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368.専属侍女の真名の誓い
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『身内として引き会わせるのは現状これが最後だっていうのと、守秘義務については改めて意思確認してくれた?』
あの2人がジャガンダ国の女官としてこの国に来た以上、そこらへんの確認も自己管理もこれまで以上に徹底してないと····多分ジャガンダ国の誰かに言葉そのままの意味で殺られかねない。
あの国の人達の1番の逆鱗は不義理を働く事だからね。
『もちろんです。
ですがそうするまでもなく、皆様理解しておられました』
『うん、それならいいんだ』
まあ向こうの2人はカイヤさんが徹底して仕込んでくれたし、こっちの2人は仮にも公爵家の次期当主と、隣国の王太子になるかもしれない王子の側近になろうとしてる人達だもの。
ちゃんとわかってるはずだ。
「お嬢様、霧が急に出てきております。
足元に注意して、傍を離れ過ぎないで下さいね」
今朝のセバスチャンとの会話を思い出しながらもきょろきょろしていれば、ニーアから注意を促されてしまう。
僕と少し距離を置いて、草木をかき分け踏みつけては地ならししているニーアの言う通りだ。
上を見上げれば空には雲がかかって霧が出てきてる。
山の天気は変わりやすいのか周りの湿度が少し上がったみたい。
という事は、この環境ならお目当ての食虫植物が生息する可能性は高いよね。
よし、気を引き締めて····はっ!
「あ、ほら、あのちょっと下り坂になってるとこ!
あのお花が群生してる!」
引き締めようとは思ってたんだけど、視線をニーアに戻そうとしたらお目当ての食虫植物が共生しているらしい花を見つけてしまった!
で、考え事もしてたのがいけなかったのか、うっかりテンションが上がったのがいけなかったのか····。
霧で視界が一瞬隠れてしまったのもいけなかったのかな?
ニーアが地ならししてなかった草の茂みに一歩踏み出して····。
「うわわ!」
「はっ、お嬢様!」
嘘、地面がない?!
そこだけ穴が空いてるとか、どういう事ぉぉぉ?!
細い木を思わず掴んだ甲斐もなく、湿度が上がったのも手伝って体重を支えられずにつるりと滑り、即座に落下する。
僕達の周りを霧が覆ったせいかニーアの反応が遅れて、僕に差し出された手も空振りした。
「ちょっ、ニーア?!」
と、思ったらニーアが僕の方に飛んできてしまう。
「何、を、して、る、の?!」
「喋ると舌を噛みますよ」
ニーアはそのまま空中で僕を抱え、重力なんかお構いなしで突き出た先の尖った枝を避け、岩の小さな出っ張りなんかを器用に踏みつけて落下の勢いを殺しながら下に着地した。
ちなみに僕の言葉が途切れ途切れだったのは、踏みつけた時の衝撃のせい。
ちょっと心臓がバクバクしてる。
「お怪我は?」
「····うん、無いよ。
無いけど、視界も悪いのに一緒に飛び込んでニーアに何かあったらどうするの?!」
そのせいか、つい声を荒らげてしまう。
「申し訳ございません。
しかし私は護衛も兼ねた専属侍女。
指を咥えてお嬢様があまりにも無防備に落ちるのは承服しかねます」
けれどニーアの言う事は正しい。
それに彼女はA級の冒険者だから、状況判断だってきっと正しい。
上を見上げれば、ここは陥没穴だとわかる。
落ちた先にはどこかに抜けているかもしれない道がこの場所を起点にしたかのように、3方向へ延びている。
ちょうど分岐点になってて、脆くなってた天井に穴が空いたって感じかな?
かなりの高さから落ちたけれど、ここは魔法の世界だ。
ニーアの身体能力も高いから、何のトラップもないただの穴に落ちただけなら問題はない。
けど····そんなの結果論じゃないか。
また僕の専属侍女に何かあったらと思うと、ニーアは悪くないのに責める口調になってしまう。
「僕の不注意だったし、それはとっても申し訳ないけど、ニーアが怪我するかもしれないのは駄目じゃない?!」
「申し訳ありません。
ですがお嬢様は護衛対象なのです。
それにお嬢様」
ニーアがあえて強めの口調で僕を呼んで一呼吸置く。
「私はお嬢様との約束は違えません。
その為に常に鍛えております」
「········わかってるよ、そんなの」
ニーアは元々は他国からこの国に流れてきた竜人の流民で、その時は特殊な魔法に縛られててほぼ奴隷落ちみたいな状態だった。
ほぼって何だっていうのは、また機会があればね。
まあその時に縁があってたまたま助けたら、押しかけ女房ならぬ、押しかけ専属侍女になってしまった。
どれだけ拒絶してもずっとつき纏ってきて、寝ても起きても、何ならトイレから出てきても、常に3歩離れた場所に無言で立ってた。
言っておくけどリアルにそんなの日常で継続的におきてたら、ちょっとホラーだからね。
じわじわくる特有の怖さがあるやつだからね。
そのうち僕の家族もニーアを専属侍女にしようと応援し始めて、僕の分が悪過ぎる状況もあってそのまま押し切られた。
「主と定めたお嬢様ではなく、己の命を優先させる事。
常に肝に命じております」
「········わかってるもの」
だけどココの一件があって、どうしても僕の為に命をかけるような事だけは受け入れられなかった。
だから竜人の本質を現すとされてる真名の方でそう誓わせたのは····他ならぬ僕だ。
あの2人がジャガンダ国の女官としてこの国に来た以上、そこらへんの確認も自己管理もこれまで以上に徹底してないと····多分ジャガンダ国の誰かに言葉そのままの意味で殺られかねない。
あの国の人達の1番の逆鱗は不義理を働く事だからね。
『もちろんです。
ですがそうするまでもなく、皆様理解しておられました』
『うん、それならいいんだ』
まあ向こうの2人はカイヤさんが徹底して仕込んでくれたし、こっちの2人は仮にも公爵家の次期当主と、隣国の王太子になるかもしれない王子の側近になろうとしてる人達だもの。
ちゃんとわかってるはずだ。
「お嬢様、霧が急に出てきております。
足元に注意して、傍を離れ過ぎないで下さいね」
今朝のセバスチャンとの会話を思い出しながらもきょろきょろしていれば、ニーアから注意を促されてしまう。
僕と少し距離を置いて、草木をかき分け踏みつけては地ならししているニーアの言う通りだ。
上を見上げれば空には雲がかかって霧が出てきてる。
山の天気は変わりやすいのか周りの湿度が少し上がったみたい。
という事は、この環境ならお目当ての食虫植物が生息する可能性は高いよね。
よし、気を引き締めて····はっ!
「あ、ほら、あのちょっと下り坂になってるとこ!
あのお花が群生してる!」
引き締めようとは思ってたんだけど、視線をニーアに戻そうとしたらお目当ての食虫植物が共生しているらしい花を見つけてしまった!
で、考え事もしてたのがいけなかったのか、うっかりテンションが上がったのがいけなかったのか····。
霧で視界が一瞬隠れてしまったのもいけなかったのかな?
ニーアが地ならししてなかった草の茂みに一歩踏み出して····。
「うわわ!」
「はっ、お嬢様!」
嘘、地面がない?!
そこだけ穴が空いてるとか、どういう事ぉぉぉ?!
細い木を思わず掴んだ甲斐もなく、湿度が上がったのも手伝って体重を支えられずにつるりと滑り、即座に落下する。
僕達の周りを霧が覆ったせいかニーアの反応が遅れて、僕に差し出された手も空振りした。
「ちょっ、ニーア?!」
と、思ったらニーアが僕の方に飛んできてしまう。
「何、を、して、る、の?!」
「喋ると舌を噛みますよ」
ニーアはそのまま空中で僕を抱え、重力なんかお構いなしで突き出た先の尖った枝を避け、岩の小さな出っ張りなんかを器用に踏みつけて落下の勢いを殺しながら下に着地した。
ちなみに僕の言葉が途切れ途切れだったのは、踏みつけた時の衝撃のせい。
ちょっと心臓がバクバクしてる。
「お怪我は?」
「····うん、無いよ。
無いけど、視界も悪いのに一緒に飛び込んでニーアに何かあったらどうするの?!」
そのせいか、つい声を荒らげてしまう。
「申し訳ございません。
しかし私は護衛も兼ねた専属侍女。
指を咥えてお嬢様があまりにも無防備に落ちるのは承服しかねます」
けれどニーアの言う事は正しい。
それに彼女はA級の冒険者だから、状況判断だってきっと正しい。
上を見上げれば、ここは陥没穴だとわかる。
落ちた先にはどこかに抜けているかもしれない道がこの場所を起点にしたかのように、3方向へ延びている。
ちょうど分岐点になってて、脆くなってた天井に穴が空いたって感じかな?
かなりの高さから落ちたけれど、ここは魔法の世界だ。
ニーアの身体能力も高いから、何のトラップもないただの穴に落ちただけなら問題はない。
けど····そんなの結果論じゃないか。
また僕の専属侍女に何かあったらと思うと、ニーアは悪くないのに責める口調になってしまう。
「僕の不注意だったし、それはとっても申し訳ないけど、ニーアが怪我するかもしれないのは駄目じゃない?!」
「申し訳ありません。
ですがお嬢様は護衛対象なのです。
それにお嬢様」
ニーアがあえて強めの口調で僕を呼んで一呼吸置く。
「私はお嬢様との約束は違えません。
その為に常に鍛えております」
「········わかってるよ、そんなの」
ニーアは元々は他国からこの国に流れてきた竜人の流民で、その時は特殊な魔法に縛られててほぼ奴隷落ちみたいな状態だった。
ほぼって何だっていうのは、また機会があればね。
まあその時に縁があってたまたま助けたら、押しかけ女房ならぬ、押しかけ専属侍女になってしまった。
どれだけ拒絶してもずっとつき纏ってきて、寝ても起きても、何ならトイレから出てきても、常に3歩離れた場所に無言で立ってた。
言っておくけどリアルにそんなの日常で継続的におきてたら、ちょっとホラーだからね。
じわじわくる特有の怖さがあるやつだからね。
そのうち僕の家族もニーアを専属侍女にしようと応援し始めて、僕の分が悪過ぎる状況もあってそのまま押し切られた。
「主と定めたお嬢様ではなく、己の命を優先させる事。
常に肝に命じております」
「········わかってるもの」
だけどココの一件があって、どうしても僕の為に命をかけるような事だけは受け入れられなかった。
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