察すれば良かったので」
この発言に背後からの不穏な気配が漂う。
殺気に近い。
シル様かな?
側近は王子の背後に軽く目をやって苦笑した。
「ですが我が国が貴女を利用しようとしたのはその1度きり。
そしてそれはあらかじめお伝えして了承も得ております。
グレインビル嬢はあのパーティーにご出席下さるだけ。
お心のままに陛下を完全に無視して好きなだけお食事を召し上がって下されば良いのだと」
「彼女が無視していたのはそちらの意図があったと?」
「双方の意図でしょうね。
元より王族に関わる事を極端に嫌ってらっしゃる。
しかし陛下はグレインビル嬢に公然として執心されています。
隣国の防衛の要と言われ、我が国の侵攻を長らく阻止し、また魔術師家系で知られるグレインビル侯爵家。
なれど現状世界で唯一、魔力を持たぬ養女に軽く扱われる。
相手方に陛下はさぞや軽く見られたでしょうね」
側近はあの時の収穫を思い出したのか、ほくそ笑む。
「それはグレインビル嬢の礼節も疑われるのではないか」
王子が更に不機嫌そうになったね。
自国の貴族の評判が落ちるのを心配したのかな?
「もちろん本来ならば。
しかし非礼よりも可愛らしくデザートを頬張る様子に、出席者は一様に微笑んでらっしゃいましたよ。
実年齢よりも幼く可愛らしい外見ですし、あの日の装いもよくお似合いでした。
何よりまだ成人はされておられない」
「ああ、なるほど」
待って、僕のあの日の装いのコンセプトはちょっと魅惑的な大人びた美少女だったのに?!
ドレスにフリフリ素材は1つも無かったよ?!
やっぱり身長かな?!
僕の成長期はいつ来るの?!
まだなの?!
王子のドヤ顔が解せない!
はっ、義兄様まで?!
側近もさらに微笑ましい目を追加して僕を見ないでよ!
「会場に配置した料理人達も口々にグレインビル嬢のレシピを称賛しておりましたし、目立ちながらも親しみやすいご令嬢のイメージになりましたからね」
「そちらの思うつぼだったと?」
「さすがにあそこまでは想像しておりませんでしたが、期待を凌駕する結果にはなりましたね」
あれ、側近の目が今度はちょっと残念な何かを見る目になってるのは何故かな。
確かにあの立食形式のパーティは僕が紹介したレシピで色々な種類のデザートを作ってくれたのが嬉しかったんだ。
目の前でサーブしてくれるパティシエさんとお話しも弾んだんだよ。
せっかくだからいっぱいパクついちゃったけど、他の人達だって時間と共に僕の後に続いて並んでたから、目立ってはいなかったはずなのに。
それに僕には義兄様がついてくれてたから、デザート制覇を邪魔しようとする出席者とは話さなくていいように目くらましやプチ転移で躱してひっそりお腹いっぱいになろうとしてたんだ。
うーん、だから躍起になって僕と親交を深めようとする人が悪目立ちしたとかかな?
それともあの翌日以降に接触しようとしたとか?
「それ以外は全て偶然起きた事にすぎません。
しかし陛下も私もグレインビル嬢には害が及ばないよう注意を払っておりました。
あの元王女に関する事だけは古い契約と国家間の関係により思うようにはまいりませんでしたが」
「その割にはザルだったね。
あの宰相との意思疎通がうまくてきてなかったのかな?」
義兄様の凛々しいお声が胸から耳に響いて心地良いな。
何か物語とか朗読して欲しい。
「否定は····致しません。
宰相は陛下の即位そのものに直接関わった者ではありませんし、夫人への個人的な恨みも大きかった。
それに宰相を取り込もうとする勢力もありましたからね」
「夫人と婚約する前の元婚約者が自害したのと関係あるんだっけ?」
「は?!
自害?!」
もしかしたら王子は宰相が婚約者と別れさせられた、とだけしか聞いてなかったのかな?
「彼としても色々な思惑があったんだろうけど、だからって僕の可愛いアリーをそれとなく利用したのは許せないな。
もちろん君達もいくらかは黙認してたよね」
「····左様ですね。
今はまだそれについて具体的には話せませんし、この場にいる主要人物である貴方方それぞれに話す内容を選ばねばならない話もございます」
僕への牽制かな。
まあ確かに宰相のお話から当時の即位に関わるお話に繋がるなら、当時3才の幼児だった僕が動いた事をこの場でベラベラ話されると困るのは僕か。
「私の方はこれ以上を特にお聞きしなくてもかまいませんわ。
そもそも私は他国の一貴族。
それも成人もしていない子供ですもの。
それこそ分を弁えておりましてよ?」
いつぞやの晩餐で彼の主が従妹に使った言葉を使う。
「もちろん何かしら巻き込まれたのは確かなようですから、グレインビル家当主の保護者代理を務めるお兄様にはお話し下さいませ」
「そうだね。
グレインビル家としてはそちらの指定した1週間以内に、こちらに必要な事を話してくれた上で今後の出方を決めるよ」
義兄様が僕の意を汲み取ったかのように終わらせる。
よし、これでこのまま寝られるね。
義兄様、おやすみなさい。
「グレインビル嬢は今や金の成る木。
過激な反王派貴族は金を欲する者が多いのです。
侵略戦争を容認する者もまた然りです」
王子がはっとする。
「私利私欲、というよりは軍事費か」
「はい。
年端もいかない世間知らずな令嬢ならば御しやすいと思われたのでしょう。
どこぞのご息女が信じて疑わなかったように、ご家族の力で商人達と交流を深めた無能で力のない小娘と思われたのでしょうね」
王子が不愉快そうに眉を顰めたのはあの晩餐の事を思い出したからかな。
「特にあの陛下の主催したパーティー。
有意義に観察できました。
故意に近づこうとする者を遠くから観察すれば良かったので」
この発言に背後からの不穏な気配が漂う。
殺気に近い。
シル様かな?
側近は王子の背後に軽く目をやって苦笑した。
「ですが我が国が貴女を利用しようとしたのはその1度きり。
そしてそれはあらかじめお伝えして了承も得ております。
グレインビル嬢はあのパーティーにご出席下さるだけ。
お心のままに陛下を完全に無視して好きなだけお食事を召し上がって下されば良いのだと」
「彼女が無視していたのはそちらの意図があったと?」
「双方の意図でしょうね。
元より王族に関わる事を極端に嫌ってらっしゃる。
しかし陛下はグレインビル嬢に公然として執心されています。
隣国の防衛の要と言われ、我が国の侵攻を長らく阻止し、また魔術師家系で知られるグレインビル侯爵家。
なれど現状世界で唯一、魔力を持たぬ養女に軽く扱われる。
相手方に陛下はさぞや軽く見られたでしょうね」
側近はあの時の収穫を思い出したのか、ほくそ笑む。
「それはグレインビル嬢の礼節も疑われるのではないか」
王子が更に不機嫌そうになったね。
自国の貴族の評判が落ちるのを心配したのかな?
「もちろん本来ならば。
しかし非礼よりも可愛らしくデザートを頬張る様子に、出席者は一様に微笑んでらっしゃいましたよ。
実年齢よりも幼く可愛らしい外見ですし、あの日の装いもよくお似合いでした。
何よりまだ成人はされておられない」
「ああ、なるほど」
待って、僕のあの日の装いのコンセプトはちょっと魅惑的な大人びた美少女だったのに?!
ドレスにフリフリ素材は1つも無かったよ?!
やっぱり身長かな?!
僕の成長期はいつ来るの?!
まだなの?!
王子のドヤ顔が解せない!
はっ、義兄様まで?!
側近もさらに微笑ましい目を追加して僕を見ないでよ!
「会場に配置した料理人達も口々にグレインビル嬢のレシピを称賛しておりましたし、目立ちながらも親しみやすいご令嬢のイメージになりましたからね」
「そちらの思うつぼだったと?」
「さすがにあそこまでは想像しておりませんでしたが、期待を凌駕する結果にはなりましたね」
あれ、側近の目が今度はちょっと残念な何かを見る目になってるのは何故かな。
確かにあの立食形式のパーティは僕が紹介したレシピで色々な種類のデザートを作ってくれたのが嬉しかったんだ。
目の前でサーブしてくれるパティシエさんとお話しも弾んだんだよ。
せっかくだからいっぱいパクついちゃったけど、他の人達だって時間と共に僕の後に続いて並んでたから、目立ってはいなかったはずなのに。
それに僕には義兄様がついてくれてたから、デザート制覇を邪魔しようとする出席者とは話さなくていいように目くらましやプチ転移で躱してひっそりお腹いっぱいになろうとしてたんだ。
うーん、だから躍起になって僕と親交を深めようとする人が悪目立ちしたとかかな?
それともあの翌日以降に接触しようとしたとか?
「それ以外は全て偶然起きた事にすぎません。
しかし陛下も私もグレインビル嬢には害が及ばないよう注意を払っておりました。
あの元王女に関する事だけは古い契約と国家間の関係により思うようにはまいりませんでしたが」
「その割にはザルだったね。
あの宰相との意思疎通がうまくてきてなかったのかな?」
義兄様の凛々しいお声が胸から耳に響いて心地良いな。
何か物語とか朗読して欲しい。
「否定は····致しません。
宰相は陛下の即位そのものに直接関わった者ではありませんし、夫人への個人的な恨みも大きかった。
それに宰相を取り込もうとする勢力もありましたからね」
「夫人と婚約する前の元婚約者が自害したのと関係あるんだっけ?」
「は?!
自害?!」
もしかしたら王子は宰相が婚約者と別れさせられた、とだけしか聞いてなかったのかな?
「彼としても色々な思惑があったんだろうけど、だからって僕の可愛いアリーをそれとなく利用したのは許せないな。
もちろん君達もいくらかは黙認してたよね」
「····左様ですね。
今はまだそれについて具体的には話せませんし、この場にいる主要人物である貴方方それぞれに話す内容を選ばねばならない話もございます」
僕への牽制かな。
まあ確かに宰相のお話から当時の即位に関わるお話に繋がるなら、当時3才の幼児だった僕が動いた事をこの場でベラベラ話されると困るのは僕か。
「私の方はこれ以上を特にお聞きしなくてもかまいませんわ。
そもそも私は他国の一貴族。
それも成人もしていない子供ですもの。
それこそ分を弁えておりましてよ?」
いつぞやの晩餐で彼の主が従妹に使った言葉を使う。
「もちろん何かしら巻き込まれたのは確かなようですから、グレインビル家当主の保護者代理を務めるお兄様にはお話し下さいませ」
「そうだね。
グレインビル家としてはそちらの指定した1週間以内に、こちらに必要な事を話してくれた上で今後の出方を決めるよ」
義兄様が僕の意を汲み取ったかのように終わらせる。
よし、これでこのまま寝られるね。
義兄様、おやすみなさい。
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