秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子

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287.貴族、辞めるか?〜ヘルトside

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『えっ、と····内密の、依頼?』

 通信用の魔具から聞こえる娘の戸惑いの声。
当然だ。

「握り潰そうかと思ったけど、お前も私も貴族だからね。
一応伝えはするけど、断るよ」

 娘本人が清々しいほどに嫌う連中の側にいても、結局何も解消されないのならこれ以上の滞在は無駄だ。

 それに冬が来る。
入国した時は体調が落ち着いていたとはいえ、最北の地であるヒュイルグ国の冬はうちの領より厳しい。

 何かしらの合間に微熱を出すのが普段通りと言えるほど体が弱いこの子には辛いだろう。

 娘も当初の目的を果たして帰りたがっていた。

 アドライド国では婚約の打診扱いにすり替わっていた婚姻の打診については、ロリコン野郎も娘の意向を尊重すると少し前に書簡を送ってきた。

 ヒュイルグ国にしっかり恩を売り、禍根を残す事なく話そのものを無かった事にしたうちの子の手腕はやはり素晴らしい。

 もちろん娘はグレインビル領からココのような犠牲者を2度と生まない為にした事だ。
この国に何かがあれば、真っ先に影響を受けるのはうちの領だからな。

 ロリコン野郎の惚れた弱みもあるだろうが、そんなのは知らん。
打診の取り消しではなく、娘の意向を尊重するとした所にあの女々しさを感じるが、始まりを間違えたのはお前だ。
死ぬまで恋煩いでもしていろ。

 うちの子は可愛いからな。
世の野郎共が恋煩いをしてしまうのは私でも止められないさ。

 そろそろ帰る頃合いかと思っていた矢先に、あの王子の親善外交について内々に依頼がきた。

 可愛い私の娘に無意識にだろうと色目を使うような、空気も読めない馬鹿野郎のフォローを約1か月もして欲しいとは何事だ。

 そもそもこんな時期の王子の渡航など、本来はあり得ない。
最北の国と呼ばれるヒュイルグ国は1ヶ月もすれば冬に閉ざされ、数ヶ月は帰国できなくなる。

 空気よりも他国の従来の気象状況くらい読んでおけ。

 まさかまだお前達の息子達との婚約を諦めていないのか、と国王と宰相の胸倉を掴んで揺すってやろうかと殺意が湧く。

 だが腐ってもアドライド国王は狸だ。
学生時代からあの狸は抜け目がない。

 ミレーネの学友だった王妃は普通だ。
王妃としての器も申し分ないが、それでも普通だ。

 息子の1人であるあの王太子も先が楽しみな逸材なのは認める。
何十年という長い年月をかけて王として君臨し続けていれば、今の狸のような賢王と呼ばれる王達と肩を並べられるだろう。

 そして、それがからの狸だった。
今の平和ボケした世代とは気質が全く違う。
賢王と呼ばれ、時折お茶目な一面を垣間見せ、家族や臣下を大事にする親しみやすい王。

 だがアレは王らしい王だ。
内外の何かしらの陰謀、策謀、紛争、戦争を表面化する前に潰して今なお玉座に座り続ける王だ。
全てが仮面ではないが、しかし素顔は滅多に晒さない。

 何となく、うちの可愛い娘に気質が似ている。
それはそれで嫌だ。

 しかし、だからこそわかる。
狸もうちの子も、理由なくつまらない小細工はしない。

 依頼が来てすぐに第2王子に関わる情報を時系列に脳内で精査し、息子達の通っていた学園の情報を改めて集め直す。

 帰国の時期を考えれば、狸達は学園から王子を遠ざけたいのではないだろうかと思い当たった。
王子はこの春に卒業する予定だ。
帰国してすぐに卒業式となるだろう。

 それにあの誘拐犯達の背後にいると考えられるあの国。

 誘拐犯達の足どり。

 集めた情報が繋がり、線になり····よし、絶対断ろう。

 そう考えて娘に話したのに、だ。

『いいよ』
「····ん?
可愛いアリー?
今、何て?」

 一瞬娘の言葉が理解できなかった。
もしや、呆けていたのか?
年かな?

『その依頼、受けてもいいよ?』

 呆けてなかったみたいだ。

「可愛いアリー、どうしてか理由を聞いても?」
『んー、まあ、アドライド国王からの依頼、だし?』

 何となく、言い淀んでないか?
何かに気づいてわざとらしくはぐらかしてやしないだろうか?

 うちの子頭良すぎるからな。
可能性は十分あり得る。

「そうだが、お前はまだ未成年なんだ。
断っても問題ないさ」

 でも父様は嫌だ。

 明らかに他の令嬢達とは違う目で見つめたりする思春期真っ只中の野獣なんかとひとつ屋根の城の下で何ヶ月も一緒に過ごすとか、父様は嫌だ。

 大事な事だから何度でも言う。

『でもほら、一応貴族だし。
本来なら学園に通い始める準成人だもの。
それにアドライド国が大河を挟んだ諸国の中でもヒュイルグ国と仲良くするのは悪くない話だよ』

 その後も何度か押し問答となったが、王子の補助という余計な仕事を増やされれば私達が望む感情の爆発もあり得るかと思い直し、グレインビル侯爵家として依頼を受けた。

 後で娘に怒られても、お馬さん3兄妹と渡航の際に娘が断固拒否した専属侍女であるニーアは必ず出向させようと心に誓った。

 それからほどなくして私の期待はある意味実現し、ある意味裏切られる事となる。

『アリーが拐われて怪我をした。
ごめん、父上。
守るって約束したのに。
熱も高いから暫くは目を離せなくなる」

 頭を殴られたかのような衝撃を受けた。
かといって状況を聞けば息子を責める気にもならない。

 勿論すぐに駆けつけようとした。
バルトスも同じだっただろう。

 だが結果は散々だった。
貴族、辞めるか?

 バルトスは休暇届を受理されず、今の職を辞す方に舵を切ろうと考えたようだ。

 私も同じく領主家業を辞して身軽な平民にでもなろうかと半ば本気で書類整理を始める。
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