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261.手術の意思確認

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「大公、聞こえるか?」

 バルトス義兄様が、薄暗い部屋で眠るどこぞの大公に静かに声をかける。
大公の呼吸は浅く、その頻度も多い。

 僕は相変わらずのムササビボディで義兄様の襟元からぴょこんと顔を出してる。

「ラスティン?」

 どこぞの国王も双子の兄を気遣わしげに呼ぶ。

 時刻は早朝。
昨日はあれから滞在に必要なお話をして、深夜にお開きになった。

 といっても僕は素敵なお腹ベッドで夢現だったから、アドライド国王太子の突撃訪問の後始末の着地地点がどうなったか詳しくは知らないんだ。

 僕が大公の元に行くのは秘密にしておきたかったから、不測の事態に備えてレイヤード義兄様はお部屋に待機してくれてる。
もし自国の王族達がお部屋に来たら、すぐに転移で僕達を迎えに来てくれるよ。

 バルトス義兄様はまだこのお城の構造を良くは知らないからね。
渋るレイヤード義兄様がご所望したイタチボディにこの後变化して、細長い体とつるっとした毛を堪能してもらうんだ。

 昨日から何だかイライラしてるみたいだから、アニマルセラピーだよ。

 このお部屋に来る前にまずはレイヤード義兄様に国王のお部屋に転移で送ってもらった。

 ムササビの小さい手でオデコをベシベシ叩いたら飛び起きたんだけど、その後何て言ったと思う?!

『夜這いか、大歓迎だぞ』

 思わずポンチョポッケの《バッチ来い電撃君(改)》を起動しそうになったよ。
ニーアが毛糸ポンチョにポッケをつけてくれてるんだからね!

 レイヤード義兄様が枕に雷、バルトス義兄様が布団を凍らせてくれたから思い止まったけど。

 それから僕とバルトス義兄様は国王の転移で来たから、今は大公付きの侍女に変わってるマーサ以外にはバレてない。

 今はギディアス王太子と弟のルドルフ王子が同室で休んでる。
アドライド国から王子付きとして連れて来た護衛の人数的な関係と、一応秘密裏の訪問扱いにするのに同室の方が都合がいいらしいよ。

 お話し合いが深夜に及んだのと、今回の転移で王太子が魔力をかなり消費したのもあって、大事をとって夕方くらいまでは王子と一緒に部屋で休む事になってるって言ってた。

 バルトス義兄様は僕達兄妹のたっての希望から、当然僕と同室。
余談だけど、昨夜はもうかなりの何年ぶりかで僕を挟んで川の字になって3人で一緒に眠ったんだ。
広いベッドで良かった。

 目が覚めてご尊顔が2つ僕の目に飛びこんで来たからニマニマしちゃった。
義妹の特権だよね。
義父様もいれば良かったな。
早く帰りたい。

 まあそのお陰で僕の精神状態はすこぶる安定してる。
機嫌もかなり良いよ。

「ラスティン、聞こえているならさっさと目を開けてくれないかな」

 しばらく待ってみたけど反応がないから、義兄様が軽く体を揺するのに合わせて命令してみる。

 ここには今、バルトス義兄様と僕、そして国王であるエヴィンしかいない。
僕が彼らに対して上から発言しても誰も咎めない。

「····やあ····グレインビル嬢。
本当に····ムササビに····なれるんだ、ね」

 目を閉じていた大公がレモン色の目をゆっくりと開いて掠れた声を発する。
もちろん僕は依然としてムササビボディだ。
バルトス義兄様の襟元から顔を出して様子を窺っている。

 ラスティンの声には力が無く、少し話すだけでも体力を削られて苦しそうに息継ぎをしている。

 食事もほとんど取れていない状態が続いているせいで彼の頬は痩けているし、腕の筋肉も細ってしまった。

 襟元から逞しい肩に伝って、彼の枕元に飛び降りる。
そのまま彼の布団に潜って大公の胸の上にムササビ耳を当てて心音を聞き、もそもそと布団の中で体の様子をチェックしていく。

 ムササビは夜行性だからか暗がりでも見えて便利だよね。

「ちっ。
俺の天使を布団に引きこむとはいい度胸だ」
「いや、普通に布団をはぐれば良かっただけだろう」
「早朝の気温差は最低限にしたいだけだよ」

 この部屋には暖炉もあるし、温かい。
けれど弱りきった大公の体と今すぐどうこうできない状況を考えれば、細心の注意はしておいた方が良い。

「そうかよ。
それで、どうなんだ?」
「んー、死にかけだよね。
これ、もつかなあ?」
「ふふ····本人を前に····ひどい、な」

 僕の明け透けな発言に当人であるラスティンは思わず吹き出す。

「君相手に包み隠して言っても無意味でしょ。
それに今から君に意思確認しなきゃいけないし、状況は正確に告げるべきじゃない?」
「····そう、だね」

 僕が何を言いたいかを察したらしくていくらか痩けたお顔が引き締まる。

 弟であるエヴィンも同じように精悍なお顔を引き締めた。

 僕は義兄様のお胸にダイブして再び服の中に入ってからお顔だけ出す。

「ラスティン、改めて聞く。
まず君が助かるには手術で胸を切り開いて直接心臓を切って処置する必要がある。
その為の前準備が必要だし、手術できる者を呼び出す為には僕の体調も整えなきゃいけない。
早くて3週間後かな。
そして手術の際に君の心臓は絶対に1度止まる。
加えてここまで衰弱した状態では手術中に死ぬ可能性も高い。
仮に手術する為に胸や心臓を切り開いたとしても、実際の君の心臓の状態によっては何もせずに閉じてしまう可能性もある。
その場合、君はもって数週間で死ぬ。
仮に手術しないなら、恐らく君はこの冬が終わる頃までなら生きられるかもしれない。
君はどうしたい?」

 静かに告げる僕に、静かに粛々と言葉を受け止めるラスティン。

「ちょ、待て。
胸を切り開いて直接心臓をって、聞いた事ねえぞ?!
しかも結局····ラスティンを殺すって事じゃねえのか?!」

 対してエヴィンの方が動揺を見せた。
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