秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子

文字の大きさ
297 / 491
7―2

296.帰国後と書庫の絵本〜ギディアスside

しおりを挟む
「あった、これだ」

 麗らかな陽気が差し込む王宮の一角。
ここは王族のみ立ち入りを許された書庫だ。
禁書スペースとは違って王族なら誰でも立ち入れる。

 行きと違って正規のルートと正規の方法でヒュイルグ国から帰国して、早くも1ヶ月が経ってしまった。
来月の終わりには弟のルドルフの卒業式が差し迫っている。

 本当ならすぐにでも来たかったけれど、そうしなかった、というか、そうできなかった理由はいくつかある。

 まずは帰国してから直接父上からお叱りを受けた。

 予想していた事だ。
通信だけでは足りなかったのか、なんてもちろん言わない。
返す言葉もなく、粛々と注意という名の小言を食らってその日は終わった。

 そもそもが私からすると不可抗力だけれど、赤髪の男の件は伏せておきたかった。
間違いなくあの高位精霊らしき赤髪の男のせいだけど、貴重な経験が出来たとも言えるし、そもそもの存在が精霊だ。
責められない。

 だからグレインビルの長男バルトスと共に、魔力の共振を使って転移をする実験をしてみたら、たまたま、ついうっかりヒュイルグ国王宮へと転移してしまった体にした。
どちらかというと、ごり押しした。

 先にグレインビル侯爵と協議の上で結ばれていた約束があって助かったよ。

 もしもヒュイルグ国にいるグレインビル侯爵家の子息と令嬢が、父である侯爵か兄であるバルトスに何らかの助けを求めた場合、2人のどちらかがかけつけ、その際に起きる何らの混乱の責も問わない事、だったかな。

 そもそも混乱起きるの前提で約束しているのもどうか、というツッコミは一時期あった被り物が無い父の頭に免じて、入れないでおこう。

 隣国とはいえ国家間を転移魔法で移動した手前、魔力を枯渇しかけてヤバい状態を装うのも一苦労だった。
何せまだぎりぎり余力があるのに、魔力の枯渇した演技なんて難しい。

 実際に枯渇すれば冷や汗をかいて立ってすらいられない。
魔力を回復するのに最低でも数日は寝たきり状態になるのも仕方ないくらいに衰弱する。
演技の枠を越えているよね。

 ヒュイルグ国の国王とその側近が赤髪の男の事を知っていて、彼ならやりかねないのを理解してくれていたのも彼らの協力に一役買ったみたいだ。
絶対過去に赤髪の男と何かしらあったんだろうな、というのは言わないでおいたよ。

 2人のあの死んだ魚のような目と、あまりにもやけに同情的な顔がむしろ怖かったのは秘密だ。

 グレインビル侯爵との協議がここでも助けてくれたし、国王の想い人であるアリー嬢の口添えも大きかったかもしれない。

 もちろん数日は弟のルドルフの部屋で魔力枯渇を装いつつ、護衛のシルヴァイト=ルーベンスからも説教を食らいつつ、裏工作と2国間の調整に励んだ。

 そんなわけで帰国後はすぐに迷惑をかけた関係各所にお詫びとお礼に回った。

 そして1番の難関····溜まりに溜まった王太子の仕事!

 数ヶ月ぶりに執務室に入ろうとドアを開けて、再び閉めたよ。
そのまま自室に戻ろうかとしたところで、仕事を押しつけていた側近達が文官とは思えない瞬発力で中から飛び出してきた。
泣きつかれて渋々入った。

 流石に今回は申し訳ない事をした自覚はあるからね。

 もちろん急ぎの仕事はヒュイルグ国から側近達と連絡を取り合いながら片づけていたよ。

 だから、まさか、自分の執務机が天高く積まれた書類でもはや机の機能を発揮しない状態になっていたり、床の上にも書類の塔がいくつも出来上がっているだなんて事態は想定しきれていなかった。

 もちろん本当に急ぎの仕事は父上の方にも回してくれていたけど····という事は、だ。

 急ぎではない面倒な仕事が丸々残っているって事なんだよ。
主に政策関連でのお金と人の調整だけど、学園の報告書も混ざっていたし、本当に色々面倒。

 ここら辺は常にある程度の采配で毎日動かしていたから、これまでは問題なく自分時間の確保ができていたんだけど、これが数ヶ月溜まった状態を目の当たりにすると逃げたくなる。

 私の仕事って思ってた以上に多かったんじゃないかな?!

 そして、やけに角ばった上質の紙や装飾に彩られた厚めの台紙でできた塔の1つ。

 見合いの釣り書の塔。

 もう転移で逃げていいかな?
一応今後は魔力の共振を試したり、転移魔法の乱用は禁止されたんだけど、非常事態って事にならない?

 あ、側近達の泣きの顔がやばいな。

 幸いにも台紙で厚みがあるからね。
見た目よりも数は少ないのが救いだと思う事にするよ。

 そしてできる側近達との書類捌きという実労働という共闘を行う事、1ヶ月。

 本来の仕事をこなしながら溜まった仕事を消化するのは本当に大変だった。
寝る間も惜しんで仕事に打ち込んだ。

 ついでに卒業間近のルドルフにも手伝わせた。

 卒業試験が、冒険者の昇格が、なんて言ってたけど無視した。
大丈夫、うちの子はできる子だ。
転移魔法も短距離なら安定して使えるようになった。
兄は声援だけは常にしている。

 そして隈が定着しそうになりながらも、やっと少しだけ時間が取れたのが、今。

 手にしているのは、黒い布張りの表紙で薄い本。
保存魔法がかかっていないらしく、経年劣化でどことなく白茶けて擦り切れている。

 題名も思い出せなかった、孤王こおうについて書かれたあの絵本だ。

 ずらりと並ぶ数々の本の中から記憶を頼りに探して手にした本に、そもそも題名は無かった。

 片手で持ってそっと開けば、この絵本を初めて見た日の事も、本の内容も突然思い出した。

 漠然と覚えていた通り、この絵本は人の世にいにしえより存在する比類なき王について書かれていた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

元社畜悪役令嬢、辺境のボロ城を全自動ボタニカル美容スパに大改造して引きこもる ~前世コスメで冷徹公爵を完治させたら溺愛されました~

季未
恋愛
「貴様のような悪逆非道な女は、極寒の辺境へ追放だ!」 建国記念の夜会で王太子から婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢シャルロッテ。 しかし、彼女の中身は前世でブラック企業に殺された過労で過労死したマーケターだった! (激務の王妃ルート回避!? しかも辺境は誰にも邪魔されないブルーオーシャン! 最高のフリーランス生活の始まりじゃない!) 理不尽な追放を究極のホワイト・スローライフへのパスポートだと歓喜した彼女は、あてがわれた辺境のボロ城を、前世の「DIY・スマートホーム知識」と「土・水魔法」を駆使して爆速で大改造! 隙間風の吹く部屋は、一瞬で「床暖房完備の全自動温水スパ」へ。 辺境に自生する雑草からは「極上ボタニカルコスメ」を開発し、自らも絶世の美女へと変貌していく。 さらに「お前には干渉しない」と白い結婚を突きつけてきたはずの、呪いで顔に火傷を負った氷の公爵に特製マッサージと美肌治療を施したところ……。 「お前が作ったこの空間と、お前自身が……俺のすべてだ」 冷徹だったはずの公爵様が、極上の癒やし空間と彼女の手技で完全に骨抜きにされ、異常なまでの過保護・溺愛モードに突入!? 現代マーケティングと美容チートで辺境を超高級スマート・リゾートへと再生させ、かつて自分を追放した王太子たちを大後悔させる! 爽快&極甘な、異世界リゾート経営×溺愛ファンタジー、堂々開幕!

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...