秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子

文字の大きさ
286 / 491
7―2

285.天使に荒療治〜ヘルトside

しおりを挟む
「それでは魔法誓約書を見せてもらおう」
「ここに」

 そう言って国王と大公夫妻の魔法誓約書を差し出す。
全てにそれぞれの祝福名込みの名前と血判がなされている。
手術に関する秘密保持の誓約書だ。

 胸ポケットから万年筆を取り出し、私の名前を署名して風魔法で人差し指の先を少し切って血判をその書類全てに押して了承の言葉と共に誓約を締結させる。

 レイヤードの方にスライドさせると、私の意を組んで自分の腰に下げたマジックバックに収納した。

「ん····」

 不意に腕に抱えた可愛い娘が身じろぎする。

 切った指を治して血を洗浄魔法で同時に消す。
その手で再び背中をとんとんしてやれば、ふにゃりと年相応の微笑みを浮かべて胸に頬をすり寄せ、再び微睡み始めた。

 可愛すぎてうちの子、やっぱりもう天使で確定だな。

 顔立ちも優しげで将来絶対美人になるし、面倒見も良い方だ。
天使として申し分ない。

 しかし父親だからわかってもいる。

 この子の本性は何かしらの心を寄せない限り本来は情がなく、冷たい。
他者との利害関係は己の中で明確にあり、息をするように他者を駒として扱う。

 しかし冷たいが、根は素直で他者にも最低限の優しさを持とうとはしている。
それが誰の為なのかは知らないが、娘にとって大切な誰かの為なのだろう。

 ココが亡くなってからこの子はミレーネ以外を心の内側には絶対に招き入れない。
いや、かなりすんなりと最初から義妹を妹として受け入れていたバルトスに対しては少しばかり違うか。

 ホームシックが過ぎて泣きついたのがバルトスだったのはショックだったが、納得もしている。
それは、まあいい。

 上手く使い分けて簡単にはわからないようにしているが、どこかで私達を義父、義兄と線引きしているふしがあり、恐らくそれは息子達も気づいている。
共に長く家族として生きている。
わからないはずもない。

 私達に心を砕くのはミレーネの夫と息子だからだ。
それでも私達がこの子の中で特別な位置づけなのも間違いない。

 そしてココの死後、護衛を兼ねる専属侍女を側に置くのだけは断固として拒絶し続けた。
無理に置けば一切の食を放棄して命をかけて無言の抵抗をし続けたくらい頑固だ。

 たまたまうっかり娘が拾ってきた竜人のニーアが私達もドン引きするくらい娘につき纏い、拾った以上最後まで世話をしなさいと家族総出で諭してようやく娘が折れ、専属侍女の座を獲得するまでそれは続いた。

 私達の家柄か、私の立場上か性格上か、それとも娘の体質上か、もしくはその全ての理由のせいで狙われる娘を前に3、4歳の幼児が頑固過ぎないかと、あの頃は本気で頭を悩ませた。

 しかも愛馬のポニーちゃんを贈ってからは更に活動範囲が広がったものだから、流石に胃が重くなった。

 しかし最愛の妻にしてこの子の母親であるミレーネだけは、昔から傷つきやすくて筋金入りの頑固者だから仕方ないわと懐かしそうに笑っていた。

 出会った頃から彼女にとって特別な名前なのだと聞いていたアリリアにちなんだ名前。

 私の妻、ミレーネは実の娘にも名づけなかったそれをいくら調べても素性がわからなかった捨て子らしき子供に与え、人によっては不気味に思うだろう魔力0で当時は感情も表情も乏しかったこの子の事を妙に理解していた。

 そこには私も入りこめない何かしらの絆がこの2人に見え隠れしたが、不思議と嫌ではなかった。

 ちなみにルナチェリアの名はミレーネからルナという文字を入れて欲しいとの願いも考慮して私が名付けている。

 祝福名はビーナスカイ。
ルナチェリア=ビーナスカイ=グレインビル。
あまりにも幼くして亡くした愛娘の正式な名だ。

 ルナの眠る墓の周りは色とりどりの花が絶えず咲いている。
ミレーネがそこで眠るようになってからも花が絶えた事はない。

 全てアリアチェリーナの、私のもう1人の愛娘が何かしらの花を植えたり、生けたりするからだ。

 時々新種の花で人面ぽいのや昆虫を取り込むのが混ざっているが、見なかった事にしている。

 だがあの懐中時計がこの子の手元に来た時から、娘は胸の内の何かしらの葛藤にどこか苛ついていた。
冷たいが、根は素直だった部分が少なからず歪になり、他者への最低限の優しさを持つ事にどこか罪悪感を感じつつあるように見えた。

 それは息子達も感じていたようで、王宮魔術師団の寮で過ごすバルトスも、学校を卒業して冒険者となったレイヤードも時間を見つけては妹の顔を見に帰っていた。

 それでも懐中時計を手にぼんやりする事が増えてきたのは、中の人工精霊石の寿命が間近に迫っていたからだろう。

 娘にとってその精霊石に宿る人工精霊はずっと探している何者かと繋がっているらしく、そのどちらもがいつ消えてしまうかわからないだけに、気が気ではなかったようだ。
子供らしからぬほどに感情の波が少ないこの子が少しずつ歪んで不安定になっていく。

 その様を見ているのは私達家族も落ち着かず、ほんの僅かでも娘の心が救われるきっかけはないものかと考えていた。

 その矢先だ。

 目の前のこの男がロリコンの求婚の書状を持ってやって来たのは。
もちろん中をチラ見した瞬間に燃やした。

 ココの死に関わった1人である大公、正確にはヒュイルグ国王達だが、娘が明確な嫌悪を表に出すのは3歳のあの頃と変わらなかった。

 そしてこいつがわざわざうちの邸で倒れ、娘の気を引く為に連れてきていたらしいチビ害獣達がうちの娘に泣きながら助けを求め、その様子を見た時に思いついた。

 そうだ、天使に荒療治をしてみよう。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる―― ※他サイトでも掲載しています ※ちょいちょい手直ししていってます 2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

元社畜悪役令嬢、辺境のボロ城を全自動ボタニカル美容スパに大改造して引きこもる ~前世コスメで冷徹公爵を完治させたら溺愛されました~

季未
恋愛
「貴様のような悪逆非道な女は、極寒の辺境へ追放だ!」 建国記念の夜会で王太子から婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢シャルロッテ。 しかし、彼女の中身は前世でブラック企業に殺された過労で過労死したマーケターだった! (激務の王妃ルート回避!? しかも辺境は誰にも邪魔されないブルーオーシャン! 最高のフリーランス生活の始まりじゃない!) 理不尽な追放を究極のホワイト・スローライフへのパスポートだと歓喜した彼女は、あてがわれた辺境のボロ城を、前世の「DIY・スマートホーム知識」と「土・水魔法」を駆使して爆速で大改造! 隙間風の吹く部屋は、一瞬で「床暖房完備の全自動温水スパ」へ。 辺境に自生する雑草からは「極上ボタニカルコスメ」を開発し、自らも絶世の美女へと変貌していく。 さらに「お前には干渉しない」と白い結婚を突きつけてきたはずの、呪いで顔に火傷を負った氷の公爵に特製マッサージと美肌治療を施したところ……。 「お前が作ったこの空間と、お前自身が……俺のすべてだ」 冷徹だったはずの公爵様が、極上の癒やし空間と彼女の手技で完全に骨抜きにされ、異常なまでの過保護・溺愛モードに突入!? 現代マーケティングと美容チートで辺境を超高級スマート・リゾートへと再生させ、かつて自分を追放した王太子たちを大後悔させる! 爽快&極甘な、異世界リゾート経営×溺愛ファンタジー、堂々開幕!

処理中です...